ソリッドベンチャーのマーケティング戦略

公開日:2024.11.18

更新日:2025.1.10

筆者:エンジェルラウンド株式会社 大越匠

ハイライト

  • 狙う市場を明確化し、限られた資源で最大の収益を目指すターゲティングが重要。
  • 顧客を“応援者”に変える深いコミュニケーションでブランド価値を高める。
  • 既存顧客のリピート率と口コミを最大化し、低コストで安定的な成長を実現する。

ビジネスの成功を左右する大きな要素の一つが、どのようにして“顧客との距離”を縮めるかです。多額の広告費を投じる方法もありますが、ソリッドベンチャーにとっては効率重視がカギとなります。限られたリソースを効果的に活かして、顧客が自らブランドを応援したくなる仕組みをどうつくるか。ここにマーケティング戦略の核心が存在します。

まずは“どこ”で勝負する?市場を見極めた明確なターゲティング

ソリッドベンチャーは、大企業や急成長を求めるスタートアップとは異なり、初期段階からの収益性を重視します。そのため、マーケティング予算が限られているケースが多く、「どの市場を相手にするのか」を明確に定めることが最優先事項といえるでしょう。

幅広い顧客を狙うのではなく、徹底的に顧客セグメントを絞り込み、それに合わせた施策を展開することで、無駄な出費を減らしつつ最大限の効果を狙います。

市場ニーズの把握には、定性的なインタビューやアンケートだけでなく、統計データやSNSの検索キーワード分析など定量的なアプローチも欠かせません。こうした調査で得られた情報を基に、ペルソナを具体化し、顧客が抱える課題を言語化できれば、より的確なアプローチが可能になります。

結果として、リソースを最小限に抑えつつ、高い収益を得ることができるのです。

ターゲット市場を絞り込むメリットは、単にコストを削減できるだけではありません。セグメントを明確にすればするほど、「競合が気づいていないニッチ」を狙える可能性が高まり、差別化が容易になります。

特に、堅実な収益を重ねるソリッドベンチャーにとっては、こうした緻密なターゲティングこそが長期的な安定を生み出す原動力になるでしょう。

顧客をパートナーに——深いコミュニケーションで生まれる信頼

限られたマーケティング費用でも、顧客とのコミュニケーションを強化することでブランド価値を高めることができます。大企業のように全国的な広告キャンペーンを展開する予算がなくても、「顧客一人ひとりとの対話」を積み重ねることで、濃密な信頼関係を築くことが可能です。

具体的には、SNSやメールマガジンなどを通じて、顧客が感じている問題や要望にすぐに応答する体制を整えるのが効果的です。アンケートやオンラインイベントなどを活用し、顧客の声をサービスや製品の改善に反映すると、「自分たちの意見を大切にしてくれる企業」として認識されるようになります。

さらに、顧客が成功体験や良い評判をシェアしやすい場を用意するのもポイントです。オンラインコミュニティやユーザー会などで顧客同士が交流し、製品・サービスの価値を共感し合える空間を作れば、一層強固なファンベースが形成されるでしょう。

何より、顧客が“自分事化”して情報を広めてくれるようになれば、新規顧客獲得のコストが一気に下がるという大きなメリットを得られます。

既存顧客との“つながり”がもたらす低コストな成長

新規顧客獲得よりも、既存顧客の維持やリピートによる売上の方が遥かに低コストで、しかも安定しやすいのは周知の事実です。ソリッドベンチャーにおいては、この「既存顧客の活用」が一層重要となります。

リピーターの購買頻度アップやアップセル、顧客が口コミで新規顧客を連れてきてくれる仕組みづくりは、企業にとって強力な武器です。

顧客満足度を高めるためには、シンプルながら有効な仕掛けがいくつも存在します。たとえば会員制プログラムを取り入れたり、ロイヤルティが高い顧客に向けてカスタマイズされた特別オファーを用意したりするのも手段の一つ。

定期的なコンタクトを通じ、顧客の状況や変化を把握できれば、「次に何を提案すればさらに満足してもらえるか」が見えやすくなるでしょう。

事例:オールコネクト社が見せる“長期顧客”の活用法

オールコネクト社(2005年設立、2024年2月期のグループ売上は434億円以上)は、通信回線の代理店事業で足元の収益を積み重ねつつ、成約後のお客様との接点を徹底的に活かして新ビジネスに展開している企業です。

テレマーケティングを駆使し、購入後のフォローを継続することで、追加のサービス提案やサポート契約のクロスセルを可能にしてきました。顧客にとっては“売り切り”ではなく、困ったときにすぐ相談できる存在として見てもらえるので、長期的に関係を深められる仕組みになっています。

こうした“攻め”と“守り”の両面を顧客データの活用で支え、紹介やリピートを含む“低コストな成長”を実現している点が、ソリッドベンチャーらしい魅力です。

その先の安定成長へ——顧客視点に立ち続けるマーケティングの真価

ターゲティングの精度を上げ、顧客との対話を重視し、既存顧客からのリピートや口コミを活かす——これら三つの要素は、すべて「顧客中心の考え方」を徹底することで相乗効果を発揮します。

大きな広告を打たずとも、顧客視点を基盤にしたマーケティングを積み重ねれば、ブランドとしての信用と認知はじわじわと広がり、結果的に低コストかつ安定的な成長を可能にするわけです。

また、市場が変化する中でも、定期的に顧客からのフィードバックを得て施策の方向を修正する柔軟性を持つことが、長く生き残る企業の条件です。ソリッドベンチャーの強みはまさにここにあり、常に収益を確保しながら新しいチャレンジへ踏み出せる土台を保ち続けることができます。

カギとなるのは、「顧客はパートナーであり、自社の成功は顧客満足度の先にある」という意識を持ち続けることです。その姿勢がブランドイメージを高め、新規顧客獲得にも好影響を及ぼす——まさに、好循環が生まれるわけです。

強固なマーケティング基盤が築く未来への可能性

ソリッドベンチャーのマーケティング戦略は、派手な広告や革新的テクノロジーだけに依存せず、「ターゲット市場の明確化」「顧客との濃密な関係づくり」「既存顧客の口コミ拡散」を丁寧に積み上げるのが特徴です。

資金が潤沢ではないからこそ、顧客を単なる購買者ではなく“自社を一緒に育ててくれる仲間”として巻き込み、企業と顧客が互いに成長し合える環境を整えることが大切です。

このやり方は決して華やかではないかもしれませんが、長い目で見ればリスクを抑えながらじわじわと市場シェアを広げることができるでしょう。何より、顧客との信頼関係が盤石であれば、新サービスや新市場への進出も比較的スムーズに実現できます。

ソリッドベンチャーの本質は、安定収益を確保しながら、常に“次の一手”を打ち続ける事業体質を作ること。その土台に不可欠なのが、今回ご紹介したマーケティング戦略なのです。

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