2025.01.20
「ソリッドベンチャーとしての株式会社エクストリンク」著者の視点
日本のベンチャー企業には、大規模な投資を受けて急成長を目指すスタートアップだけでなく、自己資金や事業収益をもとに着実に事業を拡大していく「ソリッドベンチャー」と呼ばれる企業群も存在しています。
ソリッドベンチャーとは、外部からのエクイティファイナンス(株式による資金調達)を大きく受けることなく、収益を再投資することで独立性を保ち、自社の強みを磨き上げながら成長を遂げていくタイプの企業を指します。
今回取り上げる株式会社エクストリンクは、まさにそのようなソリッドベンチャーとしての特徴を持つ企業といえます。
2012年の創業以来、一貫して自己資金による事業拡大を続け、ビジネスソリューション事業を起点として多角的な事業を展開してきました。
代表取締役の廣瀬 雄一氏のバックグラウンドや、同社が推進している人材育成、さらにはパートナー企業との協業による新規事業開発などのポイントを紐解きながら、同社の成長戦略を読み解いていきます。
本記事では、まずエクストリンクの創業期から事業多角化に至る背景や経緯を紹介し、そのうえで「ソリッドベンチャー」らしい経営哲学や資金調達の方針、そして若手人材を活用したスピーディーな経営戦略について深掘りしてみます。
企業概要と創業期の背景
創業当初の事業モデル
株式会社エクストリンクは、2012年に設立されました。同社が当初取り組んでいたのは、ビジネスソリューション事業を主軸とする事業モデルです。具体的には、企業の「営業力強化」や「業務効率化」を目的とした営業アウトソーシングや人材派遣などを提供し、顧客企業の成長に寄与するサービスを展開していました。
多くの企業にとって、新規顧客の獲得や営業活動の拡大は重要課題です。しかし、営業人員の確保やマネジメント、教育には大きなコストや手間がかかります。
エクストリンクは、そこで培ったノウハウと人材をもって代行・支援し、顧客企業が核心事業にリソースを集中できるようにする――これが創業当初の主な付加価値でした。
創業者のバックグラウンド
代表取締役の廣瀬 雄一氏は、高校卒業後にアルバイトで学費を稼ぎながら大学へ進学し、厳しい家計の状況を乗り越えてきた経験を持っています。この過程で「学歴ではなく実績で評価される世界がある」という点に気付き、営業職に魅力を感じたといいます。
その後、ベンチャー企業に就職した廣瀬氏は、努力を重ねて執行役員やグループ会社3社の社長を務めるまでにキャリアアップし、その企業が上場を果たす過程も経験しました。その成功を糧に、独立して立ち上げたのがエクストリンクです。
代表自身が「夢や目標を持つことの大切さ」を強く実感し、若い世代にも同様のチャンスを与えたいという思いが、同社の経営理念や人材育成方針にも色濃く反映されています。
ソリッドベンチャーとしての成長戦略
自己資金による事業拡大と独立性の維持
エクストリンクは創業当初から一貫して自己資金で事業を拡大しており、外部からのエクイティファイナンスを受けないことで、高い独立性を保っています。
ソリッドベンチャーの特徴としては、ベンチャーキャピタルや外部投資家の意向に左右されにくく、自社の理念や経営スタイルを貫く自由度が高い点が挙げられます。
外部資金を導入すると、その資金を急速に投下して市場シェアを取りに行く戦略を志向するケースも多いですが、そうした急拡大は往々にして社内体制の整備や人材育成が追いつかず、社風やサービス品質が崩れてしまうリスクを伴います。
エクストリンクは、営業アウトソーシングや人材派遣などの着実な収益モデルをベースに、利益を積み上げ、それを新規事業や人材育成に再投資する形をとってきました。
これは、一見すると爆発的な成長は見込めないかもしれませんが、長期的に見ると確実な経営基盤を構築することにつながります。営業請負事業で積み上げた実績と収益があるからこそ、新しいサービス開発や事業多角化にもチャレンジできるのです。
「最短で経営を学ぶ」:若手育成と抜擢の推進
エクストリンクの成長を語るうえで欠かせないのが、「最短で経営を学ぶ」をコンセプトとする若手人材の育成方針です。代表の廣瀬氏自身が若くして企業経営や上場経験を積んだという背景から、同社では20代からリーダーやマネージャーに抜擢されるケースが多く、実践的な教育プログラムやOJTを通じて急成長を促しています。
- 実績主義: 年齢や学歴にとらわれず、結果を出した人材に積極的に責任あるポジションを与える
- 挑戦の機会: 新規事業の立ち上げや既存事業の拡大フェーズで若手をリーダーに起用する
- 経営視点の獲得: 営業数字だけでなく、採算管理・組織運営なども含めて経営視点を身につけさせる
若い世代の熱意と行動力を活かして、事業や組織全体を高いモチベーションでドライブさせる。この戦略がエクストリンクの大きな特徴であり、事業拡大の原動力にもなっています。
事業の多角化と新規事業の創出
ビジネスソリューション事業からの新規展開
