2024.11.21
「ソリッドベンチャーとしてのGENOVA」著者の視点
近年、スタートアップ界隈で注目されている概念に「ソリッドベンチャー」というものがあります。これは、大幅な赤字を容認して一気にスケールアップを狙う“ハイリスク・ハイリターン型”とは異なり、まずは地道に黒字を確保しながら堅実な事業基盤を作り、必要に応じて外部資金やM&Aを活用しつつ、持続的な成長を追求する企業を指します。
ソリッドベンチャーの特徴は、無理な赤字拡大をせず、自己資金もしくは少額の調達からスタートし、軌道に乗ってから大きく投資をする点です。着実なキャッシュフローと段階的な投資のバランスをとりながら、新たな事業機会を柔軟に探るため、リスクを抑えながらも確実に事業領域を拡大していけるのです。
本記事では、医療業界の課題に着目してITを活用したサービスを提供し、2020年にマザーズ上場を果たした「株式会社GENOVA(ジェノバ)」の事例を紐解いていきます。
医療分野に特化してホームページ制作からスタートし、医療DXやオンライン診療など多彩な事業に発展させてきた同社は、まさにソリッドベンチャーの王道を歩む企業と言えるでしょう。
会社概要と創業期
会社情報
- 会社名:株式会社GENOVA
- URL:https://genova.co.jp/
- 代表者名:平瀨 智樹(代表取締役社長)
- 設立:2005年7月
本社は東京都中央区。医療機関向けのウェブサイト構築をはじめとしたITサービスの提供から始まり、現在ではオンライン診療や医療データ分析、医療機関向け経営支援など、幅広く医療現場を支える事業を手掛けています。
2020年には東京証券取引所マザーズ市場(当時)に上場し、さらなるサービス拡充・研究開発投資を進める姿が注目を集めています。
創業当初の事業モデル:医療事業者向けホームページ制作
GENOVAの始動は2005年7月。代表の平瀨智樹氏は、ITベンチャー企業の創業メンバーとして在職した後、アメリカ留学を経て帰国。「医療業界をITの力で活性化したい」という思いから起業し、まずは医療事業者向けのホームページ制作を中心としたサービスを始めました。
当時は医療現場でのIT導入が遅れている状況もあり、医療機関が自院の情報をわかりやすく発信したり、患者さんとのコミュニケーションを強化したりする手段として、ウェブサイトやオンライン予約システムなどが十分に整っていなかったのです。
ここに目を付けたGENOVAは「医療×IT」にフォーカスし、比較的リスクの低いホームページ制作から堅実に収益基盤を築いていく道を選びました。
ソリッドベンチャー的成長戦略
1. 自己資金で堅実に始め、医療特化のノウハウを蓄積
GENOVAは創業当初、自己資金をベースに事業をスタート。特に医療機関向けホームページ制作というニッチ領域は、大手が積極的に参入しにくい分野だったため、一定の需要を確実につかみやすかったわけです。
ここで着実な黒字を生み出しながら、医療業界の規制や現場の課題、医師やスタッフが抱えるニーズなどをじっくりと学習できたことが、後の大きな展開に繋がりました。
このように、あえて大きなVC投資などに頼らず、受託型の事業モデルを堅実に回すことで、短期間で倒産リスクを負わずに済んだのはソリッドベンチャーならではといえます。また、医療特化という集中戦略をとったことで、業界内での認知を早期に高めることに成功しました。
2. 事業拡大に合わせた外部資金調達
ホームページ制作事業が軌道に乗り始めると、より大きな投資や新規サービス開発のために、ベンチャーキャピタルなどから外部資金を調達しています。医療機関向けITサービスの拡充には、システム開発コストや営業体制の強化が必要であり、自己資金だけでは時間がかかる場合も少なくありません。
そこで、タイミングを見計らって外部資金を導入することで、資金面の安定と成長スピードの向上を実現しました。
その結果、デジタル化の進む医療現場でニーズが高まっていたオンライン診療システムや、製薬会社向けのマーケティング支援など、周辺事業への横展開が一気に進み、会社としての総合力が高まっていったのです。
3. 2020年の上場:さらなる成長へのステップ
