Crumbl Cookies(Crumbl, LLC)

事業内容

Crumblは「チョコチップクッキー」を中心にしたクッキー販売を行い、1枚4.25ドルという比較的高価格帯ながらも若者をはじめ多くの顧客を取り込んでいる。特にSNSマーケティングをフル活用し、一週間ごとにフレーバーが変わる“限定クッキー”を発売するなど、常に話題性を提供する手法で急成長した点が特徴。

CEO

ジェイソン・マクゴーワン(Jason McGowan)

元々はIT企業にてエンジニアとして働いていた。技術的な視点からオンライン注文システムやSNSマーケ手法に通じており、ビジネスの設計やテクノロジー活用をリード。

SNS

2025.02.03

Crumbl Cookies(Crumbl, LLC)

はじめに

近年、スタートアップや新興企業の中には、大掛かりな資金調達に頼らず「自社が生み出す収益」を基盤に事業を拡大する“ソリッドベンチャー”型の企業が注目を集めています。

クッキー販売で爆発的な成長を遂げたアメリカのCrumbl Cookies(Crumbl, LLC)は、その代表例と言えるでしょう。創業からわずか6年でフランチャイズ展開を通じて1,000店舗以上を抱え、全フランチャイズ合計で売上10億ドルを超える巨大ブランドに成長したことが大きな話題となりました。

本記事では、Crumblの成長過程やビジネスモデルを「ソリッドベンチャー」という観点から紐解いていきます。

業者の背景や初期のマーケティング戦略、資本政策(自社資金 vs. 外部資金)、さらなる新規事業への取り組みなどを探ります。最後に、急激な拡大ゆえに生じている課題や失敗事例と、その解決策についても考察します。

0. 会社情報

  • 会社名: Crumbl, LLC
  • 創業: 2017年9月
  • 本社所在地: アメリカ合衆国ユタ州
  • 代表者名: Jason McGowan(CEO)
  • 共同創業者・Chief Branding Officer: Sawyer Hemsley
  • 公式URL: https://crumblcookies.com/

Crumblは「チョコチップクッキー」を中心にしたクッキー販売を行い、1枚4.25ドルという比較的高価格帯ながらも若者をはじめ多くの顧客を取り込んでいます。特にSNSマーケティングをフル活用し、一週間ごとにフレーバーが変わる“限定クッキー”を発売するなど、常に話題性を提供する手法で急成長した点が特徴です。

1. 企業の歴史と創業期の情報

1-1. 創業当初の事業モデル

Crumbl, LLCは2017年9月、ユタ州で誕生しました。創業時のコアビジネスは、シンプルに「焼きたてチョコチップクッキーの販売」です。店舗を構えてテイクアウトとデリバリーを中心に展開し、主要顧客は大学生などのZ世代をターゲットとしたことがポイントでした。

  • 商品: 基本は巨大サイズのチョコチップクッキー。アメリカの1枚4.25ドルという価格は、コンビニ菓子よりも圧倒的に高いものの、SNSで映える大きさや見た目・味が支持を集めました。
  • 販売チャネル: テイクアウトに加え、デリバリーサービスを創業当初から採用。若者向け市場で宅配が普及しているアメリカのフード業界にフィット。
  • 主要顧客: 大学生や若い社会人。夜遅い時間でもクッキーを宅配するニーズに応えるほか、キャンパス付近への出店で集客を図りました。

「高価格帯クッキー+デリバリー」という事業モデルは、2016年創業のChip Cookiesなどが先行していましたが、Crumblはより大々的にSNSプロモーションを展開。結果的に短期間で圧倒的知名度を獲得します。

1-2. 創業者のバックグラウンド

  • ジェイソン・マクゴーワン(Jason McGowan)
    元々はIT企業にてエンジニアとして働いていた。技術的な視点からオンライン注文システムやSNSマーケ手法に通じており、ビジネスの設計やテクノロジー活用をリード。
  • ソーヤー・ヘムズリー(Sawyer Hemsley)
    ユタ州立大学にてマーケティングを専攻。高校・大学時代からイラストやデザイン、SNS運営にも関心が深く、Crumblのブランディング面で大きく貢献。

いわゆる製菓のプロではなかった両名がレシピを独学で磨き上げ、知人・家族を巻き込んだ試作テストを重ねて自信を持ったのがチョコチップクッキーでした。それを軸に初店舗を立ち上げ、SNSを使ったキャンペーン戦略で一気に若年層の支持を獲得したと言われています。

