2025.01.20
「ソリッドベンチャーとしての株式会社マーケットエンタープライズ」著者の視点
日本には、ベンチャー企業の中でも外部資金に大きく依存せず、独自の事業収益や自己資金をもとに着実に成長し、社会課題への取り組みや差別化戦略を通じて成功を収める企業群があります。
これらは一般的に「ソリッドベンチャー」と呼ばれ、急激な資金調達・短期的なEXITを狙うスタートアップとは異なる軌跡を描くことが多いのが特徴です。
ソリッドベンチャー企業は、自社のコアビジネスを軸に堅実な収益を積み上げ、その後に多角化・新規事業の開発へと広げていくことで、持続的な成長を実現するケースが多く見られます。
今回は、ネット型リユース事業やメディアプラットフォーム事業、モバイル通信事業など、多岐にわたるサービスを展開する株式会社マーケットエンタープライズについて、ソリッドベンチャー事例という視点から分析していきます。
2006年に創業し、乾電池のリユースやフリーマーケットサイトの運営からスタートした同社が、どのようにして上場を果たし、さらには多角的な展開に成功しているのか。その具体的な取り組みや成長要因、課題について深掘りしてみましょう。
創業の背景と当初の事業モデル
創業期の取り組み
株式会社マーケットエンタープライズは、2006年に小林泰士氏が創業しました。創業当初は、乾電池のリユース事業やフリーマーケットサイトの運営を手掛けており、「二次流通」をビジネスの軸としたのが大きな特徴です。
新品を販売する一次流通だけでなく、まだ使えるモノをもう一度市場に循環させる二次流通を通じて、サステナブルな社会づくりに貢献したいという理念が同社の根底にあったと考えられます。
リユース事業に注目した背景には、循環型社会を目指す動きや、消費者の間で不要品を売買する「フリマ文化」の浸透などが挙げられます。こうしたトレンドを先取りするかたちでビジネスを立ち上げ、徐々に家電や家具などの多様な品目を扱うようになり、買取サービスを拡大していきました。
創業者のバックグラウンド
代表取締役社長の小林泰士氏は、もともとリユースビジネスの可能性やインターネットを活用した二次流通に強い興味を抱いており、二次流通を中心にサステナブルな事業を手がけることをモットーとしていました。
乾電池やフリーマーケットなど、ニッチな領域でまずは手堅く収益を上げつつ、その後にリユース事業全般を扱うネット型のサービスへ移行していくことで、企業の成長基盤を固めていった点が印象的です。
成長戦略と資金調達
事業拡大の手法
マーケットエンタープライズは、二次流通のリユース事業を軸に成長しながら、徐々に取り扱う商材や対象エリアの拡大を行いました。たとえば、家電や家具、ホビー用品など、多種多様な中古品の買取・販売サービスをオンラインで提供し、ユーザーが気軽に買取依頼できる仕組みを整えます。
これらの取り組みにより、同社は創業からほどなくしてリユース市場での存在感を高めました。さらに、その実績やノウハウをもとに、メディアプラットフォーム事業やモバイル通信事業といった新たな領域への参入を進めていきます。
いずれの事業においても、インターネット活用とユーザー視点を強みにしている点が特徴的です。
自社資金と外部資金のバランス
創業当初は自己資金(および事業収益)でスタートしたマーケットエンタープライズですが、順調に業績を伸ばしたことで2015年に東証マザーズへ上場を果たしました。上場前には第三者割当増資により約2億円の資金調達を実施し、上場後は2021年に東証一部へと市場変更するなど、さらなる企業価値向上を図っています。
こうした外部資金を活用することで、システム投資やM&Aをはじめとする事業拡大のためのリソースを確保し、加速度的にサービスラインを増やせたと考えられます。
一方で、創業からの段階的な黒字経営と、リユース事業の堅実な収益を背景に、安定感を持ちながら成長してきた点はソリッドベンチャー的ともいえるでしょう。
事業の多角化
ネット型リユース事業の拡大
マーケットエンタープライズのコア事業であるネット型リユースは、モノの売買をオンラインで完結させる仕組みを整えることで、従来のリサイクルショップや中古品買取業者とは異なるユーザー体験を提供してきました。
店舗の在庫リスクや人件費を最小化し、全国のユーザーから買取を集めることで品揃えも拡充。さらに、査定や検品、配送などを自社で仕組み化することにより、高い利便性とコスト競争力を両立させた点が強みとなっています。
メディアプラットフォーム事業
ネット型リユース事業で蓄積したノウハウを生かし、メディアプラットフォーム事業にも乗り出しました。具体的には、「ReRe」と呼ばれる中古品の買取・販売情報サイトの運営や、ユーザーがモノを売りたい・買いたいというニーズをマッチングさせるプラットフォームを提供。サイト内のコンテンツを拡充することでSEO対策を行い、検索からの流入を得る仕組みを確立しています。
