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既存事業で土台を強化する“ジワ新規”が築くソリッドな成長戦略
公開日:2024.11.18
更新日:2025.4.15
筆者:エンジェルラウンド株式会社 大越匠

企業が新規事業を立ち上げる際、一気に大きな勝負に出る方法だけが正解とは限りません。むしろ、既存事業の強みを活かしながら少しずつ新しい分野を開拓していく“ジワ新規”こそ、安定性と柔軟性を兼ね備えた理想的な戦略になり得ます。土台をしっかり固めながら、新しい市場への足がかりを少しずつ築くことで、リスクを最小化しつつも着実に成長への道を切り開く──このアプローチが、ソリッドなビジネス拡張を目指す多くの企業にとって有望な選択肢となるのです。
ハイライト
- 既存ビジネスの信頼や顧客基盤を活用して、新領域への挑戦をスムーズに進める
- “ジワ新規”でリスクと負担を分散し、組織的プレッシャーを軽減しながら成長する
- 社内リソースや強みの再活用によるシナジー効果で、持続的かつ効率的な事業拡大を実現
“ジワ新規”とは何か?──小さな一歩を積み重ねる戦略
既存事業からの“信頼”を新規チャレンジに活かす
企業が新規事業に踏み出すとき、ゼロベースで未知の市場に飛び込むのは大きなプレッシャーが伴います。一方、既存事業が既に成熟していて顧客からの信頼を確立している場合、そのブランドイメージを新規ビジネスにスライドさせることで“壁”を低くすることが可能になります。
- ブランド力や顧客ロイヤルティを転用できる
- 安心感があるため初期導入ハードルが下がる
たとえば、あるメーカーが長年の実績を誇る製品群を持っているとしましょう。新たに関連サービスを展開する際、過去の顧客に対して「信頼できる企業が新しいことを始めたなら試してみよう」という心理が働きやすくなります。実績がないベンチャー企業だと獲得に時間がかかる信用を、既存事業のおかげで部分的に“補完”できるわけです。
事例:ナイル社
ナイル社はSEOコンサルで培ったコア収益を元手に、デジタルマーケティングやメディア事業を徐々に拡張していきました。完全に新しいユーザーを開拓するのではなく、コンサルで繋がりのある企業や既存ユーザーを起点に拡大していくことで、安定した基盤を保ちつつリスクを抑えています。
“大勝負”よりも“小さなステップ”でリスクを分散
“ジワ新規”が生み出す緩やかな拡張
大規模投資を一気に行う新規事業は華やかに映りますが、結果が振るわなかったときの損失やダメージは甚大です。これに対して、“ジワジワ”と市場を探りながら事業を拡張するアプローチは、一度の失敗で会社の体力を大きく削るリスクを低く抑えられるのが大きな特徴。
- 試験的なリリースを行い、市場反応を吸い上げながらフィードバックを即座にサービス改善に繋げられる
- 大きくコケにくいため、投資したコストや時間を最小限に抑えられる
- 組織が柔軟に対応できる範囲で成長スピードをコントロールできる
事例:ボードルア社の段階的コンサル進出
ITインフラのSES事業で堅実に売上を積み上げていたボードルア社は、まずはエンジニア派遣で顧客との信頼関係を築きました。その後、徐々にITコンサル領域へと踏み込み、SES事業の延長線上に“ジワ新規”を展開。
- 初期から大規模コンサルに挑むのではなく、まずは顧客ニーズを細かく把握する
- 自社が持つエンジニアリングスキルや顧客基盤と組み合わせ、無理なく新しい収益源を作る
このように、最小限の投資かつ失敗リスクをコントロールしながら、事業の幅を広げるのが“ジワ新規”の妙。大きく賭けるだけが成長手段ではありません。
既存リソース×新規アイデアで生まれるシナジー
眠っている資源を再発掘する
意外に見逃されがちなのが、すでに社内にある技術・人材・インフラなど“使える資源”をうまく再利用すること。新規事業をゼロから構築するよりも、既存のノウハウや資産を一部流用すれば、コストを抑えながらスタートダッシュを図れます。
- 物流網が新規配送サービスに転用できる
- コールセンター機能が新サービスのカスタマーサポートに活きる
- 顧客データを分析して新しいプロダクト開発に生かす
事例:ユナイトアンドグロウ社の会員制シェア戦略
ユナイトアンドグロウ社は中堅・中小企業向けのIT支援をコアに利益を確保。そのうえで、会員制ビジネスへ横展開を行いました。
- ITサポートで培った対応力をそのまま新サービスにも展開
- 既存顧客の満足度を高めながら、新規顧客にも提供価値を広げる