2. 成長戦略と資金調達の有無

2-1. 事業の拡大手法

Crumblが急成長した大きな要因は、SNSマーケティングフランチャイズ(FC)展開の掛け合わせです。

  1. SNSによるバイラル拡散
    • 創業時から、商品の見た目を重視。とくに“画面映え”する巨大クッキーや限定フレーバーの写真/動画を毎週更新
    • TikTok: 約930万人のフォロワー(2024年10月時点)
    • Instagram: 約590万人のフォロワー(同時点)
    • フォロワーへのPR動画がSNSでバズり、Z世代の若者に「行ってみたい」「写真を撮ってシェアしたい」と思わせる効果を連発
  2. フランチャイズを口コミで拡大
    • 店舗展開はほぼ口コミベースで「自分もCrumblを開きたい」というフランチャイズ希望者が殺到。
    • 2017年創業から2年で 254店舗を展開、数年後には1,000店舗を超えるとされる。
    • Co-Founderのジェイソン・マクゴーワン自身もインタビューで「フランチャイズ希望が勝手に増えていった」と述べており、宣伝コストをかけずに広域展開が実現。

フランチャイズで店舗網を一気に増やし、それぞれの店舗がまたSNSで地元ユーザーを巻き込み、さらに話題が拡散するという好循環がCrumbl成功の核となりました。

2-2. SNS戦略の具体例

  • 毎週“限定フレーバー”を公式サイトやSNSで発表
    • 「今週はストロベリーチーズケーキ」「来週はオレオクリーム」など週替わりメニューを発表し、ポップな動画を拡散
    • ユーザーは「今週の新クッキーを試さなきゃ」と購買意欲を刺激される
  • プロモーションビデオの拡散
    • 一定のフォーマットで繰り返し公開、ファンが自己流の食レポ動画を出すなどUGC(User Generated Content)も後押し

結果、SNSフォロワー数が爆増し、業界でも屈指の“ブランド発信力”を持つクッキー専門店へと成長します。

2-3. 資金調達:外部調達のタイミング

2017〜2021年: 完全に自己資金ベースでビジネスを運営し、米国全土に149店舗を出店する段階まで外部投資家を入れずに成長。

  • フランチャイズからのライセンス収入、ロイヤリティ、商品販売、デリバリーなどを合算したキャッシュフローを再投資し、新店舗やマーケ強化に充当してきたと推測されます。

2021年7月: GHPeterson Investmentsからエクイティ出資を受ける。

  • 具体的な調達額は不明だが、「急拡大に伴う運転資金確保のため」「システム強化や組織整備のため」と考えられる。
  • その後も基本的にはオーナー主導の方針が続き、ベンチャーキャピタル主体の大ラウンドは実施していないようです。

3. 事業の多角化や新規事業の開発

3-1. クッキー一本足打法?

Crumblは基本的に「チョコチップクッキー」を軸とし、週替わりフレーバーを投入する形で商品拡張してきました。いわゆる多角的な新規事業を大きく展開するわけではなく、クッキー一本に特化したビジネスモデルでブランドを確立。

ただし、2023年にパイ専門店 Crust Club を買収し、フランチャイズ化を計画しているため、今後はパイ事業も展開して「焼き菓子ブランド」としての幅を広げる可能性があります。

3-2. キャッシュカウと新規事業の関係

Crumblにおけるキャッシュカウは、言うまでもなく既存のフランチャイズクッキー店舗。ここから得られるロイヤリティやライセンス収入、商品原材料の仕入れ供給利益などが会社の主な収益源となっています。その収益が安定してきたことで、Crust Clubの買収などさらなる新展開にリソースを振り向けられる状況になっています。

  • Crust Clubパイ事業
    • Crumblで成功した「SNS + 週替わりフレーバー + インフルエンサーマーケ」の手法を踏襲
    • 「VIPグループ」などのデジタルマーケ施策を試し、事業拡大を目指す。

この流れはまさに「本業(クッキー販売)で得た安定キャッシュを使って関連スイーツ事業へ進出し、多角化を図る」ソリッドベンチャーらしい動きといえます。

4. 市場・地域

4-1. 市場の選定方法

  • クッキー配達需要: 2016年創業のChip Cookiesが先駆けとされるが、CrumblはSNS力で先発のChip Cookiesを凌ぐ勢いに。
  • Z世代狙い: 大学生街を最初のターゲットにし、彼らがSNSで拡散する仕組みを構築。デリバリー対応が大当たりし、深夜の甘いもの需要を捉えた。
  • 価格戦略: 1枚4.25ドルという値段でも「SNS映えするからOK」「週替わりがレアで魅力的」という付加価値で支持され、リピート客が多い。

4-2. 地域展開

  • アメリカ・カナダ: 現時点で約1,000店舗を出店し、フランチャイズ含む全店舗の合計売上は10億ドル超。
  • 今後の海外進出: 公式にアジアや欧州への拡大を発表していないものの、すでに北米以外の問い合わせが多いと噂される。 ただし、ローカルな味覚の違いをどう克服するかなど課題も大きい。

5. 失敗事例や課題

5-1. AUV(平均売上高)の低下

Crumblは驚異的に店舗数を増やしましたが、2022年→2023年にかけて**AUV (Average Unit Volume)**が180万ドル→120万ドルに大幅下落、約37%減となっています。

要因:

