2024.11.23
「ソリッドベンチャーとしてのギークス株式会社 (Geechs)」著者の視点
ベンチャー企業が大きく成長していく際、外部資本を取り入れずに自己資金や事業収益を再投資することで自走的に事業拡大を目指すケースがあります。
これらの企業はしばしば「ソリッドベンチャー」と呼ばれ、過度なリスクを負わずに安定成長を実現する経営スタイルが注目を集めています。これまでのスタートアップシーンでは、多額の資金調達を経てハイパーグロースを目指すモデルが目立ちましたが、近年はソリッドベンチャー型の地に足をつけた経営手法も新たな選択肢として評価されています。
本記事では、ギークス株式会社 (Geechs) を分析します。ギークスは、ITフリーランスを中心とした人材事業を基盤に、IT分野全般にわたる多様な事業を展開しています。
さらに、スタートアップ支援や海外IT人材事業にも進出し、2019年3月には東証マザーズ(現・東証グロース相当)へ上場、その後東証スタンダード市場へ移行するなど、着実な成長を遂げています。
果たして同社はどのような創業経緯や成長戦略を描き、どのように事業多角化を進めてきたのでしょうか。その軌跡と今後の展望に迫ります。
創業当初の事業モデルと背景
ITフリーランスエージェント事業の立ち上げ
ギークス株式会社は2007年8月に設立され、当初はITフリーランスの働き方を支援するエージェント事業をメインとしてスタートしました。
具体的には、フリーランスエンジニアと企業のマッチングサービスを提供し、フリーランスとして働くエンジニアに安定した案件獲得やサポート体制を提供しながら、企業側には即戦力を確保できるというメリットをもたらしてきました。
同社が設立された2007年当時、すでにITエンジニアの人材不足は深刻化しており、今後もIT需要が高まることが見込まれていました。しかし、一方でフリーランスとして働きたいエンジニアが自ら仕事を獲得する仕組みは十分に整っておらず、エージェントの必要性が高まっていたのです。
そこにいち早く着目したのがギークスであり、「日本にITフリーランスという新しい働き方を普及させる」 という強い理念が同社の事業基盤となっていました。
創業者・曽根原稔人氏のバックグラウンド
ギークスの代表取締役CEOである曽根原稔人氏は、1975年生まれ。ホテル業界、不動産業界など多様な業界での経験を重ねた後、共同創業した会社で株式上場まで実現させるなど、シリアルアントレプレナーとして活躍してきました。
その後、より大きな社会的インパクトを狙うべくIT人材の市場に目を向け、フリーランスエンジニア支援事業に参入。
IT業界の現場だけでなく、他業界のビジネスノウハウや株式上場のプロセスを体験している点は、曽根原氏の大きな強みです。
「新しい働き方」を定着させるためには、柔軟な発想と多角的な経営スキルが不可欠といえます。そうした経験の蓄積がギークスの事業戦略に生かされており、後に説明する多角化路線にも大きく貢献しています。
成長戦略と資金調達
ソリッドベンチャー的な自己資金の活用とIPO
ギークスは創業当初こそ自己資金で事業をスタートしましたが、その後順調に事業を拡大し、2019年3月には東証マザーズに上場を果たしています。
現在は、東証スタンダード市場に上場しており、上場企業としての信用力や資金調達力を武器にさらなる事業拡大を続けています。
一方、「ソリッドベンチャー」は必ずしも外部資金調達を否定するものではなく、「過度にベンチャーキャピタル等から大規模資金を呼び込まず、自己資金ベースを中心に堅実に成長していく」という意味合いで用いられることが多いのも事実です。
ギークスの場合も、創業から上場までの間に劇的なエクイティファイナンスを繰り返すことなく、事業収益を原資として着実に拡大していった点が特徴といえます。その上でIPOを活用し、加速的な成長を実現しているのです。
上場による事業拡大の加速
上場後、ギークスは調達資金や市場からの信用を背景に、新たな事業領域へ積極的に投資を行っています。ITフリーランス支援事業は同社のコアビジネスであり続けながら、後述する海外IT人材事業やSeed Tech事業などを本格的に展開。
上場のメリットを最大限に活かしつつも、事業の独自性と社会的意義を崩さない形で成長を図っていることが伺えます。
事業多角化と新規事業の開発
国内外のIT人材事業の拡充
ギークスは、もともと国内向けのITフリーランスエージェントサービスで実績を積んできました。しかしIT人材不足は世界的な問題となっており、国内エンジニアを支援するだけでなく、海外IT人材を活用する余地も大きいと判断。