また、メディア運営においては商品・サービスの紹介や比較記事を掲載し、ユーザーが必要な情報をスムーズに得られるように工夫。こうした情報の価値を高めることで、広告収益の獲得や、新たなクロスセル機会の創出につなげています。
モバイル通信事業
さらに興味深いのが、モバイル通信事業です。格安SIMサービス「ReMOBA」を提供することで、ユーザーの通信コストを抑えつつ、スマートフォンやモバイル回線を用いた新しいライフスタイルを提案しています。ネット型リユース事業やメディア事業とは異なる領域のようにも見えますが、いずれも「ユーザーのコストを下げ、利便性を高める」というコンセプトを共有している点で、一貫性があるといえます。
また、通信サービスとリユース事業のシナジーとして、スマホ端末の買取・販売促進や通信契約とのセット販売など、多角的な販売チャネルの可能性が考えられます。このように、新規事業を立ち上げる際は既存事業とのシナジーを意識しており、ソリッドベンチャーらしい着実な展開が見られます。
海外事業への進出
国内においては、すでに全国に20拠点以上を展開しているマーケットエンタープライズは、海外市場にも目を向けています。特に、東南アジアの国々では中古品の需要が高まりつつあり、日本の中古市場ノウハウが活かせる可能性があります。
こうした海外展開により、リユース事業や中古品プラットフォームをグローバルに広げていくことで、さらなる成長余地を目指しているのです。
成功要因とソリッドベンチャーとしての特徴
二次流通への先見性とビジネスモデル
まず、マーケットエンタープライズの成功要因として挙げられるのは、リユース市場にいち早く目をつけた先見性です。国内ではまだリユース=中古品売買が大手企業の主戦場とまではなっていなかった時期に、同社は乾電池やフリーマーケット運営など、ニッチだけれど確実な需要があるところからビジネスをスタート。そこから徐々に商材を広げ、ネット型リユースという形でプラットフォーム化を進めていきました。
二次流通市場は、サステナブルな社会の実現に寄与するという社会的意義と、消費者の節約志向を同時に取り込める点が強みです。マーケットエンタープライズはそのメリットを最大限に活かし、事業を着実に拡大させることでキャッシュフローを安定させてきました。
多角化とシナジー効果
同社はリユース事業のみにとどまらず、メディアプラットフォーム事業やモバイル通信事業を立ち上げ、複数の収益源を確立しています。これにより経営リスクが分散されるだけでなく、各事業間でユーザーやリソースを共有するシナジー効果が期待できます。
たとえば、モバイル通信事業で獲得した顧客に対してリユースサービスを提案し、使わなくなったスマートフォンを買い取ることも可能になるでしょう。
また、メディアプラットフォーム事業では、リユース事業で得た中古品に関する豊富な情報や価格動向データなどをコンテンツとして活かすことができます。こうした多角化戦略が成功しやすいのも、自社のコア・コンピタンス(リユースノウハウ・オンラインマーケティング力)を明確に持っているからこそでしょう。
ソリッドベンチャーとしての安定感
マーケットエンタープライズは一見、多角的に事業を展開するアグレッシブなスタートアップのようにも見えますが、創業から一定の自己資金による成長と、徐々に外部資金を呼び込む形を取りました。
早期に大きなVC資金を得てハイリスクな拡大路線を走ったわけではなく、堅実に収益を伸ばしてきた点はソリッドベンチャーの典型的パターンといえます。
上場を果たした後も、リユース事業が堅調な利益を支え、メディア事業や通信事業といった新規事業を拡大する余地を生み出しています。
外部資本に引きずられることなく自社の理念を追求しながら、上場によって得た信用力や資金を有効活用して事業領域を広げる。このバランス感覚が同社の特徴です。
株式会社マーケットエンタープライズは、ネット型リユース事業から始まり、メディアプラットフォーム事業やモバイル通信事業に至るまで、多角的な成長を遂げているベンチャー企業です。2006年の創業当初は乾電池やフリーマーケットというニッチ分野にフォーカスしながら、堅実に収益を上げ、そのキャッシュフローを活かして新規事業や上場に踏み切るなど、着実な拡大プロセスを歩んできました。
本来、ベンチャー企業と聞くと、外部資金を大量に調達して急成長を狙うイメージが強いかもしれません。しかし、マーケットエンタープライズはソリッドベンチャーとして、自らのリユースノウハウとオンラインマーケティング力を武器に、自社の強みを活かした事業展開を積み上げている点が注目に値します。
もちろん、東証マザーズ上場や東証一部への市場変更を果たす過程で外部資金を活用していますが、それでも創業以来の核心となる事業モデルを軸に、自力でキャッシュを生み出す姿勢がうかがえます。
ソリッドベンチャーとしての底力を武器に、新たな事業領域やグローバル展開を通じて、どこまで事業を拡大できるのか—その歩みは、持続可能な社会を目指す多くの企業にとって、1つのモデルケースとなり得るのではないでしょうか。