Mailchimp

事業内容

メールマーケティングSaaSを中心に、小規模事業向けのマーケ支援サービスを提供

共同創業者

ベン・チェスナット、ダン・カージアス

ベン・チェスナット (Ben Chestnut):ウェブデザインやインタラクションデザインの背景を持ち、創業当初は受託業務で稼ぎながらツールを内製する立場。ダン・カージアス (Dan Kurzius):共同創業者として主にビジネス開発やカスタマーサポート系のスキルを発揮し、Mailchimpの初期ユーザー拡大をリード。

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2025.02.03

Mailchimp

はじめに

急成長スタートアップの多くは、VCなど外部投資家から大規模な資金調達を行い、短期でスケールを狙うのが一般的――そんなイメージが定着しています。

しかし一方で、「自社の本業」から得る安定収益をうまく活用し、必要に応じて外部資金を上手に使いつつソリッド(堅実)に拡大するベンチャー企業も存在します。

いわゆる「ソリッドベンチャー」型の企業は、VC依存型スタートアップとは異なるリスクコントロールを行い、サステナブルに成長していくモデルが特徴です。

本記事で紹介するアメリカ発の Mailchimp は、世界最大級のメールマーケティングプラットフォームを自社開発し、中小ビジネスの顧客向けに提供することで急成長を遂げました。特筆すべきは、長らく外部調達をせず、自力(+最小限の資金戦略)で規模を拡大したこと。

0. 会社情報

  • 会社名: Mailchimp
  • URL: https://mailchimp.com/
  • 代表者名: ベン・チェスナット(Ben Chestnut)とダン・カージアス(Dan Kurzius)
  • 創業: 正式な法人化は2001年前後
  • 事業内容: メールマーケティングSaaSを中心に、小規模事業向けのマーケ支援サービスを提供

Mailchimpの名称は、サービス名・企業名として世界的に認知されています。2021年にIntuit社による買収が発表され、120億ドル以上という高額ディールで話題になりました。その過程でMailchimpが長年にわたり外部VC調達をほぼ行わずに成長してきたことが大きな注目点でした。

1. 企業の歴史と創業期の情報

1-1. 創業当初の事業モデル

Mailchimpの始まりは、「苦しい状況の小規模事業者をメールマーケティングで支援したい」 というミッションでした。創業者ベン・チェスナットとダン・カージアスは、当初ウェブデザインやソフトウェア開発の受託業務を行いながら、その副業としてメール送信ツールを提供していました。

  • 受託ビジネスで安定収入を得る
  • 小さなクライアント向けにメールマーケティング機能を試験的に導入
  • これが徐々に独立事業として拡大

という流れが、創業期のMailchimpの姿です。

主要顧客: 初期段階は中小のECサイトやローカルビジネスが中心。彼らのニーズに応じて、HTMLメールの配信やリスト管理など、使いやすさを追求するツールを作ったのがヒットの端緒でした。メール配信技術だけでなく、UI/UXのシンプルさが受け入れられ、口コミでユーザーが増加していきました。

1-2. 創業者のバックグラウンド

  • ベン・チェスナット (Ben Chestnut)
    ウェブデザインやインタラクションデザインの背景を持ち、創業当初は受託業務で稼ぎながらツールを内製する立場。
  • ダン・カージアス (Dan Kurzius)
    共同創業者として主にビジネス開発やカスタマーサポート系のスキルを発揮し、Mailchimpの初期ユーザー拡大をリード。

彼らは大学卒業後、起業を模索しながら「ロゴデザインの受注などを通じて生計を立てていた」とされています。その副産物としてメール配信プロダクトが生まれ、それがメイン事業へと成長していったのです。

2. 成長戦略と資金調達の有無

2-1. 事業拡大手法

Mailchimpは初期から「ユーザーが増えれば課金モデルで売上が伸びる」というSaaS型モデルを確立。プランを複数段階用意し、無料〜有料プランを柔軟に切り替え可能としたことで多くの中小企業が導入しやすい設計を採用しました。

  1. フリーミアムモデル: 小規模のリスト数なら無料、有料プランにアップグレードすればより高機能・大容量のメール配信が可能
  2. UI/UX向上: コードを書かずにHTMLメールを作成できるなど、専門知識のない事業者でも扱いやすい
  3. 口コミ拡散: Web上で「Mailchimpが簡単でいいらしい」という評判が広がり、広告投下よりも自然な拡大が進行

こうした堅実な事業拡大により、Mailchimpは10年近くの間で急成長を遂げ、2010年代中盤には数百万以上のユーザーを抱えるメールマーケティングのトップ企業へ躍進しました。

2-2. 自社資金 vs. 外部資金

Mailchimpの大きな特徴は、一切ベンチャーキャピタルからの調達を行わずに自力でキャッシュを回したことです。

  • 創業期: 受託ビジネスの安定収益を開発投資に振り向け
  • メール配信ツールが軌道に乗ってからは、有料プラン課金収入でさらに拡大
  • 大きな外部投資家を入れずに最終的に100%創業者がコントロール

