2025.01.20
「ソリッドベンチャーとしての株式会社ペンシル」著者の視点
「ソリッドベンチャー」とは、外部からの大規模な資金調達に頼ることなく、自己資本や事業収益を再投資しながら着実に事業を拡大していく企業を指します。
本記事では、株式会社ペンシルが創業以来取り組んできたWebコンサルティング事業、その多角化戦略、資金調達の方針などを紐解き、同社がソリッドベンチャーとして成功を収めている要因を探っていきます。
ソリッドベンチャーとは
近年、スタートアップ企業の多くは、ベンチャーキャピタル(VC)などから大型の投資を受け、大胆な事業拡大を図るケースが増えています。
一方で、外部資金を安易に受け入れず、自己資金と事業収益による再投資を中心に堅実な経営基盤を築いていくスタイルの企業も存在します。こうした企業は、投資家の影響力を受けにくく、経営の独立性を高い水準で維持しながら、中長期的な視点での事業拡大を目指すことができます。
本稿で取り上げる株式会社ペンシル(Pencil)は、1995年の設立から外部からのエクイティファイナンスを行わずに事業を拡大してきた稀有な存在として注目されるWebコンサルティング企業です。
同社がどのようにしてWebコンサルティングをコアにサービス領域を拡大し、海外進出を含む多角化を実現してきたのか、またそれを可能にした組織戦略や理念について深堀りしていきます。
企業概要と創業期の背景
創業当初の事業モデル
株式会社ペンシルは1995年に設立されました。当初のビジネスモデルは、まだ世の中に広く普及していなかったWebサイトの企画・制作を中心に、顧客企業のネットプレゼンスを高める支援を行うというものです。
インターネットが一般に浸透し始めた1990年代後半は、企業がWebサイトを開設して情報を発信すること自体が新しい試みだったため、Web制作や企画力を持ったペンシルには大きな成長余地がありました。
Webサイト制作からスタートした同社は、やがてEC(電子商取引)サイトの構築支援や、企業のブランディング・プロモーションなど、より上流のマーケティングコンサルティングへとサービスを拡張していきます。
結果、単なる制作会社としての立ち位置に留まることなく、Webコンサルティングの総合ベンダーへと進化を遂げていきました。
現代表のバックグラウンド
現代表取締役社長CEOの倉橋美佳氏の経歴から、ペンシルがWebコンサルティングを軸にした企業へと成長する過程の一端が見えてきます。
倉橋氏は、ペンシル入社後に「通販サイトを中心に、サイトの企画・運用、プロモーション設計、運用など、Webコンサルティング業務全般」に携わり、自社サイト分析ツール「スマートチーター」を開発するなど、データ分析に基づくコンサルティングを重視してきました。
このように、Webマーケティング領域に特化したノウハウとツールを自社で整備することで、当初の制作中心のサービスからより戦略的なコンサルティングへと事業領域を広げることに成功しているのです。
ソリッドベンチャーとしての特徴
外部資金に頼らない自己資本経営
ペンシルは創業当初から一貫して自己資金による事業拡大を志向してきました。
大きな外部投資を受け入れず、いわゆるVCなどからの出資で急拡大するタイプのベンチャー企業とは対照的です。この方針には以下のメリットが考えられます。
- 経営の独立性の維持
エクイティファイナンスによる資金調達を行うと、株主の利害や短期的なリターン要請に対応する必要が生じます。自己資本経営であれば、経営陣は長期的な視点でサービス開発や顧客支援に取り組める点が大きいといえます。 - 持続的・安定的な成長
事業収益の再投資を基本とし、無理のない範囲で新規事業や技術投資を行うことで、財務リスクを抑えながら企業規模を拡大することができます。急激に人員を増やしたり、大規模な広告投下をしたりといった「成長の歪み」が生じにくい利点があります。 - 社員や顧客との関係性強化
ベンチャー企業でありながらも、安定感ある経営を目指す姿勢は、社員や顧客に対しても信頼を形成しやすいと考えられます。社員は短期的な売上目標に追われすぎることなく、顧客と向き合い長期視点でのコンサルティングができるでしょう。
このような特徴は、まさに「ソリッドベンチャー事例」に見られる典型的なパターンです。ペンシルは創業以来、自己資本での堅実経営を継続しながら、徐々に新規事業を拡大してきています。
Webコンサルティングの積み上げで得た実績
自己資本経営を可能にするためには、利益を生み出す基盤事業が不可欠です。ペンシルの場合、Webサイトの企画・制作、解析、コンサルティングなどをワンストップで提供してきたことで、顧客のリピーター化や高い顧客満足度を獲得できています。
- Webサイト制作からの継続的な保守・運用
- アクセス解析データをもとにした改善提案と実行
- ECサイトや企業サイトのプロモーション企画・広告運用支援
これらを一貫して行うことで、「ペンシルに任せておけばWeb集客やEC展開は安心」という評価を築き上げることができ、安定的な売上に寄与しているのです。
事業の多角化と海外展開
Web領域での周辺サービス
ペンシルは、もともとWebサイト制作やマーケティング支援を行ってきましたが、顧客のニーズに合わせてサービス範囲を広げてきました。例えば、
- Webプロモーション:各種オンライン広告やSNSなどを駆使した集客支援
- Webマーケティング:検索エンジン最適化(SEO)やコンテンツマーケティングの企画・実行
