株式会社SHIFT

事業内容

ソフトウェアの品質保証、テスト事業

代表取締役社長

丹下 大

1974年広島県に生まれる。2000年京都大学大学院 工学研究科機械物理工学修了。株式会社インクス(現 SOLIZE株式会社)に入社。たった3名のコンサルティング部門を、5年で50億円、140人のコンサルティング部隊に成長させ、コンサルティング部門を牽引。2005年9月、コンサルティング部門マネージャーを経て、株式会社SHIFTを設立。代表取締役に就任。2019年10月、東証マザーズ市場から東証一部に市場を変更。「スマートな社会の実現」へ向け、社会インフラ企業を創るべく、SHIFTグループの企業フェーズ、企業価値をより高みへと導き、躍進をリード。

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2024.11.21

「ソリッドベンチャーとしてのSHIFT」著者の視点

スタートアップの世界では、膨大な資金を調達して赤字を掘りながら一気にスケールを目指す「VC型」モデルが注目されがちです。

しかし一方で、既存事業での安定収益を基盤に、堅実かつ段階的に事業多角化や新規市場開拓を進める「ソリッドベンチャー」的な企業の成功例も少なくありません。

本記事では、ソフトウェアテストに特化する形で創業し、今や1万人以上の規模に成長したSHIFTを取り上げます。同社は「ソフトウェアテストの重要性」に早くから着目し、市場の需要拡大に合わせて多角化やM&Aを組み合わせながら成長を遂げてきました。

このプロセスには、ソリッドベンチャーが持つ特徴―堅実なビジネスモデルの延長線上での多角化、そして安定収益をもとに必要なときに外部資金も活用する―が色濃く現れています。

会社概要と創業期

会社情報

  • 会社名:株式会社SHIFT
  • 会社URLhttps://www.shiftinc.jp/
  • 代表者名:丹下 大(代表取締役社長)
  • 設立:2005年

SHIFTは2005年の創業後、2014年に東証マザーズ上場、2016年に東証一部(現プライム市場に該当)への市場変更を果たしています。

創業当初はソフトウェアテストだけでなく、コンサルティングやツール開発も手がけるなど広がりを見せ、上場以降はM&Aを積極活用しながら事業領域を拡大してきました。

創業当初の事業モデル:ソフトウェアテストの専門企業

SHIFTがユニークなのは、「ソフトウェアテスト」を単なる開発工程の付随業務ではなく、主役の事業領域と位置づけた点です。当時はテストが軽視されがちで、アプリやシステムの最終確認段階で一気にこなす、という現場が多く、品質保証という概念がまだ浸透していなかったのです。

丹下 大氏は、新卒で株式会社インクス(現 SOLIZE株式会社)に入社したあと「テストこそが品質保証に不可欠であり、専門的なノウハウが求められる領域だ」という確信を得ました。その思いが起点となり、「すべてのソフトウェアにMade in Japanの品質を」という理念のもと、SHIFTを創業。

SHIFTは創業当初からテスト工程を軽んじない、むしろ“SHIFT LEFT”(テストをもっと開発の上流工程に組み込む) というアプローチを標榜し、テストの重要性を顧客企業に訴求することでマーケットを切り拓きました。

ソリッドベンチャー的視点から見るSHIFT

1. 安定収益モデルを最初に確立

SHIFTは、“テスト請負”という安定的なビジネスモデルを確立したことがソリッドベンチャーとしての第一歩でした。開発現場で不可欠な品質保証ニーズに対応し、企業にとっては大きな内製コストを削減できるメリットがあります。

このモデルの強みは、プロジェクトごとにテスト業務が発生するため、継続的受注につながりやすいという点です。

初期投資もそこまで大きくなく、人的リソースを拡充すれば売上を伸ばせる構造であることから、ソリッドに成長しやすい基盤ができたと言えます。

2. 必要なタイミングでの外部資金活用と上場

SHIFTは、創業当初は自己資金で事業を立ち上げました。その後、テスト需要が拡大する中で「より大きな案件への対応」「さらなる人材採用」「ツール開発」などを加速させるために、2014年にマザーズ上場を果たし、資金調達と社会的信用を得ています。