という戦略が採られました。投資家の意向に左右されることなく、プロダクトや文化を自分たちで決定し、長期的な視野でビジネスを育てられることがMailchimpの強みになりました。

完全に自社資金のみというわけではなく、時折借り入れを行うなど必要最小限の資金調達はあったとされますが、大掛かりなVC出資は受けず、最後はIntuitによる約120億ドルのM&Aに至りました。

3. 事業の多角化や新規事業の開発

3-1. 本業からの新規事業

当初は「メール配信」機能に特化していましたが、Mailchimpはユーザーの要望に応じてマーケティングオートメーション、CRM、広告機能などを次々追加。社内には安定したサブスク収益があるので、そこを「キャッシュカウ」として新機能開発や買収を実行しました。

事例:

  • Landing Pages の提供、SNS広告との連携など、メール以外のマーケ施策もワンストップ化
  • Mailchimp Academy や教育コンテンツ整備
  • 外部サービスとの連携(Shopify, WordPress, Salesforceなど)拡充でエコシステムを構築

いずれも「中小ビジネスが低コスト・低ハードルでデジタルマーケティングを行う」という同じ顧客基盤を狙っていたため、新規事業へのスムーズな拡大が可能でした。

3-2. 成功要因

  1. コア製品の高リテンション
    メール配信は事業継続のうえで必須ツールであり、機能追加も相性が良いためクロスセル・アップセルが容易
  2. SaaSによる安定キャッシュフロー
    毎月のサブスク収益がR&Dを支える
  3. ユーザーフィードバックを重視
    多くの新機能は実際のSMB(中小企業)ニーズから生まれた

4. 市場・地域

4-1. 市場

中小ビジネス向けメールマーケティングは全世界で需要があり、Mailchimpは早期から欧米やアジアのユーザーへリーチしていました。とくに英語圏での拡大が顕著ですが、日本語を含む多言語サポートやローカルキャンペーンも展開。

革新性としては「メールマーケを簡単にする」という点にあり、競合のConstant ContactやCampaign Monitorなどと差別化を図るために「フリープラン」「軽快なUI」をアピール。顧客層は非常に幅広いジャンルの中小事業者が主力です。

4-2. 地域

  • 北米: Mailchimp本社がある米国市場が中核。多くの中小事業者がウェブマーケを取り入れる流れと合致
  • 欧州・アジア: オンラインを通じたセルフサインアップモデルで国際的に普及。現地拠点展開よりもウェブでのサポート重視

のちには大企業向け機能も加わりましたが、主にSMBマーケットをメインターゲットとし続けています。

5. 失敗事例や課題

Mailchimpの歴史上、大きな失敗事例はあまり表に出ていませんが、以下のような課題は指摘されます。

  1. フリープランのコスト負担
    • フリーミアムモデルゆえに、無料ユーザーのサーバー負担やサポートコストが大きくなる可能性
    • 無料から有料へのアップセルが不可欠
  2. 競合激化
    • メールマーケティング以外にもSaaSが乱立し、HubSpotやActiveCampaignなど総合MAツールがSMB向けに安価プランを投入
    • 特にSlackやSNS広告などメルマガ以外のチャネルが普及する中で「メールマーケだけ」をどう魅力的に保つか
  3. 拡張しすぎる機能セット
    • CRMやLP作成など周辺機能を増やすほどUIが複雑化し、「シンプルさ」に惹かれたユーザーが離脱するリスク

一方、こうしたリスクを緩和するためにMailchimpはコミュニティ対応やデザイン洗練、サポート拡充を行うなど、長年かけて顧客満足度を高め続けてきました。外部VCの急かしがなく、「顧客本位」に進化できる組織文化が大きかったとも言われます。

まとめ

Mailchimpは「自前のキャッシュ」と「顧客からの売上」を基盤に、徐々に新機能や周辺サービスを拡充して世界最大級のメールマーケティングSaaSへ成長しました。

創業者ベン・チェスナットとダン・カージアスは外部VCの介入を回避することで、プロダクトデザインや企業文化を自分たちの意思でコントロールできたことが大きな成功要因と言われます。

SaaS的に安定的な月額課金を積み上げるビジネスモデルによって、ソリッドベンチャーの典型ともいえる自律成長を実現。最終的には2021年にIntuitが約120億ドルという高額で買収し、Mailchimpの創業者たちは大きなリターンを得ました。

Mailchimpの物語は、外部投資に頼らなくても「自分たちで儲けて拡大する」ことが可能なSaaSの強みを象徴しており、今後も多くのソリッドベンチャーが同様の道を模索するはずです。

ポイントのおさらい:

  1. 創業期の受託+簡易サービス→メール配信SaaSへ
  2. VC投資ゼロ(最低限の借り入れに留める)
  3. フリーミアム・サブスクによる安定収益
  4. ユーザーニーズに応じた機能拡充と多角化
  5. 2021年、Intuitに120億ドルでM&A Exit

これらから学べるのは、「堅実な本業でキャッシュフローを確保し、外部干渉なく自由にプロダクトを育てる」ソリッドベンチャーの在り方に他なりません。

参考URL・リサーチ備考

リサーチ担当名:四季報写経ウーマン