2024.11.21
「ソリッドベンチャーとしてのファインドスターグループ」著者の視点
スタートアップというと、急速な資金調達を行い、大胆な赤字覚悟で市場シェアを狙うモデルが注目されがちです。しかし近年、「ソリッドベンチャー」という概念が注目されています。
これは、過度なリスクを負わずに堅実な黒字経営を確保しつつ、必要に応じて段階的に投資やM&Aを行い事業を拡大していく企業を指す言葉です。ビジネスを安定的に維持しつつ、新規事業や多角化にも積極的にチャレンジする――そんな“安定”と“挑戦”の両立を実現するモデルがソリッドベンチャーの特色といえます。
今回取り上げる株式会社ファインドスターグループは、創業当初から外部の大規模資金調達(エクイティファイナンス)を行わずに自社資金で事業を回し、IT業界の変遷を捉えながら多岐にわたる事業を展開している企業です。
元々はダイヤルアップ時代に「ラインチェンジャー」を開発・販売するところからスタートし、インターネット広告やダイレクトマーケティング事業で成功を収め、現在ではグループ経営体制のもとメディア事業や投資事業にも積極的に展開。
ソリッドベンチャーらしい地道な自力成長と、多角的な事業拡大とのバランスが顕著に見られる例といえるでしょう。
会社概要と創業期
会社情報
- 会社名:株式会社ファインドスターグループ
- URL:https://findstar-group.co.jp/
- 代表者名:内藤 真一郎(代表取締役)
- 設立:1996年
本社は東京都渋谷区に所在。ダイレクトマーケティング、メディア事業、投資事業などをグループ各社で展開し、複数の事業会社を有する形でビジネスを拡大しています。
創業当初:ラインチェンジャーの開発・販売
ファインドスターグループの源流は、1996年に設立された(旧アレスト)会社において、インターネット接続アダプター「ラインチェンジャー」を開発したことに始まります。
創業当時はまだISDN回線やダイヤルアップ接続が主流の時代で、複数人が1つのISDN回線を共有できる製品は画期的でした。この技術的な優位性を背景に一定の収益を確保することで、後のインターネット広告分野への参入資金が蓄積されていきます。
創業者の内藤真一郎氏は、リクルート時代に営業職としてMVPを獲得するなど高い営業力を持ち、ベンチャー企業での経験も活かして、新しい領域への挑戦を続けてきました。いきなりリスキーな資金調達をせず、まずは自社の製品販売でキャッシュフローを得るという戦略は、まさにソリッドベンチャーの典型的な立ち上げ方といえます。
ソリッドベンチャーとしての成長戦略
1. 自己資金による地道な拡大
ファインドスターグループは創業時から一貫して自己資金で事業を進め、外部からの大規模な株式発行などによる資金調達は行ってきませんでした。
これは、いわゆるベンチャーキャピタルの出資を受けて一気にスケールアップするスタイルとは対極にあり、堅実なビジネスモデルと利益確保を重視していたことがうかがえます。
外部資本が入らないことで経営の独立性を保ち、短期的なリターンよりも長期的な事業拡大を目指せるのは、ソリッドベンチャーのメリットの一つです。
ファインドスターグループが採用したこの方針により、無理な赤字経営や株主からの圧力を回避でき、時代の変化に合わせて徐々に事業を拡大していくアプローチが可能になったわけです。
2. インターネット広告事業への進出
「ラインチェンジャー」の事業で得た成功を足がかりに、ファインドスターグループは2000年代に入る頃からインターネット広告事業に進出しました。特にSEO対策やリスティング広告、アフィリエイト広告など、当時まだ市場が拡大し始めた領域に素早く参入し、実績とノウハウを蓄積。
インターネット広告市場は競合も多く、技術トレンドや検索エンジンのアルゴリズム変更などのリスクがありましたが、ファインドスターグループは持ち前の営業力と柔軟な対応で顧客を獲得。ここで得た安定した広告事業収益がさらに事業多角化やグループ経営体制構築の後押しとなりました。
