2024.11.21
「ソリッドベンチャーとしてのキュービック」著者の視点
株式会社キュービック (Cuebic Inc.) は、2006年に設立されたWebマーケティング企業であり、SEO/SEMコンサルティング事業からスタートして独自のWebメディア運営へと展開することで実績を積み重ねてきました。
代表取締役の世一英仁氏は1981年生まれで、東京大学法学部卒業後に起業。学生時代からWeb技術やSEOへの深い関心を持ち、独学で専門知識を習得しながら事業を立ち上げました。
その後、同社は「保険市場」や「クレジットカードおすすめ比較」のような情報サイトを多数運営しながら、近年はデジタル集客支援事業やM&Aにも積極的に取り組んでおり、事業の幅を広げています。
キュービックが一貫して外部からのエクイティファイナンスを行わず、自己資金で成長を遂げてきた点は「ソリッドベンチャー」の典型といえるでしょう。本記事では、このソリッドベンチャーとしての姿を掘り下げ、彼らの成長要因や経営戦略を考察します。
ソリッドベンチャーとは
まず、ソリッドベンチャーという用語を簡潔に整理します。ベンチャー企業と聞くと、大規模な投資ラウンドや華々しいベンチャーキャピタル(VC)からの資金調達が注目されがちです。
しかし、“ソリッドベンチャー”はそうした外部資金に過度に依存せず、自己資金やキャッシュフローを基盤に事業を立ち上げ、地道に成長する企業を指すことが多いです。
- 創業当初から黒字経営を目指す
- 事業の利益を再投資して組織を拡大
- 株式や経営権を大きく手放すことなく独立性を維持
- M&Aなどの手法で戦略的に事業を拡大する場合もあるが、大量の投資を一気に受けることは稀
こうした特徴がソリッドベンチャーの大枠ですが、キュービックもほぼこの路線に沿って成長してきたと言えるでしょう。
キュービックの創業と初期事業:SEO/SEMコンサルティング
1.創業期の背景とビジネスモデル
キュービックは2006年、世一英仁氏が大学卒業後すぐに立ち上げた企業です。当時、SEO(検索エンジン最適化)やSEM(検索エンジンマーケティング)はまだ“専門性が高い割に人材が不足している領域”として注目され始めた段階でした。
そうしたマーケットの機会を捉え、企業のWebサイトへの集客を支援するコンサルティングという形で事業を展開。その成功要因には、以下のような点が挙げられます。
- 技術力・知見の先取り:世一氏が学生時代からSEOやネットビジネスに強い関心を持ち、独学で実務レベルの知識を身につけていた。
- 需要の増大:2000年代後半には企業が本格的にネット広告やSEOに投資し始める潮流があり、専門家への外部委託のニーズが拡大していた。
- 自己資金でのスモールスタート:大きな初期投資を要するわけではなく、ノウハウベースで利益を出せるビジネスモデルが構築できた。
こうして、SEO/SEMコンサルを主軸にしたBtoBサービスで黒字を生み出しながら徐々に組織を拡大するという、ソリッドベンチャーらしい安定した収益基盤づくりに成功しました。
2.Webメディア運営への転換
やがて、キュービックはコンサルティングという受託型の収益だけでなく、自社発信のメディアを作ることでアフィリエイト広告やリード獲得による収益を狙う戦略を打ち立てます。具体的には、
- 「保険市場」
- 「クレジットカードおすすめ比較」
といった比較サイトや情報サイトを展開し、ユーザーの保険や金融商品に関する悩みや疑問を解消するコンテンツを提供。そして、そのサイト内での問い合わせや申込みなどから手数料を得る仕組みを構築していきました。
当時の比較サイト市場は、激しい競争がありつつも、信頼性の高いコンテンツや的確なSEO対策を行えるプレイヤーはまだ限られていました。
キュービックはSEO/SEMコンサルで培った技術を自社メディアに応用することで、安定的に集客し、ユーザーにも有益な情報を提供できたのです。こうして成果報酬型のビジネスモデルを自社メディアで実現し、自社独自の広告収益基盤を作るに至りました。
成長戦略:自己資金拡大とM&A活用
1.外部資金を頼らない経営
キュービックは、創業当初からエクイティファイナンス(株式発行による資金調達)を行わずに規模を拡大してきました。これはソリッドベンチャーにおける大きな特徴です。
- 自己資金+事業の利益で投資や新規サービスを立ち上げる
