2024.11.25
「ソリッドベンチャーとしての株式会社CBT-Solutions」著者の視点
自己資金をもとに事業を着実に拡大し、外部からの大きな資金調達に依存せずに成長を遂げてきた、株式会社CBT-Solutions(以下「CBT-Solutions」)は、コンピューターを活用した資格試験(CBT: Computer-Based Testing)事業を中心に、教育格差の解消や社会人の学び直し需要へ対応する多様なサービスを提供し、国内CBT市場において圧倒的なシェアを獲得しています。
本記事では、同社の創業期から拡大期に至るまでの戦略や事業多角化のポイントを、「ソリッドベンチャー」という観点で詳しく解説します。
ソリッドベンチャーとしてのCBT-Solutions
ソリッドベンチャーの定義
「ソリッドベンチャー」とは、大規模なエクイティファイナンス(株式発行による資金調達)やベンチャーキャピタルからの投資に過度に頼らず、自社のビジネス収益を再投資しながら着実に成長していく企業を指します。
外部資金が大きく入らないからこそ、経営者の意思決定において長期的な視点や社会課題の解決を重視しやすく、結果的に安定した経営基盤が築かれやすい傾向があります。
CBT-Solutionsが示す「ソリッドベンチャー」の特徴
CBT-Solutionsは、公開情報から見る限り、外部からの大量の出資を受けていないにもかかわらず、国内CBT試験事業の主要プレイヤーとして高いシェア(80%以上)を獲得しています。
この事業成長の背景には、資格試験の効率化や利便性を向上するITソリューションを自ら開発・運用し、資格試験実施団体や受験者双方が抱える課題を丹念に拾い上げ、解決してきた姿勢がうかがえます。
自社のキャッシュフローを回しながら事業拡大を実現し、少数精鋭で規模を着実に伸ばしてきた点に「ソリッドベンチャー」の特質が表れています。
企業の歴史と創業期
創業期の事業モデル
CBT-Solutionsは2009年5月27日に設立されました。創業時は、コンピューターを使った資格試験(CBT)事業をメインにスタートし、試験設計からシステム開発、運営、採点までを一括で提供するモデルを打ち立てました。
日本国内ではペーパーベースの試験が長い伝統を持ち、CBT化はまだ広く普及していなかった時代に「ITの活用による試験運営の効率化」を提案したことは非常に先進的でした。
創業者の背景とビジョン
代表取締役である野口功司氏は地方で育った背景から、「地方出身者が教育格差を経験する現状を変えたい」という思いを持ち、IT技術を活用して誰でも資格試験にアクセスしやすい環境を作ることを目指しました。
自分自身が教育格差を痛感してきたことが、CBT-Solutionsの事業モデルの根幹である「教育機会の平等化」や「学びの機会拡充」につながっています。
CBT事業自体は、試験団体がペーパーテストを委託するのではなく、コンピューター上で試験を行うためのシステム開発・会場運営・採点までを包括的に請け負う仕組みです。
野口氏はこの分野に着目し、「どこにいても公平に試験を受けられる環境」「受験者の負担を減らすシステム」「試験主催者の業務効率化」を同時に実現しようとしました。
結果的に、このビジョンが多くの試験主催団体から支持を得る要因となります。
成長戦略と資金調達
事業拡大の手法
創業時からのメイン事業であるCBT事業は、試験団体に対してワンストップでソリューションを提供する点が強みです。具体的には以下のプロセスで付加価値を提供しています。
- 試験設計コンサルティング
ペーパーテストからCBT化へ移行する際には、問題形式や試験時間、セキュリティ対応など、様々な検討事項が生じます。CBT-Solutionsは長年のノウハウをもとに最適な試験設計を支援。 - システム開発・運用
自社開発のプラットフォームを用い、問題作成、受験者データ管理、採点、結果分析などを一元管理できるシステムを提供。 - 会場運営・受験環境整備
全国360カ所以上のテストセンターを展開し、受験者が全国どこでも同一品質の試験を受けられる環境を構築。 - 採点・結果分析
