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収益を出し続けるソリッドベンチャーの収益モデルとは?
公開日:2024.11.18
更新日:2025.1.20
筆者:エンジェルラウンド株式会社 大越匠

急激な成長や大規模投資ばかりがもてはやされる一方、「少しずつ安定した収益を重ね、堅実に未来を築く」ソリッドベンチャーの魅力が改めて注目されています。実際、急成長型のスタートアップが抱えるリスクやプレッシャーを避け、着実な利益基盤をもとに事業を拡大していく姿勢は、長期的視点での持続可能な成功を目指す起業家にとって強力なアプローチとなり得るのです。
ハイライト
- 安定したニーズを的確に捉え、収益を積み上げる堅実なビジネスモデルが成長の礎になる。
- 初期投資を抑え、自己資金を活用することで経営の自由度を確保し、無謀なリスクを回避。
- 少しずつ拡大していくアプローチが持続可能な展開を可能にし、企業家に精神的余裕を与える。
安定収益を生み出すビジネスをどう選ぶか――市場ニーズの深掘りがカギ
ソリッドベンチャーにおいて、「安定した収益」の確保は命綱といえます。そのためには、確実な市場ニーズを捉えたビジネスモデルの選択が欠かせません。
- 既存かつ変動の少ない市場の狙い方:波の大きな最先端領域より、すでにニーズが明確化されている市場を狙うことで、予測不能なリスクを下げられます。長期間求められ続けるサービス(例えば、地域密着型のシステムサポート、必需品のネット販売など)が典型です。
- 顧客との接点を重視する:比較的ニーズが安定している分野で、顧客との直接的なコミュニケーションやフィードバックループを活かすことが成長の要となります。単に売るだけでなく、顧客の深い課題を解決するポジションを築くことでリピーターを獲得し、安定的な収益を得やすくなるのです。
事例:ジオコード社
ウェブ制作やSEO支援に特化しながら、創業から黒字を続け、2019年にIPOを果たしたジオコード社は、波の激しいネット業界で安定ニーズにフォーカスする戦略を取りました。派手な革新を追うのではなく、顧客が本当に必要とするウェブ集客やSEOコンサルを着実に提供することで、安定したキャッシュフローと堅実な成長を手に入れ、結果的にIPOも実現しています。こうした姿勢が、「安定収益を生み出す市場を正確に捉える」ソリッドベンチャーの好例といえます。
初期投資とリスク管理――自己資金活用で“無理のない加速”を手にする
次に注目すべきは、いかにして初期投資を抑え、自己資金を運用するかという点です。ソリッドベンチャーは、外部からの大規模投資をあえて避けることで、下記のようなメリットを獲得します。
- 経営の自由度を高める:投資家の期待に振り回されずに済み、成長スピードや新規プロジェクトの方向性も自社の判断で決定可能です。精神的なプレッシャーが少なく、企業としての独自性も維持しやすくなります。
- リスク分散と回復力の確保:大きな資金を外部から得ると、そのぶんリターンを急かされるプレッシャーも増大します。自己資金による堅実経営なら、一時的な失敗があっても打撃を最小限にとどめることができます。撤退や方向転換の決断が速く行えるのも特長です。
事例:M&A総研ホールディングス社
M&A仲介という高リスク・高リターンが見込まれる分野ながら、創業から迅速な資金調達をせず、当初の営業努力で少しずつ売上を積み上げ、後にIPOを実現。巨額の投資を受けるスタートアップが乱立するM&A・金融領域において、自己資金運営をベースに着実にプロジェクトを成功させ、「完全成功報酬制」など独自のモデルを展開することで地位を確立しました。大規模投資を受けずとも、ローリスクで成果を出し続ける好例といえます。
少しずつ成長するモデルがもたらす「息の長い成功」とは
スタートアップの多くが急激な成長を追い求める一方、ソリッドベンチャーは**“小さく生んで大きく育てる”**のが特徴です。なぜ、このような徐々に拡大するアプローチが有効なのでしょうか?