- アクセス解析:独自開発のツール「スマートチーター」によるデータ分析と改善提案
これにより、制作から運用、プロモーション、データ分析まですべてを一元的に依頼できるという利便性が顧客にとっての付加価値となっています。
また、アクセス解析の自社ツールを持っていることは、継続的なライセンス収入にもつながり、企業としての収益源を多角化させる手段にもなっています。
クロスボーダーEC支援と海外展開
ペンシルは2014年から台湾を皮切りに東南アジア圏へのクロスボーダーEC事業支援を開始しています。国内企業が海外に向けてECサイトを展開する際の言語や文化の違い、物流や決済のハードルをクリアするための総合的なサポートを提供することで、海外進出を目指す企業の後押しをしているのです。
日本国内だけでなく、海外企業にも同様のWebコンサルティングやEC展開支援を行うとなれば、さらに大きなビジネスチャンスが広がります。海外での実績を積み重ねながら、アジア全域への事業拡大を図ることで、さらなる成長が期待できるでしょう。
サービス多角化の成功要因
ペンシルが着実に多角化を進めている背景には、以下の要因が考えられます。
- コア事業であるWebコンサルティングの強み
Webサイトの制作・運用、データ分析のノウハウを長年培っているため、新領域のサービスでも顧客ニーズに応じたソリューション提案がしやすい。 - プロダクト開発への注力
「スマートチーター」のような独自の解析ツールを持ち、顧客企業へ使いやすい形で提供できる体制がある。これが他社差別化の要素となり、サービス拡張の基盤となる。 - 地理的拡張:海外市場へのスムーズな進出
国内で成功したWebコンサルティングモデルをベースに、海外(とりわけアジア圏)でのEC支援へ横展開しやすい。ネットを介してサービスを提供するビジネス構造のため、海外でも比較的短期間でビジネスを立ち上げやすい。
結果的に、自社のコア技術(Webコンサル・データ分析)を活かせる領域で段階的に事業を広げるというソリッドベンチャー的なアプローチが功を奏しているといえます。
ペンシルの強み
4-1. 強み:テクノロジー×コンサルティングの融合
ペンシルの特徴の一つは、テクノロジー(解析ツール・システム開発)とコンサルティング(企画・運用サポート)を高いレベルで融合させている点です。単なる制作会社や広告代理店の枠を超え、Web施策全般をカバーし、それらをデータに基づいて最適化することに長けています。
特に「スマートチーター」は、Webサイトのユーザー行動データを可視化し、売上アップやCVR向上を狙った施策を提案するうえで重要な役割を担っています。
一般的にデータ分析ソリューションを外部から購入したり、部分的に海外ツールを導入して活用する企業は多いですが、ペンシルは自社で開発したツールを使うため、カスタマイズ性とサポート体制が万全です。
こうした垂直統合型のサービス提供は、結果的に顧客の満足度を高め、リピートビジネスや長期契約につながりやすいでしょう。
ソリッドベンチャーとしての意義と今後
外部投資を受けないことで得られる優位性
ペンシルはソリッドベンチャーの典型として、自身の収益構造を安定化させながら少しずつ事業を拡大してきた企業です。外部株主の意向に左右されず、長期的なプロダクト開発や顧客サポートに注力できる点は、クライアントとの信頼関係を強固にし、リピーターや口コミを生む土台となります。
また、経営方針や社員への報酬体系なども経営陣が主体的に決定できるため、社内文化を独自に育むことが可能です。従業員に対しても長期的視野でキャリアを築ける場を提供しやすく、それが高い定着率や専門人材の育成につながっていくと考えられます。
今後の展開
- 海外市場のさらなる拡大
東南アジア地域でのクロスボーダーEC支援を足掛かりに、他の海外地域にも展開を広げる可能性があります。とくにECが急成長している地域では、ペンシルのノウハウが有用性を発揮すると思われます。 - AI活用や新たなツール開発
データ分析領域では、AIや機械学習の活用が今後さらに加速するでしょう。ペンシルの「スマートチーター」などの自社ツールも、今後AIやビッグデータを組み込む形で進化していくことで、より高度なマーケティングソリューションを提供できるようになる可能性が高いです。 - M&Aや提携による事業拡充
自己資金での経営を基本とする一方、戦略的なパートナーシップやM&Aによるリソース獲得も考えられます。たとえば国内外のテック企業や広告代理店との提携により、新たなサービス開発や顧客基盤の拡大を狙えるかもしれません。
ペンシル × ソリッドベンチャー
株式会社ペンシル(Pencil)は、1995年に設立されて以来、自己資金での着実な成長を続け、Webコンサルティングを核に多角的なサービスを展開しています。
アクセス解析ツール「スマートチーター」の自社開発に代表されるように、テクノロジーとコンサルティングの両面を強化し、国内外で顧客企業のWeb戦略をサポートする体制を整えました。
外部からの大規模資金調達に頼らず、あくまでも収益の再投資で新規事業を立ち上げるというソリッドベンチャーのスタンスは、経営の独立性と長期的ビジョンの実践を可能にします。
創業期にはWeb制作を中心に実績を積み上げ、徐々にコンサルティング領域へ移行し、自社ツール開発や海外展開といった次なるステージへも着実にステップアップしてきたことが、同社の成功の大きな要因のはずです。