株式会社サーバーワークス

事業内容

1.クラウドコンピューティングを活用したシステム企画・開発及び運用、2.インターネット関連システムの企画・開発及び運用、3.SaaS/ASPサービス/IT商品の企画・開発及び運用

代表取締役社長

大石 良

小学校5年生でプログラミングを始め、中学2年でプログラムが雑誌に掲載され収入を得る。丸紅入社後、インターネット事業に従事。2000年にECのASPで起業するも資金調達に失敗。その後、携帯向けCMS機能を加えた「ケータイ@」を開発し、大学向けサービスで成功。AWSに早期注目し、2008年に「社内サーバー購入禁止令」を発布。AWSインテグレーション事業を本格化し、震災時には日本赤十字社の復旧や義援金システムを構築。2019年、東証マザーズに上場を果たす。

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2025.01.20

「ソリッドベンチャーとしての株式会社サーバーワークス」著者の視点

近年、多くのベンチャー企業が大規模な資金調達(エクイティファイナンス)を行い、急速に事業拡大を進めるケースが増えています。一方で、莫大な外部資金に頼るのではなく、創業当初から事業収益や自己資金を柱に着実に事業を拡大していく企業も存在します。

これらの企業は「ソリッドベンチャー」と呼ばれ、投資家の短期リターン要請や大幅な経営介入を受けにくい、独立性の高い経営方針を貫くのが特徴です。

クラウドインテグレーターとして大きく成長してきた株式会社サーバーワークスは、2008年の設立当初からAmazon Web Services(AWS)をはじめとしたクラウドコンピューティングの導入支援やシステム開発を主力事業とし、長期的に専門性を磨き上げてきました。

その結果、AWS導入に関するコンサルティングや構築・運用、教育・研修サービスなど、多彩なITソリューションを提供できる体制を確立し、市場から高い評価を得ています。2019年には東証マザーズ(現在は市場区分変更により「グロース」)へ上場し、さらなる事業拡大の道筋を築き上げています。

この記事では、サーバーワークスの創業期や事業モデル、成長戦略などを整理しつつ、ソリッドベンチャーとしての特徴を分析します。

企業概要と創業期の背景

創業当初の事業モデル

株式会社サーバーワークスは、2008年に設立されました。当初の事業モデルは、クラウドコンピューティングに関連するシステム企画・開発及び運用を中心としたITサービスの提供でした。

同社が特に注力したのは、米Amazon社が展開するパブリッククラウドサービス「Amazon Web Services(AWS)」であり、創業初期からAWSの導入支援に深く関わってきた点が大きな特徴です。

クラウドコンピューティングが国内でまだ十分に普及していなかった2008年前後は、多くの企業がオンプレミスのサーバーを使ってシステムを運用していました。

その中で、サーバーワークスは早くから「AWSを活用することで、企業は従来型のサーバー投資を大幅に削減し、スピーディにシステムを構築できる」というメリットに着目し、「社内サーバー購入禁止令」まで出して自社のインフラをAWS上に移行するとともに、顧客企業にもクラウド導入を積極的に提案していたのです。

創業者・代表取締役社長のバックグラウンド

同社代表取締役社長である大石良氏は幼少期からプログラミングに親しみ、小学校5年生でプログラミングを開始。中学2年の時にはプログラムを雑誌に投稿し、掲載されたことで収入を得るなど、エンジニアとして早熟な才能を見せていました。

その後、丸紅に入社しインターネット事業に従事。2000年にはECのASP事業で起業するも、資金調達に苦戦し、一度挫折を経験します。

しかし、「携帯向けCMS機能を加えた『ケータイ@』を開発し、大学向けサービスとして事業化に成功する」など複数の挑戦を重ね、企業経営者としての経験と知見を蓄えてきました。