3. M&Aと新規事業創出
ソリッドベンチャーの特徴として、安定した黒字を確保しつつM&Aや新規事業開発を積極的に行うことで、時間をかけて成長を加速させる戦略が挙げられます。ファインドスターグループも、インターネット広告の実績をベースに他社の買収や新プロダクト開発を進め、グループ経営体制へ移行。
具体的には、ダイレクトマーケティング事業で通販企業や金融機関向けにWebマーケティング支援サービスを提供する会社をグループ化したり、メディア事業や投資事業の専門会社を設立するなど、多彩な分野への参入を行っています。
ここにおいても、派手な資金調達ではなく、自己資本や蓄積した広告事業利益を使って段階的にM&Aや新規事業立ち上げを行うのが特徴的です。
事業多角化と新規事業の開発
1. ダイレクトマーケティング事業の拡大
ファインドスターグループの成長の柱のひとつが、ダイレクトマーケティング事業です。通販企業や金融機関など、顧客獲得に課題を抱える企業を対象に、Webマーケティングを活用した顧客獲得支援やCRM施策を行います。
インターネット広告の運用ノウハウに加え、ランディングページの最適化や顧客データ活用など、一連のマーケティングソリューションをワンストップで提供するモデルが強みとなっています。
この事業の成功要因としては、広告事業で得た実績と人脈をうまく活かしながら、顧客の新たなニーズ(通販の成長やオンライン契約の普及など)を捉えたことが挙げられます。
2. メディア事業と投資事業
インターネット広告・ダイレクトマーケティングで利益を確保しながら、メディア事業や投資事業にも領域を拡大。メディア事業では自社メディアを運営したり、専門分野に特化したネット媒体を複数立ち上げるなどして、広告収入や有料課金モデルを模索しています。
一方、投資事業では成長が見込まれるスタートアップやテック企業に対して出資や事業支援を行い、グループ全体の成長に寄与させる戦略をとっています。自社が過去に培ったソリッドベンチャー的経営ノウハウを活かし、投資先企業にも安定的な事業拡大のノウハウを提供することが可能だと考えられます。
3. グループ経営体制のシナジー効果
現在のファインドスターグループは複数の子会社を束ねる形で経営を行っています。各社がそれぞれの専門分野(広告運用、メディア運営、投資、システム開発など)に強みを持つことで、シナジー効果を発揮。
例えば、新規顧客の獲得をダイレクトマーケティング会社が担い、プロダクト開発や運用は別のグループ会社が行うといった形で、収益とノウハウがグループ内で循環しやすい構造になっています。
また、グループ会社同士で人材や案件を融通することで、外部の経済環境変動にもある程度耐えられるリスクヘッジが可能です。これはソリッドベンチャーらしい長期的視点に基づく経営判断の成果といえます。
市場・地域
1. インターネット広告・ダイレクトマーケティング市場
ファインドスターグループの主要な事業であるインターネット広告やダイレクトマーケティング領域は、ECの普及やSNSの浸透によって常に伸び続けています。ただし、広告手法やアルゴリズムの変更が頻繁に起こる業界であり、最新の技術トレンドやプラットフォームの動向を追随できるかが勝敗を分けます。
グループとして専門性を磨いてきた結果、大規模企業から中小の通販会社、金融機関など多岐にわたる顧客基盤を有し、景気や消費者行動の変動にも柔軟に対応しているのが強みです。
2. メディア・投資市場
メディア事業では、ユーザーのニーズを的確に捉えた専門メディアの運営や、他社メディアとのアライアンスなどが不可欠。投資市場では、業界の最新動向や有望スタートアップを見極める力が求められます。
ファインドスターグループは、広告・マーケティングの視点から、成長企業への支援やシナジー創出を狙う投資を行うことで、新たな収益源の確保や将来のグループ拡大にも繋げようとしています。