そして大きな節目として、2020年に東京証券取引所マザーズ市場へ上場を果たしました。上場により得た資金を、さらなる研究開発や新規事業開発に投資することで、医療分野のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する立場を強化。
ソリッドベンチャーの理想的パターンともいえる「まずは自己資金+小規模調達で実績を積む → 拡大期に外部資金を導入 → 上場してさらなる投資余力を確保」という段階的成長を具現化した事例と評価できます。
事業の多角化と新規事業
1. ホームページ制作からオンライン診療システムへ
創業期の主力は、医療事業者向けホームページ制作でしたが、医療機関のデジタル化ニーズの高まりを捉え、オンライン診療システムやスマートクリニック事業へと展開。医療機関がオンライン診療を導入できるように、予約システムやビデオ通話、電子カルテとの連携などをパッケージで提供し、患者と医師双方の利便性を高めるサービスを打ち出しています。
特に高齢化社会が進む中、通院が困難な患者さん向けの遠隔診療ニーズは急拡大しており、COVID-19による感染リスクを回避する観点でもオンライン診療が一気に普及。GENOVAがこのトレンドに乗り遅れなかったのは、創業以来、医療業界の現場ニーズに密着していたからこそ可能になったわけです。
2. 医療機関向け経営支援とデータ活用
また、ホームページ制作やオンライン診療以外にも、医療機関向け経営支援サービスや、製薬会社向けのマーケティング支援も展開。具体的には、診療予約システムの導入コンサル、患者の満足度調査、医療データの分析から経営改善策の提案を行うなど、多面的なアプローチをしていると見られます。
さらに、AIやビッグデータを活用した製薬企業向けのマーケティング支援や創薬支援など、医療分野の最先端技術を視野に入れた新規事業にも積極的にチャレンジしているのが特徴です。
特化型ベンチャーとして培ったノウハウを中心に周辺領域へ拡張する形で、多角化を進める理想的な展開と言えます。
3. 規制の多い医療業界の壁をどうクリア?
医療業界は法規制や倫理的観点が非常に厳しく、ITサービスを導入するハードルは高めです。GENOVAは、創業以来培った医療分野の専門知識や現場とのコミュニケーション力を活かし、コンプライアンスを重視したサービス開発を実践。規制面に配慮しながら機能を追加・調整する形で、ユーザーの信頼を得ていると推察されます。
こうした規制対応はスピード感を損ないがちですが、ソリッドベンチャーの特性である「堅実な成長」も相まって、無理な機能拡張を行わず、しっかりと法規制をクリアしながら着実に範囲を広げている点が成功の鍵になっているのでしょう。
市場・地域
1. 医療IT市場
GENOVAが狙う医療IT市場は、人口高齢化、医療費の高騰、慢性的な医師不足など、構造的な課題が山積しており、今後ますますITの力が求められる領域です。電子カルテや遠隔医療、医療データ分析などの需要は右肩上がりで、政府も支援策を打ち出していることから今後も拡大が見込まれます。
オンライン診療の普及やスマートクリニック事業での実績が高まれば、保険診療の制度改定や法規制の変動に左右されるリスクはある一方で、患者・医療従事者ともに「IT活用による効率化と利便性」を感じる場面が増えるため、そこに最適化したソリューションを提供するGENOVAの事業チャンスは大きいといえます。
2. 全国対応と今後の海外視野
本社は東京・中央区にあり、サービス提供は日本全国に向けて展開している模様。遠隔医療の発展で地域を問わず受注が可能になることから、地方の中小病院やクリニックにも積極的にアプローチをしていると考えられます。
また、医療規制の異なる海外市場への進出も視野に入れているようです。海外へ展開できればスケールメリットを得られる一方、各国の医療制度・規制をクリアするノウハウが必要となります。
しかし国内で培った経験と、上場企業としての資金力を背景に、アジアなどの需要が伸びる市場でチャンスを狙う可能性があります。
失敗事例や課題
