2024.11.21
「ソリッドベンチャーとしてのネオキャリア」著者の視点
スタートアップ業界では、短期的にリスクをとって一気にマーケットシェアを獲得する「ハイリスク・ハイリターン型」のモデルが注目されやすい一方、地に足を付けたビジネスモデルで着実に収益を積み上げ、必要に応じて外部資金やM&Aを活用しながら段階的に成長を図る「ソリッドベンチャー」的アプローチが近年注目されつつあります。
ソリッドベンチャーとは、過度な赤字を抱えることなく、手堅い事業収益をベースにしながら多角化や新規事業に挑戦し、結果として安定成長と攻めの経営を両立させる企業を指す概念です。
本記事で取り上げるネオキャリアは、まさにその代表格とも言えます。就職情報誌の発行という紙媒体事業からスタートし、時代のデジタル化や人材ニーズの多様化に合わせて事業ドメインを積極的に拡張。「若手成長支援」という創業の原点を軸に、既存事業の収益で新規分野に投資してきた点がソリッドベンチャーらしい特徴といえるでしょう。
では、ネオキャリアはどのような経営判断によって変化の激しい人材業界を勝ち抜いてきたのか。本記事では、創業期の背景から資金調達・M&A戦略、事業多角化のプロセスなどを「ソリッドベンチャー事例」として分析してみます。
会社概要と創業期の事業
会社情報
- 会社名:株式会社ネオキャリア
- URL:https://www.neo-career.co.jp/
- 代表者名:西澤 亮一(代表取締役社長)
- 設立:2000年
本社は東京都新宿区に位置し、国内外で拠点を展開。人材領域を中心に新卒・中途採用支援、人材紹介、派遣、アウトソーシングなど、多岐にわたるサービスを提供する総合人材企業として知られています。
創業当初:就職情報誌の発行・販売
ネオキャリアの創業は2000年。当時はまだ紙媒体が主流の時代であり、代表の西澤亮一氏(大学卒業後リクルートに入社)の経験を活かして新卒学生向け就職情報誌の発行・販売をビジネスの核としました。
創業当初は自己資金で事業を立ち上げたソリッドベンチャー的なアプローチで、売り上げも地道に積み重ねていったのが特徴です。
当時の人材業界は紙媒体が多くを占めていたため、この領域で実績を作ることで基盤を確保。やがてインターネット活用が加速していく時代の波をとらえて事業を進化させることで、徐々に成長の軌道に乗っていきました。
成長戦略と資金調達のあり方
1. 紙媒体からデジタルへの転換と多角化
2000年代に入り、インターネットが急速に普及する中、企業の採用活動も紙からWebへシフトし始めました。ネオキャリアは、それまで培ってきた「学生と企業を繋ぐ仕組み作り」や「求人企業への提案ノウハウ」を活かし、早期にWebベースのサービスへ転換。
さらに、新卒採用だけでなく中途採用、人材紹介、派遣、アウトソーシングなど、人材に関わる各セグメントへ次々参入。採用支援から就労支援までのフルラインサービスを提供する体制を構築し、総合人材サービス企業としての基盤を固めていきました。
ここがソリッドベンチャーらしい点で、単一領域だけに集中するのではなく、顧客のニーズに応じて無理なく事業を広げながら収益を増やすという戦略です。
2. 外部資金の活用とM&A戦略
創業当初は自己資金で地道にスタートしたネオキャリアですが、事業が拡大する中で外部資金を調達し、さらなる拡大に備えました。
これもソリッドベンチャー的な手法で、「まずは自身で稼ぎ、一定の信用と実績を得たところで投資家や金融機関と交渉し、計画的に資金調達をする」というステップを踏んでいます。
また、「攻めの経営」の一環としてM&Aも積極的に活用しました。自社で一から構築するより買収の方が早い場合や、他社の強みを吸収したい場合などにM&Aを行い、事業ポートフォリオを一気に拡張。
こうしたM&Aは単に売上拡大だけでなく、優秀な人材や顧客基盤を獲得する意味でも有効で、人材サービス市場での競争力を高める要因となりました。
事業多角化と新規事業
1. 「採用支援」「就労支援」「業務支援」の三本柱
ネオキャリアは今や、多彩な人材関連サービスを提供していますが、まとめると大きく下記のように整理されます。
- 採用支援:新卒・中途向けの求人広告、エージェントサービス、採用コンサルなど
- 就労支援:派遣、アルバイト紹介、短期派遣、業務委託など
- 業務支援:アウトソーシング(BPO)、コールセンター事業など
これらのサービス領域は互いにシナジーがあり、例えば採用支援で新卒採用がうまくいかなかった企業が、就労支援で派遣スタッフを活用するといったクロスセルも期待できます。さらに業務支援では企業のバックオフィス業務を請け負うことで、長期的な契約につながるケースが多いです。
2. HRテックへの取り組み
近年はAIやビッグデータを活用したHRテックが注目されており、ネオキャリアも人材サービスのDX化に力を入れています。従来の紙媒体や面接中心のやり方を刷新し、オンライン面接ツールや適性検査、マッチングアルゴリズムなどを導入して効率化と精度向上を目指しているわけです。
ソリッドベンチャーとしては、既存事業から得たキャッシュフローを研究開発や新技術の獲得に再投資することで、競合との差別化を図っているのが特徴的です。
3. グローバル展開
ネオキャリアはアジアを中心に海外にも拠点を展開し、海外での就業機会を探す日本人向けサービスや、日本で働きたい外国人向けの支援なども行っています。これにより、人材の国際流動が増加する状況を捉えてさらなる成長を狙っています。