そこで海外IT人材事業を開始し、オフショア開発のサポートや外国籍人材の紹介など、グローバルな視点でIT人材の流動性を高める取り組みに乗り出しています。
この海外IT人材事業は、日本企業の国際化やDX推進に合わせて、急速に需要が拡大しており、ギークスとしてもコアビジネスの延長線上でシナジーを発揮しやすい領域といえます。
フリーランス・正社員の枠を超えて人材を活用しようとする企業は増えており、言語や文化の壁をクリアできれば、大きなマーケットが期待できる分野です。
Seed Tech事業によるスタートアップ支援
ギークスが展開するもう一つの重要な軸は、「Seed Tech事業」と呼ばれるスタートアップ支援です。これは子会社のシードテック株式会社を通じて行われており、創業準備中の企業に対してシステム開発支援や資金面での投資を行うものです。
自身も上場経験を持つ曽根原氏だからこそ、スタートアップが抱える経営課題や資金調達のハードルを熟知しており、それを踏まえた的確なサポートが可能となっています。
スタートアップの成長によって株式の価値向上を狙う投資家側のメリットと、起業家側がリスクを抑えながら開発を進められるメリットの両立を目指す取り組みであり、「人材サービス×スタートアップ支援」という独自の多角化となっています。
事業多角化の成功要因
- IT人材不足の社会課題への対応
ギークスは創業以来、一貫してIT人材の供給不足という社会課題を解決しようと取り組んできました。そのメイン事業であるフリーランスエージェントが需要にマッチし、多くのエンジニアと企業の信頼を得たことがビジネスのベースとなります。 - フリーランス支援から海外人材、スタートアップ投資へ
コアの人材ビジネスを発展させる過程で、海外人材やスタートアップ支援など関連分野に積極的に展開。これにより、IT業界を総合的に支援できる体制を構築しました。 - 曽根原氏のシリアルアントレプレナーとしての経験
代表の曽根原氏が複数業界の経験や株式上場の実績を持つため、ベンチャー企業の課題を把握する眼力が高く、それを応用して次なる新規事業に生かしている点が成功の要因となっています。
ソリッドベンチャーとしての評価
外部資金への依存度と独立性
ソリッドベンチャーの観点で注目すべきは、創業期から上場前に至るまで、ギークスが大規模なベンチャーキャピタル投資を受け入れることなく自社収益をもとに事業を拡大してきた点です。上場を経て公募増資の機会は得ていますが、根幹としては自らの事業収益を再投資するスタイルを貫いています。
これにより企業としての独立性を保ち、短期的な利益よりも長期的なビジョンを優先できるというメリットを享受しています。
コアビジネスの着実な成長
ソリッドベンチャーとして最も重要なのは、コアビジネスが安定した収益を生み出し続けるかどうかという点です。ギークスの場合は、ITフリーランスエージェントという事業モデルが市場ニーズと合致し、DX化やIT投資が加速する世の中の潮流に乗って着実に業績を伸ばしてきました。
コロナ禍でリモートワークが普及したことも、フリーランスエンジニアの働きやすさを後押しし、同社にとっては追い風となったと考えられます。
多角化戦略と収益性のバランス
ソリッドベンチャーは、多角化を進める際に過度な投資リスクを避け、コアビジネスから得られるキャッシュフローを活用しながら、新規事業を段階的に育てていくスタイルをとります。
ギークスの海外IT人材事業やSeed Tech事業への展開も、そうしたアプローチに基づいていると見られます。フリーランス支援事業が収益の柱となる一方で、海外人材やスタートアップ投資は将来の新たな収益源を生み出す可能性を秘めています。
両者のバランスが安定していれば、多角化によるリスクも軽減されるでしょう。
ギークス株式会社は、「ITフリーランスの働き方の普及」を中心に据え、国内外のIT人材サービスやスタートアップ支援を手がけることで、多角的な事業ポートフォリオを形成してきました。
創業から上場まで、自己資金や事業収益を活用して着実に成長してきた姿勢は、ソリッドベンチャーとしての特徴をよく表しています。
- IT人材不足という社会課題に着目し、コアビジネスを確立
- 上場後も独自のビジョンを維持しつつ、海外人材やスタートアップ投資へ多角化
- 創業者の幅広い経験と上場企業としての信用力をベースにさらなる成長を目指す
ギークスが堅実な収益モデルを維持しながら新たな事業領域を開拓していく動向は、ソリッドベンチャーの成功モデルとして引き続き注目に値するものです。