3. 地理的範囲とグローバル展開
本社は渋谷区にあり、主に国内のインターネットマーケティング市場を中心にビジネスを展開しているとのこと。海外市場への参入が進んでいるかについては情報が限られますが、日本国内でのインターネットビジネスはまだ伸び代があり、そこに注力するのが現段階での現実的な戦略といえるかもしれません。
今後、海外EC市場やアジア圏の広告市場に興味を持ち、進出を目論む可能性は十分にありますが、それには各国の規制や文化への対応が必要となるでしょう。ソリッドベンチャーとしては、無理に急拡大するよりも、国内市場で確固たる地位を築きつつ、段階的に海外展開を検討する可能性が高いと推察されます。
失敗事例や課題
ファインドスターグループはインターネット業界の激しい変化の中で事業を拡張してきたため、新規事業の失敗や、競合が増えたことによる顧客の奪い合いなど様々な課題に直面してきました。具体的には、急速なテクノロジー変化に対応が遅れた時期があったかもしれませんし、グループ会社間の連携強化や人材育成の仕組みが追いつかず生産性が低下した可能性も考えられます。
しかしながら、同社は失敗から学びながら改善を重ね、グループ全体でノウハウを共有し、より強固な事業基盤を築いているようです。ソリッドベンチャーの強みは、リスクを分散させながら段階的に事業を広げるため、大きな痛手を負ってもグループ全体でリカバリーしやすい点にあります。
ファインドスターグループに見るソリッドベンチャーの本質
ファインドスターグループは、創業時に開発・販売した「ラインチェンジャー」でしっかりと初期のキャッシュフローを得た後、インターネット広告へ参入し、その成功をテコにダイレクトマーケティングやメディア、投資事業へと多角的に展開してきました。
最大の特徴は、一貫して外部資金を頼らず自己資金で事業を拡大してきた点です。これは以下のようなソリッドベンチャーらしさを示しています。
- 地道なプロダクトやサービスで黒字を作り、無理なく拡大
- 創業者の営業力やITの知見を活かし、当時のニーズに合った「ラインチェンジャー」をヒットさせる。
- その利益を基に新事業に投資しつつ、徐々にインターネット広告事業へと広げる。
- 外部株主がいないため、長期的視点で経営可能
- 短期的なリターンを迫られず、自社の考えるタイミングでM&Aやグループ経営を進められる。
- 変化が激しいIT業界で、柔軟かつ継続的な新規サービス開発が可能に。
- M&Aや新規事業創出を重ね、グループ経営でシナジーを創出
- インターネット広告のノウハウを活かし、ダイレクトマーケティングやメディア事業を次々と成立させる。
- 各グループ会社が専門性を発揮し、リスクを分散しながら全体として成長。
- 失敗や市場変化に対して、堅実な経営基盤でリスクヘッジ
- インターネット技術や広告手法が急変しても、複数の事業で安定収益を確保しているため一撃での撤退は不要。
- 過去の失敗事例から学んだノウハウを蓄積し、グループ全体のレベルアップにつなげる。
結果として、ファインドスターグループはソリッドベンチャーの王道を歩みながら、多様な事業領域に安定感を持って進出。
外部資金に依存しないで拡大できるというのは、経営判断の自由度が高く、イノベーションを継続しやすいという強みを持っています。激変するIT市場の中で自力で生き残ってきた同社の戦略は、これから起業を考える人々や既存企業の多角化を模索する経営者にとって、大きな示唆を与えるでしょう。
ソリッドベンチャーの本質は、地道に利益を生み出す仕組みを作り、その土台の上で新たな挑戦を重ねること。
ファインドスターグループの歩みがまさにその姿勢を体現しており、今後も日本国内のEC、ダイレクトマーケティング、メディア投資といった分野で存在感を一層高めていく可能性は十分にあると言えます。