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小さく始めて大きく成長、ソリッドベンチャーの拡大パターン
公開日:2025.01.07
更新日:2025.1.20
筆者:エンジェルラウンド株式会社 大越匠
資金調達を大きく行い一気に市場を制覇するスタートアップが話題を集める一方、無理のない規模で始めて確実に収益を積み上げる「ソリッドベンチャー」への注目が高まっています。急激な成長よりも、持続的な安定と段階的な拡大を重視する手法は、リスクを抑えながらも市場にしっかりと根を下ろすことが可能です。小さく始め、無理なく伸ばしていく――そんな堅実な道筋が、これからの起業家にとって有力な選択肢となり得ます。
ハイライト
- 小規模スタートでリスクを軽減しながら、市場の反応を見極める。
- 段階的な拡大により、安定収益と持続的な成長を同時に実現。
- ジワ新規の手法で、既存の強みを活かしながら新市場へ少しずつ進出。
リスクを最小限に――小規模スタートが持つ意味
ソリッドベンチャーのアプローチを理解するうえでまず外せないのが、「小規模で始める」ことのメリットとその背景にあるリスク管理の重要性です。世の中には、スタート段階から大きく資金を投下して一気にシェアを取りに行くスタートアップが数多く存在します。
しかし、急成長を図る路線には成功すれば大きなリターンがある一方で、失敗した際のダメージも非常に大きいという現実が伴います。
一方、小規模スタートを選ぶソリッドベンチャーは最初から大きな設備投資や固定コストを避け、まずは少ない資金と限られたリソースでビジネスモデルの有効性をテストする方針をとります。
この“実証”のステップを踏むことで、市場がどの程度その製品やサービスを受け入れてくれるのかを見極め、必要であれば方向転換もスムーズに行えるのが大きな特徴です。
さらに、小規模だからこそ経営者が現場の声を直接聞き取りやすく、顧客のフィードバックをもとに改善を重ねることで、より早い段階で完成度の高いサービスを作り上げやすいのです。
事例:ユナイトアンドグロウ社
中堅・中小企業向けのIT支援サービスを行うユナイトアンドグロウ社は、創業時から大規模な設備投資に頼らず、まずは会員制でシェアする「情シス部門の外注支援」という枠組みを小さく立ち上げました。そこで得た安定収益を土台に、少しずつサービス領域を拡大。
特にITに割ける予算が限られる企業層のニーズに合わせ、会員制や月額モデルなどの仕組みを導入したことで、リスクを抑えながら安定した顧客基盤を獲得しています。結果として、大規模投資に頼らなくても一気に失敗するリスクを避けつつ、堅実にスタッフ数やサービス展開を増やし、上場企業としての地位を築きました。
安定収益と拡大の両立――段階的成長を促す仕組み
ソリッドベンチャーが長期的に力を発揮するのは、「安定収益を確保しながら、一段ずつ事業領域を広げる」段階的成長の手法を用いているからです。
急激な成長と異なり、当初から収益を後回しにしないため、黒字が見込める分野でまずは足固めを行い、その後に周辺分野への展開を図ります。この安定的な収益基盤こそが、新たな挑戦を可能にする推進力となるのです。
具体的には、まず既存顧客から得たフィードバックをもとにサービスを最適化することで顧客満足度を高め、そこから次なる新規開拓に取り組むという流れが一般的です。
収益がしっかりと積み重なれば、その一部を新サービスや新市場への挑戦に投資できますし、その挑戦が失敗に終わっても経営基盤を揺るがすような大ダメージを追うリスクは低く抑えられます。
事例:ファインドスター社
広告代理店として一歩を踏み出したファインドスター社は、初期に確立したダイレクトマーケティング支援で安定収益を得てから、グループ会社を増やす形で事業領域を少しずつ拡大してきました。
自社が持つコアなマーケティングノウハウやクライアント基盤を活かして、より広い広告・PR分野に徐々に進出することで、リスクを限定しながらも確実に売上を伸ばしています。これにより、マーケット変動が生じた際にも根幹となる収益を維持しつつ、柔軟に対応する体制を確立しています。
新たな市場へ“ジワ新規”で進む――「大きく当てる」より「広げて活かす」発想
ソリッドベンチャーが採用する第三のポイントが、“ジワ新規”と呼ばれる段階的な市場拡大の戦略です。急拡大ではなく、既存ビジネスの基盤を活用しながら、無理なく新しい市場に参入するための手法といえます。
たとえば、既存顧客に近い分野の商品やサービスからテスト的に導入し始め、徐々にクチコミを広げて別の地域やセグメントに進出する形などが典型例です。
このアプローチでは、一気に大成功を収めるよりも「地固めしながら視野を拡大していく」点に重きが置かれます。既に確立した顧客との信頼関係を転用できるため、新規事業の初動を格段にスムーズに進められるという利点があります。
また、もし方向性が合わなかった場合でも、既存領域からの収益でダメージを緩和できるため、リスクの高い“ゼロイチ”事業立ち上げを繰り返すより心理的負担は軽く済みます。
事例:ギークリー社
フリーランスエンジニアのマッチングプラットフォームを主軸に展開するギークリー社は、IT人材領域で独自のモデルを確立し、そこで培ったクライアントネットワークをベースに複数のサービスを“ジワジワ”と広げています。
例えば、既存顧客が求める近接サービス(人材コンサルティングや新領域のプロジェクト支援など)に段階的に進出することで、急激な拡張によるリスクを回避しながら事業ポートフォリオを増やし続けています。急成長を狙うスタートアップとは一線を画すこの地道なやり方によって、業績と社会的評価を着実に向上させているのです。
大手・スタートアップと異なる魅力――ソリッドベンチャーが拓く新たな可能性
ソリッドベンチャーは、「急激な拡大を目指すスタートアップ」と「莫大な資本力を誇る大企業」との中間に位置し、独特の強みを備えています。多くの場合は大量資金に依存せず、外部投資家の意向に翻弄されることが少ないため、自社のビジョンや成長ペースを自分たちでコントロールしやすいというメリットがあります。
結果、組織文化の醸成や顧客との深いコミュニケーション、そしてリスクのコントロールをバランス良く行えるのです。
資金力では大企業に及ばず、スピード感ではスタートアップに勝てないかもしれませんが、安定した収益基盤をもとに、マーケットの変化に臨機応変に対応できる柔軟さを保持しているのがソリッドベンチャーの魅力。
少しずつ拡大するからこそ社員にも無理がかからず、学びをフィードバックして組織自体を強くしていく余地が大きいのです。結果として長期にわたり顧客からの信頼を得やすく、瞬間風速ではない“持続的な成功”を実現する可能性が高まります。