- 事業の継続性と信頼獲得:急成長を遂げたスタートアップがハイペースで資金を燃焼しつつ、短期的な成功を狙う一方で、ソリッドベンチャーは長期的な目線で着実に進むため、“この企業は続きそうだ”という安心感を顧客に与えます。その結果、リピートや口コミによる紹介が増え、収益が安定化します。
- 安定基盤がもたらす精神的余裕:急成長路線では成功と失敗の振れ幅が激しく、経営者の精神的負担は大きいです。少しずつ成長するソリッドベンチャーであれば、“大赤字”が一気に膨らむリスクを回避しつつ次の挑戦を行えるため、従業員や創業者の士気も保ちやすくなります。
事例:ファインドスター社
広告代理店としてスタートしたファインドスター社は、ニッチなダイレクトマーケティング支援を軸に、緩やかにグループ会社を増やして売上を拡大。確実に稼ぎを出せるコア事業を基点とし、同じ顧客基盤を活かせる周辺事業を少しずつ展開する「ジワ新規」アプローチを貫きました。急成長を強要せず着実な成果を重ねることで、15社を超えるグループを形成。リピート受注と収益の安定性で、長期的な飛躍を実現しています。
ソリッドベンチャーだからこそ掴める未来――大手にもスタートアップにもない勝ち筋
大資本を背景に持たないソリッドベンチャーは、一見するとスケールが物足りなく思われがちですが、実は大手企業や急成長型スタートアップにはない強みを活かせるポジションにもあります。以下の点に着目すると、新しい勝ち筋が見えてくるでしょう。
- 現場感度の高さ:規模が大きくなりすぎると顧客との接点が薄れ、細やかなニーズを見落としがち。ソリッドベンチャーは経営者自ら顧客や現場を間近で見ている場合が多く、それがビジネス改善や新規プロダクトのヒントに直結します。
- 環境変化に素早く対応:大企業ほど組織決定に時間がかかり、VC主導型スタートアップほど投資家の意向に振り回されることも少ないため、マーケットの変化に合わせてかじ取りを変えやすいです。
- 地盤が固いからリスクを取りやすい:安定的に回るコア事業があれば、新たなチャレンジをする際にも破綻のリスクが低く、思い切った投資や方針転換が可能になります。
事例:オロ社
創業時の受託事業で安定収益を築きつつ、社内用に作っていた業務管理ツールをERPとして外部提供して急伸したオロ社。自社のコンパクトさと強みを組み合わせることで、マーケティングソリューション事業とERP事業という二つの柱を確立。大手が築いた隙間を埋める形で緩やかに成長し、2017年にはIPOを果たしました。新プロダクト導入の際も、コアの受託事業があるからこそリスクを抑えて展開できた好例です。
「収益を出し続ける土台」こそがソリッドベンチャーの最大の強み
ソリッドベンチャーは、安定収益を生み出すビジネスモデル・自己資金重視のリスク管理・段階的な成長戦略という3要素を組み合わせ、負荷の少ない経営を実現しています。大きく勝負しづらい反面、経営者が資本や投資家の意向に振り回されずに済むため、長期にわたるビジョンを貫きやすいのも特徴です。
安定的なキャッシュフローをまず確保し、それを足掛かりに少しずつ新しい市場やサービスへ踏み出せば、「いきなり大勝負で失敗して会社が危機」という事態は起こりにくくなります。短期勝負のスタートアップのスピード感とは一線を画しながら、むしろ地味だけれど確実に顧客や市場を捕まえる――これこそがソリッドベンチャーの生き残りと発展の秘密といえるでしょう。大きな資金を動かさずとも、着実な利益基盤を武器にじりじりと地盤を固め、持続的な成長を遂げる道筋は、起業家にとって“精神的にも経済的にも安全な飛躍”を可能にします。
まさに、「最初から安定収益を生み出せるかどうか」がビジネスの成否を左右する大きな分岐点。大きな花火を打ち上げずとも、ソリッドベンチャーは地道な成功を築き上げ、長期にわたってビジネスを繁栄させるポテンシャルを秘めているのです。