こうしたリソースの“掛け算”によって、一つの資産を複数の事業にまたがって活用するシナジーが生まれます。新たな投資を最小限に抑えつつ、ビジネスの幅を広げる鍵と言えます。
“ジワ新規”で得られる3つのメリット
メリット①:リスク管理がしやすい
少しずつ段階を踏むため、大失敗の可能性が低く、投資回収計画にも柔軟な修正が利きやすいです。
メリット②:組織のストレスを軽減
大規模プロジェクトだと部署間の連携やリソースの調整が混乱しがちですが、スモールステップであれば比較的スムーズな合意形成が期待できます。
メリット③:顧客満足度を維持しながら新規を拡大
既存のブランドや顧客との関係性が活きるため、信頼を損なわずに新サービスを展開できます。結果的に、新規事業の導入障壁が低くなるでしょう。
実践に向けたポイントと事例紹介
実績をベースに新規市場を広げる:ナハト社の例
ナハト社はWeb広告代理店としての実績を蓄積し、そこから派生する形でSNS広告やインフルエンサーマーケへとビジネスを拡張。急に全く新しい領域に突っ込むのではなく、既存事業の顧客やノウハウを横に展開することでリスクを抑えながら急成長を遂げています。
既存アセットを細分化して新商品化:C-mind社の戦略
通信代理店として強固な顧客基盤を持つC-mind社は、そこから得られるデータや営業ノウハウを活用し、複数の新サービス(「スリホ」「カリクル」など)を生み出しました。ハード(営業組織・顧客基盤)とソフト(独自企画・ユーザーインサイト)の組み合わせにより、ローリスクでの新規開拓を実践しています。
“ジワ新規”がもたらす持続的な成長
失敗の代償を小さく抑え、学習を積み重ねる
一度に大きく動きすぎると、失敗のインパクトも大きくなりがち。一方、少しずつ新市場へ広げるなら、もし期待通りの成果が得られなくても軌道修正のコストは最小限にできます。その過程で得た顧客のフィードバックやマーケットの動向を取り込めば、次のステップではより成功の確度を高められるでしょう。
組織全体が“柔軟さ”を身に付ける
“ジワ新規”を繰り返す企業文化が根付くと、組織は常に「どこに新たなチャンスがあるか」を探る空気感が生まれます。また、小さな成功体験を重ねることで、メンバーのモチベーションが安定しやすいのもポイントです。大きく失敗する恐れが減ることで、挑戦しやすい土壌が醸成されるのです。
核心事業のブランド価値を高める好循環
既存事業をテコにした新事業がうまく回ると、そこで得た信用や実績が逆に既存ビジネスへの追い風となるケースがあります。
- 新規サービスを利用する顧客が他のサービスに興味を示す
- 広がった認知度がメイン事業の評価をさらに引き上げる
安定したコアと、そこから派生する小さな枝葉が互いに補強しあう仕組みを築けるのが“ジワ新規”の醍醐味と言えます。
“堅実な挑戦”から始める未来への一歩
世の中には「大きく資金調達し、一気に市場を席巻する」華々しいスタートアップ事例が多く紹介されますが、それが唯一の成功パターンではありません。**既存のビジネス基盤を最大限に活用し、小さなリスクで少しずつ新市場を切り開く“ジワ新規”**こそ、多くの企業にとって実行しやすく、持続的な成果をもたらす方法といえます。
- 既存顧客の信頼を活かして導入障壁を下げる
- 社内にあるリソースやノウハウを再発掘し、コストを抑えながら新規を模索する
- 失敗リスクを最小化しつつ、段階的に市場を検証して拡大を図る
大規模な開発や投資を避け、まずは確実に稼げる“足場”を強化してから周辺市場へ広げる。こうしたアプローチは地味に映るかもしれませんが、着実なキャッシュフローを維持しながら長期的にビジネスを大きくしていく上では非常に有効な選択肢です。
持続的な拡大を見据えた“ジワ新規”のすすめ
華々しい一発勝負の裏にあるリスクを踏まえれば、自社が培った強みを守りながら少しずつ挑戦を重ねていく戦略はむしろ堅実で、安全度の高い成長パスと言えます。創業初期はもちろん、すでに一定の売上を上げている企業でも、今の事業をテコにした“ジワ新規”は極めて有効です。
目指すのは、「ある日突然の大成功」ではなく「長く続く企業価値の積み上げ」。あくまで無理せず、しかし着実に次のフィールドへ足を伸ばしていく姿勢が、ソリッドベンチャーの持つ最大の強みになるでしょう。そうした一歩一歩の積み重ねが、やがて企業全体を新しいステージへ導いてくれるはずです。を踏み出す余裕が生まれ、結果的に企業としての持続性と競争力を高めることにつながるのです。