ソリッドベンチャーの海外進出は慎重になりがちですが、ネオキャリアはM&Aやパートナーシップなどを上手く活用しながら、リスクを分散しつつグローバル市場におけるプレゼンスを高めている印象です。
市場・地域
市場:人材サービス全般
ネオキャリアが属する人材サービス市場は、新卒・中途・派遣・アウトソーシングなど非常に多岐にわたります。経済環境や法規制(労働基準法、派遣法など)、社会情勢(景気動向、コロナ禍等)の変化によって左右されるリスクも大きい一方、雇用情勢が流動的である日本では安定した需要が存在。
また、これまで派遣やアルバイトで繋ぎ止めていた企業もDXを進めることで働き方改革や外国人材活用が進み、人材サービス企業にとって新たな機会が生まれています。
地域:国内拠点とアジア中心の海外展開
本社は東京・新宿区に構え、日本全国に営業拠点を展開。加えてアジア各国でビジネス展開することで、日本企業の海外進出支援や外国人材の採用支援が可能になりつつあります。
グローバル志向の人材が増える中、国内外の企業を結ぶ仕組みづくりがさらなる成長要因となるでしょう。
失敗事例や課題:法改正・人材不足とどう向き合うか
人材サービス業界は、法改正や社会情勢に大きく影響されます。例えば派遣法改正で派遣スタッフの受け入れ期間などが変更されると、それまでのビジネスモデルを急に変えざるを得なくなるリスクがあります。
ネオキャリアも過去に、法規制の変化で一部事業がやりにくくなる場面があったり、人材不足で派遣スタッフの確保が追いつかなかったりしたケースもあったとされます。しかし同社は常に柔軟な対応力を発揮し、時にはビジネスモデル自体をスピーディーに転換したり、M&Aで補完したりして課題を克服。
また、激しい競争が繰り広げられる人材業界では、自社内の採用・育成が非常に重要です。ネオキャリアは若手社員の成長支援に熱心な企業文化を持ち、その結果として従業員の定着率向上や現場力の蓄積が進んでいると言われます。
ここもソリッドベンチャーらしく、内外の人材を巧みにマネジメントする仕組みをつくって、事業を継続的に拡大してきたわけです。
ソリッドベンチャーとしての考察
ネオキャリアは、設立当初に紙媒体の就職情報誌を軸に収益を確保しながら、徐々にWeb化・多角化を実施し、さらにM&Aと外部資金を活用して事業規模を飛躍的に拡大してきました。
大きく赤字を出すことなく、地道に実績と信用を積み上げ、必要なときにだけ「勝負所」でリスクをとる姿勢がうかがえます。この手法は次のようなポイントでソリッドベンチャーらしさを示しています。
- まずは地道に稼げる領域(紙媒体の就職情報誌)で基盤を作る
- 創業時は大きなVC投資などに頼らず自己資金でスタート
- 手堅いモデルで着実なキャッシュフローを得る
- 顧客ニーズと市場の変化をタイムリーに捉え、多角化を進める
- 新卒採用から中途、派遣、アウトソーシングまでバリエーションを増やす
- 市場の動向が変わればサービスラインを拡充し、打ち手を増やす
- 事業成長フェーズで外部資金とM&Aを大胆に活用
- 自己資金だけでは対応できない拡大スピードをカバーするために資金を調達
- 他社買収でリソースや顧客基盤を素早く取り込む
- 組織と人材の強化を重視し、法改正や景気変動への柔軟性を高める
- 人材育成と若手登用で変化対応力を強化
- 失敗や課題を迅速に学び、ビジネスモデルをアップデート
- 国内外の市場を俯瞰し、日本だけでなくグローバルでの人材ニーズを捉える
- 海外拠点を通じて国際的に人材をマッチングし、多面的な収益源を確保
- 海外拠点を通じて国際的に人材をマッチングし、多面的な収益源を確保
ネオキャリアに学ぶソリッドベンチャーの醍醐味
ネオキャリアは、創業期こそ紙媒体を使った就職情報誌の発行という比較的伝統的な手法で始めながら、時代の変化を機敏に読み取り、インターネット化と多角化を同時並行で進めてきました。
その結果、新卒採用支援にとどまらず、中途採用や派遣、アウトソーシングなど人材ビジネス全域をカバーするまで成長し、さらにはテクノロジーを活かしたHRテックや海外事業展開まで手掛ける総合企業へと進化。
このプロセスには、「小さく生んで大きく育てる」「堅実な基盤上に必要な時だけ大きく投資する」というソリッドベンチャーの典型的アプローチが色濃く現れていると言えます。特に、
- 地道な黒字経営による財務体質の安定
- 外部資金とM&A戦略のバランス活用
- 組織柔軟性を高めるための人材育成と企業文化醸成
は、急成長するスタートアップや大手企業が苦手とする領域でありながら、ネオキャリアが得意とする分野です。
人材業界は法改正や経済状況に左右されやすくリスクも大きいですが、それを逆手に取り、常に変化を恐れずサービスを拡充してきた姿勢が成長の原動力となっています。
ソリッドベンチャーとしての強みを最大限に活かしながら、攻めの経営を続けている好例として、他の企業にも大きな示唆を与えるでしょう。
結論として、ネオキャリアの成長軌跡は「受託的・紙媒体的な領域からまず堅実にスタート→外部資金やM&Aで一段上の飛躍を図る→多角的にリスクを分散しながら安定収益を確保→テクノロジーとグローバル展開で新たな挑戦」という、ソリッドベンチャーのお手本ともいうべき道筋を体現しています。
今後も日本やアジア各国で人材サービスの需要が高まる中、同社がどのようにイノベーションを起こし続けるか注目されます。