ソリッドベンチャーとはいえ、外部資金を一切使わないわけではなく、成長を加速させたい段階で必要なだけ調達するという柔軟なアプローチをとった点が特徴的です。

加えて、2016年には東証一部上場を実現し、大規模案件獲得やM&Aに必要なキャッシュや信用も確保したことで事業領域拡大をさらに押し進めました。

3. コアコンピタンスを活かした多角化

ソリッドベンチャーが成功する要因の一つに、「コアコンピタンスを軸に、無理のない新規事業を展開する」という点があります。SHIFTの場合、ソフトウェアテストがコアコンピタンスです。そこから派生する形で、

  • テスト自動化ツール
  • セキュリティテスト
  • クラウドテスト
  • AI/IoT向けの先端テスト
  • 品質保証コンサルティング

といった関連サービスを開発し、“品質保証をトータルで支援する企業”へシフトしています。

これは、「テスト」という専門領域で獲得した信頼やノウハウ、顧客基盤をうまく転用した多角化であり、スタートアップにありがちな“全く別の領域への急な飛び込み”ではありません。ここにソリッドベンチャー的な安定感が見られます。

4. M&A戦略によるスケール

SHIFTの成長を後押しする大きな要因の一つは、M&Aの積極活用です。ソリッドベンチャーでは、多額の調達資金を赤字補填や爆発的広告費用に投下するというよりも、戦略的なM&Aで事業領域を拡大するケースが増えています。

SHIFTは上場後、複数の企業をグループ化し、例えばソフトウェア開発力を強化したり、特定業界(金融、ゲーム、組み込みなど)に強みを持つ企業を取り込んだりと、短期間で各業界への対応力を高めています。

これにより、1社単独で内製リソースを増やすよりも早く幅広い分野の案件に対応できるようになり、市場シェアと売上を大きく伸ばしてきたのです。

事業多角化の具体例

(1) セキュリティテスト

近年、サイバー攻撃が増加する中で、セキュリティテスト(脆弱性診断やペネトレーションテストなど)の需要が高まりました。SHIFTは自社のソフトウェア品質保証体制に、セキュリティ対策工程を盛り込むことで、開発初期から安全性もチェックする包括的サービスを開始。

これによって“品質保証=単なるバグチェック”から、“包括的なリスク管理”へと顧客の認識を広げ、付加価値の高いビジネスモデルを築きました。

(2) AI/IoT/クラウドの先端テスト

AIやIoTなど、新技術が増えるほどテストの複雑度が増します。例えばディープラーニングで動くシステムのテストは、“正解”が明確に定義しにくく、従来の手法では不十分です。SHIFTはこうした先端分野のテスト方法論を研究・開発し、それをサービス化することで市場を開拓。

クラウドやEdgeコンピューティングなど、次々に登場する新技術へ柔軟に対応できる体制を整えています。

(3) 上流工程向けの品質保証コンサルティング

これまで、テストは「開発の最終段階で行う」ものと考えられていましたが、SHIFTはこれを“SHIFT LEFT”(より上流で品質を作り込む)という考え方で転換。

顧客に対し品質保証の設計段階から入り込み、要件定義やUI/UX設計、アジャイル開発のプロセスなど全般でアドバイスを実施。結果として、テスト工程だけでなく、開発プロセス全般に付加価値を提供するコンサル型ビジネスを確立しました。これにより単価アップや、さらに安定的な長期契約を獲得しています。

市場と地域戦略

市場:ソフトウェアテストの拡大傾向

あらゆる業界でソフトウェアがビジネスの中心を占めるようになり、バグや障害が企業に大損害をもたらすリスクが高まっています。

とりわけ、金融、交通、医療など社会インフラの分野では品質保証が死活問題です。こうした背景から、ソフトウェアテスト市場は継続的に拡大し、2020年代に入っても成長が加速していると言われます。