- VCからの出資を受けないことで、経営の独立性を確保
- 短期的な資本リターンを求められにくいため、長期的な視点で事業に投資できる
このアプローチは、一気に爆発的なスケールアップを狙うスタートアップ型とは対照的ですが、外部環境の変化に比較的強く、安定性が高いのが利点です。
SEO/SEMのコンサルと自社メディアによる安定収益が続く限り、大幅な赤字を抱えることなく持続的な成長が見込めます。
2.M&Aによる事業領域拡大
キュービックはM&Aを積極的に活用し、既存事業や新規事業の強化を図っています。具体的な事例名は公表情報が限られる場合もありますが、一般的に以下のような狙いが推察されます。
- 事業シナジーの創出:SEOやWebメディア運営と親和性のある会社を買収することで、より大きな集客ネットワークを構築したり、サービスラインナップを増やしたりできる。
- 人材確保:コア技術者や優秀なマーケターを抱える企業をM&Aすることで、レベルの高い人材を一挙に獲得し、チーム力をアップ。
- 時間短縮:自社でゼロから新分野に乗り出すより、既存企業を買収しノウハウを取り込むほうがスピーディかつリスクが少ない。
ソリッドベンチャーとしては、自己資金の範囲内で買収を進められる点が重要です。大きな社債や増資を伴わない分、経営コントロールを保ちつつ買収後の統合を推進できます。
M&Aに失敗すれば財務リスクを抱える恐れがありますが、キュービックの場合は長年にわたるSEO/SEMによる安定キャッシュフローとメディア事業の収益が、投資に耐えうる下支えになっていると推察されます。
事業の多角化:デジタル集客支援とコンテンツマーケティング
1.新規事業への展開
キュービックは、SEOコンサルティング → 自社Webメディア → デジタル集客支援という流れで、BtoB/BtoC両面のサービスを手がけるようになりました。今では「世界の進化に貢献する」という理念のもと、以下のような多岐にわたるサービスを展開しているとみられます。
- デジタルメディア事業
- 「保険市場」「クレジットカードおすすめ比較」などの自社サイト
- ユーザーが欲しい情報を網羅的・客観的に提供する媒体づくり
- デジタル集客支援事業
- 顧客企業のWebサイト制作からSEO対策、広告運用、コンテンツマーケティングコンサルなど
- 顧客企業のWebサイト制作からSEO対策、広告運用、コンテンツマーケティングコンサルなど
- その他の新規事業
- M&Aによる新たなサービス立ち上げ
- インハウスのノウハウや自社流ソフトウェアの開発等
2.成功要因:ユーザー視点とWebマーケティング技術
同社が事業多角化に成功している背景として、“顧客・ユーザー視点”の徹底が挙げられます。比較サイトもただの広告収入を狙うだけでなく、ユーザーが抱える疑問や不安を丁寧に解消できるコンテンツを提供する姿勢を打ち出してきました。
その結果、サイト自体への信頼度が上がり、検索エンジンからの評価(SEO観点)も高くなって自然検索流入が増えるという好循環が生まれました。
さらに、SEOやSEMの専門知識をもつ自社チームが新規事業開発に携わることで、立ち上げから集客までのPDCAが高速で回せる点も大きいでしょう。
外部資金に頼らない分、短期的なKPIに縛られ過ぎず、ユーザーエクスペリエンスを高める開発や改良に注力できるのもソリッドベンチャーの強みです。
市場・地域
1.主な市場領域
キュービックの主戦場は、デジタルマーケティング市場およびWebメディア市場です。広告業界全体としては、テレビCMからインターネット広告へのシフトが長期的に続いており、その総額は年々拡大傾向にあります。
また、金融商品や保険商品などユーザーが選択肢に迷いやすい分野では、比較サイトのニーズも高止まりしています。こうした背景はキュービックにとって追い風と言えるでしょう。
2.地域
本社を東京都新宿区に構えるキュービックは、オンライン事業を主体としているため、国内外のマーケットにアプローチ可能です。
実際、比較サイトやコンサル事業は日本全国、さらには海外展開の可能性もゼロではありません。日本企業の海外進出支援や、逆に海外企業の日本市場参入支援などが今後の成長領域として考えられます。
ソリッドベンチャーとしての意義
1.独立性を保つメリット