  1. 需要の分散: 店舗数が急増する中で、一地域に複数店舗ができれば顧客が分散し、一店舗あたりの売上が下がる。
  2. 経済状況: インフレや消費動向の変化で高価格のクッキーの購入頻度が減る可能性。

5-2. FC店舗の売却

2023年、Crumblはフランチャイズ54店舗を売却しました。ここには各店舗のオーナー事情だけでなく、Crumbl本部としても店舗管理の見直しや採算調整を進めている面があると推測されます。

急拡大ゆえに一定の淘汰・再編が起こるのはフランチャイズビジネスの常と言えますが、ブランド維持やFCオーナーとの関係維持が課題になり得ます。

5-3. ブランドリニューアルと次の一手

2023年末、Crumblは従来のクッキーイラスト入りロゴを廃止し、シンプルな文字ロゴへ変更。これを機に同社は「次の段階に移行する」としており、今後数年間は成長速度を抑えて既存店舗のクオリティアップに注力する旨を発表しています。

狙い:

  • 急伸した店舗網の品質管理を改善し、AUV低下を食い止める
  • Crust Clubなど他ブランドとのクロス販売戦略を進める
  • SNSマーケこそ継続しつつ、ブランドの本質(クオリティ)を強化

このシフトはソリッドベンチャーとしての“第二フェーズ”とも言え、“ハイペース成長”→“持続的な基盤整備” という段階に移行しようとしています。

ソリッドベンチャーとしての考察

Crumblの一連の成長を振り返ると、「ソリッドベンチャー」の特徴が垣間見えます。

  1. 自己資金 or 最小限の外部資金
    • 2017年創業~2021年まではほぼ自己資金だけで拡大し、フランチャイズ展開で得たロイヤリティなどをキャッシュカウ化
    • 2021年に初めて外部エクイティ調達を行ったが、大規模ベンチャー投資ではなく、地元投資家からの比較的少額投資
  2. SNSマーケティングでコストを抑制しつつ爆発的成長
    • 広告費に巨額を投じる代わりに、TikTokやInstagramを活用したバズマーケティング
    • ユーザーコミュニティが勝手に写真/動画を拡散 → そのバイラル効果でフランチャイズ希望者も増える → 店舗数拡大 → 売上増という好循環
  3. 新規事業拡大には本業のキャッシュカウを活用
    • 週替わりフレーバー導入で顧客を飽きさせず、リピートを促進
    • Crust Clubパイ事業の買収など、焼き菓子関連での多角化を模索
  4. 急成長フェーズの後に品質維持とリブランディングへ
    • AUVや店舗売却、ロゴ刷新など、次のフェーズで“持続可能性”を重視する動き

日本の類似事例との比較

本レポートでも言及されているように、日本の「フルーツ大福 弁才天」や「yutori(アパレルから化粧品へ事業拡大)」など、SNSバズを軸にZ世代向けビジネスを拡大していく動きが増えています。Crumblが示す成功要因は、

  • スマホ映えを重要視する商品コンセプト
  • 週替わり/ローテーションなど“飽きさせない仕組み”
  • フランチャイズの口コミ的拡大
    など日本でも共通する要素が多く、「同じ手法が広く応用可能」な事例として注目に値します。

まとめ

Crumbl, LLCは2017年創業から僅か6年で売上10億ドル超の全フランチャイズ網を構築し、アメリカ・カナダで1,000店舗以上を展開する大成功ブランドへと躍進しました。その背景には――

  1. 創業者のIT×マーケティング知識に基づくデジタル戦略
  2. 大学生を起点にSNSバズを狙った商品開発・販促
  3. フランチャイズモデルで短期間に店舗数を増やす
  4. 長らく自己資金運営し、2021年に初の外部資金を導入
    が大きく寄与しています。一方で、店舗急増によるAUVの低下やブランド再編の課題も顕在化しており、今後はパイ事業(Crust Club)への参入やロゴ刷新など「持続可能な成長」へ軸足を移すフェーズに入りつつあると考えられます。

ソリッドベンチャー的観点では、Crumblは「大規模資金調達よりもフランチャイズからの売上・ロイヤリティで拡大してきた」点が顕著です。急拡大後の課題対応も興味深く、今後の動向からも目が離せません。

学べるポイント:

  • SNSマーケで低コスト・高インパクトのブランディングを実現
  • 自己資金ベースで急成長したが、適切なタイミングで外部出資を受けた
  • 店舗増とユーザー分散のバランスをどうコントロールするかが成功のカギ
  • 他ブランド(パイ事業など)買収で新たな収益柱を狙いつつ、イメージやクオリティを維持する難しさ

Crumblの事例は、アメリカのZ世代やSNS文化を捉えた“超高速フランチャイズ”の好例であり、日本を含む海外マーケットでも似た手法が応用されつつあることを考えると、今後も焼き菓子やスイーツ業界で話題を牽引していく可能性が高いでしょう。

参考リンク / リソース

リサーチ担当名: 千原涼雅