大石氏がAWSという新興のクラウドサービスに早期から目を付け、2008年にサーバーワークスを設立したことが、現在の事業基盤を築く大きな転機となったのです。

ソリッドベンチャーとしての成長戦略

資金調達と経営方針

サーバーワークスは創業当初、自己資金をベースに小規模に事業を始めています。クラウドを活用したITサービスには、物理的なサーバー設備などの大規模投資が不要であり、比較的低コストでビジネスをスタートできるというメリットがありました。

この特性が、同社の「外部投資に大きく依存せずに事業を拡大できる」というソリッドベンチャー型の経営に寄与したと考えられます。

しかし、同社は後にさらなる成長や事業拡大を図るため、2019年に東証マザーズ(現グロース市場)へ上場し、資金調達を実施しています。

上場時点までの期間は、基本的にAWSの導入支援などで得た利益を再投資し、堅実に経営基盤を整えてきたという点がソリッドベンチャーとしての特徴に当てはまります。

一度失敗を経験した大石氏が、「焦らずにクラウドの市場成長を見越しながら、専門性を高めていく」という戦略を取り続けた結果ともいえるでしょう。

AWS専業で専門性を高める

サーバーワークスは「AWS専業のクラウドインテグレーター」というポジションを明確に打ち出すことで、市場内での差別化を図りました。

数あるパブリッククラウドやプライベートクラウドの中でも、AWSに特化して技術力を磨いたことで、以下のような効果が得られました。

  1. 深いナレッジと実績の蓄積
    企業がクラウドを導入する際には、多種多様な要望やシステム連携の課題が発生します。AWSを熟知し、日々アップデートされるAWSサービスに対応できる技術者を揃えることで、難易度の高い案件にも対応可能となり、顧客からの信頼を獲得できます。
  2. AWSパートナー認定の最上位取得
    AWSは世界規模のクラウドプロバイダーとして、多数のパートナー企業を擁しています。サーバーワークスはAWSの最新技術に追随しながら実績を積むことで、AWSパートナー認定で最上位のステータスを得ています。これにより、公式サイトでのパートナー紹介や優先的な情報共有といった特典が受けられ、より多くの顧客とのマッチングが期待できます。
  3. クラウド教育・研修サービスの展開
    単にシステム導入を支援するだけでなく、AWSの使い方やクラウドネイティブの考え方を企業のエンジニアに教育する研修プログラムを提供できるのも強みです。これによりエンドユーザー企業が自走できる仕組みを構築し、長期的な顧客満足度の向上につなげています。

これらの取り組みを通じて、サーバーワークスは「AWSならサーバーワークスに相談すれば安心」というブランドイメージを確立し、市場での存在感を高めました。

事業の多角化と新規事業

インターネット関連システムの企画・開発及び運用

サーバーワークスの主力事業は、AWSを中心とするクラウド環境の設計・構築・運用ですが、その周辺には多様なサービスが展開されています。具体的には以下のようなソリューションを提供しています。

  • コンサルティングサービス: クラウド移行戦略の策定、費用対効果(ROI)の算出、セキュリティポリシーの整備など
  • 設計・構築サービス: AWSを利用したシステムアーキテクチャの設計、CI/CDパイプラインの整備、インフラコード管理など
  • 運用・保守サービス: 24時間365日の監視体制、障害対応、アップデート管理、コスト最適化など
  • トレーニング・研修: AWSを活用したい企業やエンジニアに向けた教育セミナー、ハンズオン、ワークショップなど

このように、コンサルから設計、運用、研修までワンストップでサポートできる体制を整備することで、顧客企業にとっては「クラウド活用を丸ごと任せられるパートナー」としての価値が高まります。

SaaS・ASPサービスやIT商品の企画・開発

加えて、サーバーワークスはクラウドネイティブなサービスを自社で開発・運営する動きも見せています。自社で蓄積した技術を活かして、新たなSaaS(Software as a Service)やASP事業を生み出すことで、受託型ビジネスに加えてストック型ビジネスも育てようとしています。