CBTならではの迅速な採点と結果通知、データ解析によるフィードバックなど、高度な分析業務を提供。
このように付加価値が多岐にわたるため、試験団体が自前でCBT化を進めるよりも、CBT-Solutionsに業務を委託したほうが圧倒的に効率的という点が市場を獲得できた大きな要因です。
また、「全国の受験者が公平に受験できる」という理念を実現する体制(テストセンター数の充実など)を整備することで、競合他社との明確な差別化に成功しています。
外部資金調達の有無
公表されている情報では、CBT-Solutionsが大規模な外部資金を調達したという記録は見当たりません。創業当初から自己資金を基盤に事業を拡大してきたと推察されます。
このため、外部投資家からのリターン圧力や経営方針への強い干渉が少なく、野口氏が掲げる「教育格差をなくす」というミッションをブレずに追求できたと考えられます。
一方で、資格試験運営は比較的安定した受注ビジネスという側面があり、新規獲得した試験団体との契約が続くかぎり定常的な収入が見込めることも自己資金経営を可能にした要因の一つでしょう。
さらに、受験者数が安定していれば、キャッシュフローも予測しやすく、外部資金に頼らずとも継続的に事業を拡大することができます。
事業の多角化と新規領域
本業から派生した多様なサービス
CBT-SolutionsはCBT事業を基盤にしながら、下記のように資格試験運営に関連したさまざまなサービスへと事業を拡張しています。
- 試験運営総合委託サービス
試験設計~採点・分析までを一括サポートするトータルソリューション。 - 受験サポートシステム構築サービス
模擬試験システムやオンライン学習システムを開発し、受験者の学習効率を上げるサポート。 - 事務委託・印刷・データ処理・分析サービス
資料の印刷や申込受付などの間接業務もアウトソーシングできるように整備し、試験団体の負担を軽減。 - 資格・検定ポータルサイト「日本の資格・検定」
資格試験の情報を網羅するサイトを運営し、受験者が幅広い情報を得やすい環境を提供。 - 就職マッチングサービス・人材紹介サービス
取得した資格を活かしたキャリア形成を支援する。 - プロフェッショナルテストセンター
より専門的な試験が必要な領域に対応するテストセンターの運営。
これらのサービスはすべて「資格試験とそれを取り巻く受験者の課題」「試験主催団体の課題」に直結しており、既存顧客とのシナジーが高い形で多角化を進めています。
多角化の成功要因
CBT-Solutionsが事業拡張で成功を収めたポイントは、資格試験運営に関わるあらゆるプロセスを掌握できたことにあります。以下のような要素が挙げられます。
- 専門性の深化
資格試験にフォーカスし、ペーパーテストからCBT化への移行に必要なノウハウを蓄積。クライアントが抱える悩みに的確に応えられる体制を構築。 - 業務効率の追求と付加価値
単なるシステム開発にとどまらず、運用・分析・学習支援なども一括して行うことで、試験団体や受験者に対して高い付加価値を提供。 - 社会的意義の高さ
教育機会の平等化を目指すという社会的ミッションが明確であり、行政や教育機関からの信用を得やすい環境を作った。
市場と地域展開
資格試験市場とCBT化の需要
近年、国家資格や民間資格を含め、多種多様な試験が存在しています。IT技術の進歩や社会情勢の変化に伴い、試験をオンライン化/CBT化したいというニーズが急増しました。特に下記の要素が影響しています。
- 新型コロナウイルス感染症の拡大
ソーシャルディスタンスを保ちながら試験を実施する必要性が高まり、従来の大規模会場型試験からCBTへの移行を検討する試験団体が増えた。 - 受験者の利便性向上
ペーパーテストでは受験地や日程が限られることが多いが、CBTであれば全国各地のテストセンターと柔軟な受験日程を設定できるため、社会人や地方在住者にも配慮した運営が可能。 - コスト削減・効率化
大量の紙試験や人員配置のコストを削減し、採点ミスや物流の手間を削減できるメリットがある。
これらの背景から、CBT-Solutionsが展開するサービスは今後も高い需要が続くと見込まれます。