キュービックが外部資金に依存しない経営を続けてきたことにより、以下のようなメリットが得られています。
- 経営判断のスピード・柔軟性:資本構成がシンプルで、意思決定プロセスに投資家が深く関与することがないため、自社の理念や長期的戦略を優先できる。
- 株主への短期リターン圧力が少ない:ベンチャーキャピタルから大きく出資を受けると、IPOやM&Aで株式価値を早期に高めるプレッシャーがかかりやすいが、キュービックの場合はそれが少ない。
- 従業員への株式インセンティブ設計の自由度:企業としてストックオプションなどを活用する際も、外部投資家の構成を考慮する必要が相対的に低い。
こうした点は、同社がコアバリューとしている「世界の進化に貢献する」事業を腰を据えて育てられる大きな要因になっているでしょう。
2.社会へのインパクト
ソリッドベンチャー企業は、投資家の都合よりもユーザーや社会のニーズを重視する傾向が強いといえます。キュービックの場合も、保険商品やクレジットカードに関する“比較サイト”を展開することで、消費者の利便性や情報格差を是正し、金融リテラシー向上に貢献している面があります。
結果的に、ユーザーに信頼されるサイトになれば広告収入も上がるため、社会価値と経済価値が両立しやすいのです。
■まとめ:キュービックが示すソリッドベンチャーの軌跡
- 創業期(2006~):SEO/SEMコンサルティングでのスモールスタート
- 学生起業という形で世一氏が立ち上げ、独学のSEO知識を武器に事業化。
- 受託ビジネスでキャッシュフローを安定化させ、自社資金で拡大。
- メディア運営(中期):自社サイトを展開し、広告収益モデルを確立
- 「保険市場」「クレジットカード比較」など比較・情報サイトでユーザーを獲得。
- SEOのノウハウを自社内で活かし、競合と差別化。
- M&A・多角化(近年):デジタル集客支援事業や新規事業へ進出
- M&Aにより新規事業や既存事業を強化。
- デジタルマーケティングの総合支援や多様なメディア事業に展開。
- 自己資金経営の利点
- 短期的な投資家リターンに追われず、長期的にサービスの品質やユーザー視点を重視。
- 経営の独立性を高め、柔軟かつ迅速な意思決定が可能。
このようなプロセスを通して、キュービックは国内のWebメディア市場およびデジタルマーケティング市場で確固たる地位を築いています。
競合や技術環境の変化、組織拡大に伴うマネジメントなど、今後も多くの課題があるにせよ、これまでの自己資金主導の堅実な成長パターンを見ると、同社の基盤はしっかりしていると考えられます。
今後の展望
- さらなる多角化:保険や金融領域から、他の高単価商材(不動産、自動車など)へのメディア展開やコンサル拡充が予想される。
- 海外展開:国内の成熟度が進む中、海外の保険・金融サービス比較やデジタル集客に乗り出す可能性もある。
- 人材育成・採用強化:高度なマーケティング・テクノロジー人材を確保し、組織を強化することが持続的成長のカギ。
「ソリッドベンチャー事例」という文脈で見たとき、キュービックは“独立性の高い自己資金経営”と“事業多角化による利益拡大”を両立する好例です。
特にM&Aを使った成長は、大型投資を伴わなくとも十分可能であることを示しており、単に地道な拡大だけでなく、戦略的な買収によってスピード感を持って事業領域を広げるという手法を採っているのが興味深い点です。
本記事では、株式会社キュービックがSEO/SEMコンサルから出発し、自社メディアを経て、さらなる多角化へと至るストーリーを概観しました。
- 大学卒業後すぐの学生起業
- 外部資金を使わない“ソリッド”な事業拡大
- メディア・コンサル両方を活かしたM&A戦略
これらは日本におけるソリッドベンチャーの典型的成功例ともいえ、同社の持続的なビジネスモデルは他の起業家にも多くの示唆を与えます。
一方で、ITマーケットの変動や競合の台頭、人材確保など課題は尽きませんが、これまでの堅実な経営姿勢と多角化ノウハウを踏まえれば、安定した成長が続いていく可能性は十分にあるでしょう。
同社が掲げる「世界の進化に貢献する」という理念は、デジタルマーケティングや情報格差の解消に貢献する事業活動と直結しています。
金融や保険だけでなく、より幅広い領域でユーザーニーズを的確に捉え、社会へのインパクトを拡大していく今後の展開に期待したいところです。