大石氏のこれまでの経歴でも、携帯向けCMSの「ケータイ@」や大学向けサービスなど、自社サービスを立ち上げてきた実績があります。

ソリッドベンチャーとしても、安定収益を生む自社プロダクトを持つことは長期的な経営基盤の強化につながるため、今後もこの路線をさらに拡充していくと考えられます。

ソリッドベンチャーとしての特徴

早期からAWSを選択し、技術力を磨いた判断力

創業期(2008年)はまだAWSが国内企業にとって十分に認知されていないタイミングでした。しかし大石氏は、オンプレミスからクラウドへ移行するトレンドが不可避であると確信し、「社内サーバー購入禁止令」を発布するなど徹底的にAWSに注力しました。

この先見性と一点集中の戦略が、同社を急成長へ導いた大きな要因です。

多くのIT企業は、複数のクラウドベンダーやオンプレ環境の構築などに対応する「総合力」をアピールしがちですが、サーバーワークスはAWS専業という尖ったアプローチでブランドを確立し、高い技術力と特化型のソリューション提供を可能にしました。

これは資本力の乏しい創業期において、リソースを集中投下する意味でも理にかなう戦略だったといえます。

安定収益と自己資金による堅実な成長

ソリッドベンチャーの特徴として、外部資本よりも自社の営業利益を再投資して成長を重ねるという姿勢が挙げられます。

サーバーワークスの場合、クラウド導入支援や運用といった継続的なサービスを展開しているため、一定のストック型収益を得やすく、そのリソースを人材採用や新規事業に振り向けることができたと考えられます。

創業当初から大きな外部投資を受けずに成長してこれた背景には、コンサルティング×運用保守×教育というセットで顧客を長期間囲い込むビジネスモデルが機能していたことが大きいでしょう。クラウド分野では技術力が欠かせないため、人材育成にも余力を注げる体制が整っていたと推察されます。

IPOによるさらなる事業拡大

サーバーワークスは2019年に東証マザーズへ上場し、新たな資金を獲得しました。これはソリッドベンチャーが必ずしも「一切の外部資金調達を拒否する」というわけではなく、事業フェーズに応じて必要なキャピタルを柔軟に得るという選択をしたことを示しています。

上場に伴い調達した資金は、人材採用、サービス拡充、研究開発などに振り向けられ、さらなる市場拡大を目指すと考えられます。

実際、AWSの市場は世界的に伸び続けており、日本企業のDX(デジタル・トランスフォーメーション)需要も相まって、クラウド導入支援ビジネスにはまだまだ大きな成長余地が残されています。

サーバーワークス × ソリッドベンチャーとしての価値

株式会社サーバーワークスは、AWSを軸としたクラウドサービスの導入支援に特化し、高い専門性を追求することで着実に事業規模を拡大してきました。

創業からしばらくは自己資金と事業収益を再投資する形で経営基盤を固め、後に上場を果たすことでさらなる飛躍を狙うという、堅実かつ柔軟なソリッドベンチャー経営の好例だと言えます。

同社の成長要因をまとめると、以下のようになります。

  1. 先見性のある事業選択
    AWSが黎明期にあった頃から着目し、専業インテグレーターとしての強みを構築。
  2. 確固たる技術力とブランド
    AWSの最上位パートナーとして高いレベルのサービスを提供し、顧客からの信頼を獲得。
  3. 自己資本をベースとした安定経営
    一定のストック型収益を確保しながら、上場まで資本政策を慎重に進めることで、長期的な企業価値向上を目指した。
  4. 経営者の実践知と失敗経験
    大石氏の過去の起業経験や失敗から学んだ教訓を活かし、焦らずに専門性を磨く戦略を貫いた。

ソリッドベンチャーとしてのサーバーワークスの歩みは、「外部投資に依存せず、自らのコア技術と顧客満足度の向上に注力しながら成長する」というベンチャー経営の理想像を体現するものです。

今後も日本企業のクラウド化やDX推進が加速する中、同社はクラウドネイティブ時代を牽引する存在として、ますます注目を集め続けるでしょう。