エクストリンクは創業当初からのビジネスソリューション事業で培った営業ノウハウや人材マネジメントノウハウをベースに、徐々に事業領域を広げてきました。その代表的な事例が、SHOP事業やWEBソリューション事業、リレーションマネジメント事業、さらにはパートナー事業です。
- SHOP事業
- 通信サービスの販売代理店として、携帯電話やインターネット回線などIT商材の提案・販売を行う
- 営業アウトソーシングのノウハウを活用し、店舗運営や接客、プロモーション活動を効率的に行う
- WEBソリューション事業
- 企業のWebサイト制作、システム開発、Webマーケティング支援などを行う
- クライアント企業のデジタル戦略を支援し、オンラインでの集客や販促効果の向上をサポート
- リレーションマネジメント事業
- 既存顧客との関係構築を強化するためのツールやサービスを提供
- CRMシステムの導入支援、顧客満足度向上施策のコンサルティングなどを行う
- パートナー事業
- 協業先やアライアンスパートナーとの連携によって新しい事業モデルを創出
- 既存事業とのシナジーを狙いながら、新市場や新サービスへの進出を加速
これらの事業はいずれも、ビジネスソリューション事業で培った営業力や人材活用のノウハウが基盤となっています。営業力というと、単に新規顧客を獲得するための手法を思い浮かべがちですが、エクストリンクの場合は「人を巻き込み、成果を出すための仕組みづくり」という包括的なスキルセットを有しています。
それを多角的に応用することで、通信販売代理店ビジネスからITソリューション、さらにはクライアントとのリレーション強化まで、幅広いサービスラインナップを展開できるのです。
多角化の成功要因
同社の事業多角化が成功している理由としては、以下のような要素が挙げられます。
- 営業 expertise を軸としたシナジー効果
すべての事業で「営業」という根本的な要素が存在し、顧客獲得・育成のフローや手法に共通点が多い。営業アウトソーシングや人材派遣で培ったノウハウが、他事業への展開を容易にしている。 - 若手リーダーのスピード感
新規事業を任された若手リーダーは、「失敗しても若さがあるから再チャレンジできる」というマインドで大胆に行動しがち。また、実践を通じて経営者的な視点を身につけ、事業を成長軌道に乗せられるケースが多い。 - 既存顧客の深耕と横展開
既存顧客への追加提案として、新しいサービスを横展開していくことで、顧客側も「エクストリンクなら他のサービスも任せやすい」と感じ、導入障壁が低い。これにより、多角化を効率よく進められる。 - パートナー企業との協業
自社の得意領域だけに固執するのではなく、パートナー企業の強みを取り入れて新規事業をつくりあげることで、リソース不足やノウハウ不足を補いながらスケールを追求できる。こうした柔軟なスタンスがエクストリンクの多角化を後押ししている。
ソリッドベンチャーの意義と課題
ソリッドベンチャーとしてのメリット
エクストリンクのようなソリッドベンチャーは、外部投資家からの圧力や大きな株式希薄化を受けにくいため、長期的なビジョンに基づいた事業運営が可能です。
また、自己資金で拡大を図る過程で、キャッシュフロー管理やコスト意識が自然と醸成されるという利点もあります。
同社の場合、廣瀬氏が若いころから営業の現場と経営の両方を経験し、上場ベンチャーで実績を積んだことが大きな強みとなり、社内にも「結果を出す」「若手を活かす」「挑戦を恐れない」というカルチャーが根付いたと考えられます。
爆発的な外資の力に頼らずとも、適正な範囲で組織をスケールし、収益を他の事業へ回すことで着実な拡大を実現してきました。
株式会社エクストリンクは、ビジネスソリューション事業をコアに、SHOP事業、WEBソリューション事業、リレーションマネジメント事業、パートナー事業など、多様な分野に進出しています。
創業当初から外部資金に大きく依存せず、自己資金と営業アウトソーシングなどの着実な収益モデルを軸に拡大を図ってきた同社は、「ソリッドベンチャー」の一例として注目に値します。
代表の廣瀬雄一氏が培ってきた「努力と実績を重視し、若くして責任を負う機会を得る」というベンチャー精神は、社員たちにも強く根付いています。若手の大胆な挑戦と経営視点の習得が、事業多角化のスピードを高めてきた背景には、創業者の成功体験と失敗からの学びが結集しているといえるでしょう。
ソリッドベンチャーとしての強みである独立性や組織文化を活かしつつ、今後さらに多角化を進めるなかで、どのように組織的なガバナンスや開発投資を行っていくかが注目されます。
人材育成と事業開発の両輪を回し続けることで、エクストリンクはより大きな市場機会を捉え、成長軌道を加速させる可能性を持っています。「最短で経営を学ぶ」というコンセプトは、若手にとっては挑戦しがいのある環境であり、経営者視点でイノベーションを起こせるチャンスにもなります。