SHIFTはこのニーズ拡大のタイミングで専門企業として台頭し、「テストのプロ集団」として地位を確立しました。

地域:国内からグローバルへ

SHIFTの本社は東京都港区にあり、全国の主要都市に拠点を展開しています。日本国内でのニーズを吸収したうえで、今後はグローバルに事業を拡大していく方針を示しています。

大手企業を中心に海外でも開発拠点を持つケースが増え、グローバル水準の品質保証が求められる中で、海外テスト拠点の設置や現地企業の買収といった展開も十分考えられます。

失敗事例や課題

ソリッドベンチャー企業であっても、急成長に伴う人材不足や組織拡大の問題は避けられません。SHIFTもテストエンジニアや品質保証コンサルタントの採用・育成が追いつかず、一時的にプロジェクトのリソースが足りなくなるなどの課題があったと言われます。

しかし、同社は独自の研修制度やキャリアパスを整えることで、多くの未経験者や転職者を受け入れつつ育成する仕組みを作り上げました。組織文化の醸成にも注力し、社員がテストエンジニアとして誇りを持てるような風土を築くことで、人材の離職率を低く抑えていると言われます。

SHIFTに見るソリッドベンチャーのエッセンス

  1. 地味な領域こそ大きなチャンス
    SHIFTは“テスト”という、当時は軽視されがちな領域に特化。地味ではあるが不可欠な工程であったため、安定的な需要と成長の余地を備えていた。
  2. 先に安定収益をつくり、その上で段階的に投資・拡大
    テストサービスで蓄えた収益を原資に、関連ツールやコンサルへと横展開。必要なフェーズで上場も活用し、資本を注入しながら事業規模を拡大。
  3. 専門性×多角化
    テストというコアコンピタンスを軸に、AIやセキュリティなど最先端分野のテストや品質保証コンサルに派生。多角化をすることで売上ポートフォリオを拡充し、リスクを分散しながらも高い付加価値を実現。
  4. M&Aで大きな飛躍
    システム開発・コンサルなど周辺領域の企業をグループ化し、短期間で開発上流から下流まで対応可能な体制を整えた。ソリッドベンチャーの戦略として、他社を買収してリソースや技術を取り込むのは有効な手段。
  5. 人材育成と組織文化の確立
    ソフトウェアテストという専門領域ゆえ、エンジニアのキャリアパスが見えにくいという課題を、独自の研修制度や組織文化で解決。急成長を支える人材戦略が鍵となった。

今後の展望と‥‥

SHIFTは「すべてのソフトウェアにMade in Japanの品質を」という理念を掲げ、ソフトウェアテスト業界を変えてきました。

国内では既にトップクラスのシェアを獲得し、各産業セクターへの浸透も進んでいます。今後はさらに海外市場や先端技術領域への展開が視野にあり、品質保証という観点で企業のDXを一層後押しする存在となるでしょう。

ソリッドベンチャーという観点からみると、SHIFTの成長には以下のポイントが際立ちます。

  1. 安定した基盤(テスト専門事業)を築き、決して大きな赤字を出さずにスケールした
  2. マザーズ上場→東証一部上場→M&A多用という、段階的な投資を行う戦略
  3. テストノウハウ(コアコンピタンス)を武器に多角化し、リスクを最小化しながら付加価値を高めた
  4. 地味な領域を選んだがゆえのブルーオーシャンを形成し、専門性と品質保証を強みに独自の地位を確立

スタートアップが世界的な注目を集める中、「大きく負ける可能性があるが大勝を狙う」ビジネスモデルだけでなく、このように“勝ち筋”を明確にしつつ安定収益で事業を拡大するソリッドベンチャー的な経営は、多くの起業家・経営者にとって非常に参考になるでしょう。

SHIFTの成功は、「テスト領域なんて稼げるの?」という世間の固定観念を覆し、マーケットが見落としていた重要かつ必要性が増す分野で専門性を確立したことが大きな勝因です。

裏方業務でも、伸びゆくマーケットと顧客の痛みを捉えれば、十分なビジネスチャンスがあります。そして、ソリッドベンチャーとしての成長ストーリーは、地道なところから始めつつ上場とM&Aの活用で大きく花開くことを証明した例といえます。