医療分野は他業種と比べて規制や倫理基準が厳しいだけでなく、医療従事者や患者といった多様な利害関係者の調整が不可欠です。GENOVAも過去に、新規事業を試験導入したが制度面でのハードルに直面し、撤退や大幅な修正を余儀なくされたケースがあると報じられています。
また、ITサービスが普及するペースに法整備が追いつかない部分もあり、何が合法で何がグレーゾーンか判断に迷う局面もあるでしょう。こうした不確実性の高い環境下で、GENOVAはコンプライアンスを最優先しながら一歩ずつ事業を成長させてきたことが、ソリッドベンチャーとして安定成長を遂げる秘訣とみられます。
そのほか、コロナ禍でオンライン診療が急拡大した際にはサービス提供体制の拡充が追い付かず、一時的な混乱が生じた可能性も否めません。企業が大きく成長するフェーズにありがちな、採用やオペレーション面での負荷が課題として浮上したことも十分考えられます。
もっとも、失敗や課題を通じてノウハウを蓄積し、新たな規制対応にも柔軟にアップデートしてきたことが、現在の強みにつながっているのです。
ソリッドベンチャーとしての考察
GENOVAが歩んできた道は、「医療事業者向けホームページ制作」で安定したキャッシュを得ながら業界の知識と実績を積み、それを足がかりにオンライン診療・医療DX・AI活用など広範囲へサービスを展開し、最終的には上場を果たすという、ソリッドベンチャーの典型的アプローチと言えます。
ポイントを整理すると、次の通りです。
- 創業初期は受託モデルで確実に収益を確保
- ホームページ制作など、比較的ニーズが見込みやすい分野でまず黒字を生み、リスクを最小化。
- 医療専門という集中戦略を採用することで、他社との差別化と業界信頼度向上につなげた。
- 成長フェーズで外部資金を導入し、新規事業に投資
- 医療現場から得た課題感を踏まえ、オンライン診療や医療経営支援など需要拡大中の領域へ一気に進出。
- 自己資金だけでなく、ベンチャーキャピタルからの調達や上場により大きな投資リソースを獲得。
- 医療業界固有の規制・倫理をクリアする知見が競合優位性に
- コンプライアンスや品質保証を第一としながら、段階的にサービス範囲を拡大。
- イノベーションと安定性のバランスを保ち、医療機関や患者への信頼を獲得。
- 失敗や法改正に柔軟に対応してアップデートを続ける
- 撤退や軌道修正を経ても、その経験を糧に新サービスを開発。
- ソリッドベンチャー的な地道なPDCAサイクルを回し続ける企業文化。
- 国内外を意識し、今後の拡大余地を確保
- 日本全国でのオンライン診療普及や高齢化対応を取り込み、将来的には海外展開も見据える。
- 事業リスクを分散しながら、多面的なグロースチャンスを狙う。
医療IT分野の中でも、ホームページ制作から始めるというローリスクな事業でしっかりと基盤を築き、オンライン診療や医療DXを軸に段階的に多角化を図って上場まで漕ぎつけたGENOVAの軌跡は、まさにソリッドベンチャーの典型例といえます。
ハイリスクな資本政策や巨大な赤字を積み重ねることなく、まずは顧客が明確に存在する需要を狙い、堅実な収益モデルを確保。そこから、医療機関が抱える深い課題を理解する中で、オンライン診療システムや経営支援サービス、AI解析など周辺領域に徐々に横展開していきました。このプロセスを支えるのは、医療業界における規制や信用問題をしっかり把握し、丁寧に対応し続けた姿勢でしょう。
結果として、法改正や市場環境の変化などの高い参入障壁が逆に競合参入を制限する形となり、GENOVAは自社サービスを拡充することに成功。外部資金導入や株式上場によって資本を厚くし、一層のサービス進化と研究開発へ投資を進めています。これは、ソリッドベンチャー的な“安定と攻め”の両立を見事に体現している事例といえます。
今後も、高齢化や地域医療の課題、さらにデジタル技術の急速な発展に伴い、医療分野のIT需要は加速度的に増していくでしょう。その中でGENOVAは、規制を理解しながらも攻めの姿勢を失わず、新規事業に積極的にチャレンジすることで、医療の未来を支えるイノベーターとしての地位を確立することが期待されます。
ソリッドベンチャーの手本として、さらにどのような成長を遂げていくか注目が集まるところです。