全国に展開するテストセンター
CBT-Solutionsは全国に約360カ所以上のテストセンターを展開しており、これがCBT化を検討する試験団体にとって大きな魅力となっています。
地方受験者にとっても、最寄りのテストセンターで試験が受けられるため、受験機会が飛躍的に増加します。大都市圏以外の受験者にも手厚く対応できる点が、教育格差の是正という創業者の想いと合致しています。
ソリッドベンチャーとしての意義
長期的視野による社会課題の解決
CBT-Solutionsは外部投資家の短期的な利益要求から自由な立場を維持できるため、創業者の野口氏が掲げる「教育格差をなくす」というミッションを長期的に追求しやすい環境にあります。
遠隔地や多忙な社会人が等しく資格試験を受けられる仕組みを構築することは、社会課題の解決にも大きく貢献しています。
持続的成長と安定性
自己資金を基盤として事業を拡大していることで、負債や出資者のリターン圧力が小さく、経営が安定しやすいと考えられます。
資格試験というシステムを一度導入すると、長期にわたって継続利用される可能性が高く、一定の収益基盤を確保しやすいのも特長です。
安定したキャッシュフローがあるからこそ、新規事業開発や各地テストセンターの設置など攻めの投資も可能となります。
ベンチャー文化と社会インフラ化
「ベンチャー企業=急速に巨大化するためにVCから莫大な資金を集める」というイメージがある一方で、CBT-Solutionsのように長期的にインフラを整備しながら成長する形もベンチャーの一つの形態です。
試験インフラとしての地位を確立したことで、今や多くの人にとって欠かせない存在へと進化を遂げています。
株式会社CBT-Solutionsは創業時から自己資金を元に、コンピューターによる資格試験(CBT)のワンストップサービスを提供し続け、国内で圧倒的なシェアを誇る企業へと成長しています。その背景には、以下のようなポイントが挙げられます。
- 創業者の社会課題意識
地方出身で教育格差を痛感した野口氏が「資格試験で教育の機会を拡大・平等化したい」という使命感を持ち、IT技術を活用する革新的な試験運営システムを確立。 - 多角的サービス展開
試験団体向けの総合委託サービスから、受験者向けの学習サポートシステム、就職マッチング、人材紹介に至るまで、資格試験を取り巻くあらゆるプロセスを一気通貫で支援し、シナジーを生み出している。 - 安定的な収益モデルと自己資金経営
試験業務の受託はリピート率が高く、安定したキャッシュフローを得やすい。外部投資家に依存しない経営体制により、長期的な視点で事業を展開。 - 全国360カ所以上のテストセンター網
都市部だけでなく地方にもテストセンターを整備することで、「どこからでも受験できる」環境を実現し、教育機会の格差是正に貢献。
資格試験という教育インフラ分野は規制やセキュリティなど乗り越えるべきハードルも多く、システム障害や試験漏洩などのリスクが常に付きまとう領域です。
しかし、CBT-Solutionsはこれらの課題と向き合いながら、社会ニーズに合致したサービスを地道に拡張することで成長を続けています。
今後もオンライン教育やリカレント教育(社会人学び直し)に対する需要が高まる中で、資格試験のCBT化はさらに進むと予想されます。
CBT-Solutionsはソリッドベンチャーとして、自己資金を基盤にしつつも市場をリードする立場を維持し、より高度なCBT技術や新規事業を展開していく可能性が高いでしょう。
「教育の格差をなくす」「受験者の利便性を高める」という創業理念を保ち続けながら、資格試験市場の未来を切り拓く姿は、多くのスタートアップや教育関連事業者のロールモデルになり得ると言えます。
以上のように、CBT-Solutionsは外部資本に振り回されず、資格試験のDX(デジタルトランスフォーメーション)を着実に進めてきたことで、堅実かつ独自性の高い成長を遂げてきました。
まさに「ソリッドベンチャー事例」として注目に値する企業の一つであり、これからも日本の資格試験と教育の在り方を変革し続ける存在であり続けるでしょう。