2024.11.25
「ソリッドベンチャーとしてのユナイトアンドグロウ株式会社」著者の視点
ユナイトアンドグロウ株式会社(Unite and Grow、以下U&Gと表記)は自己資金ベースでの堅実な事業運営を軸に、コーポレートIT部門の業務支援事業を成長させてきました。
同社のビジョンや特徴的なサービスである「シェアード社員」、そして代表の須田騎一朗氏の多彩な経歴などに着目し、ソリッドベンチャー企業としての歩みを分析します。
ソリッドベンチャーとは何か
ソリッドベンチャーの定義
ソリッドベンチャーとは、大規模な外部資金調達を中心とせず、自己資金や事業収益を再投資して堅実に規模を拡大していくスタートアップ企業を指します。
一般的にスタートアップは、急成長を促すためベンチャーキャピタルなどから大きな出資を得る方法が注目されがちです。
しかしソリッドベンチャーは、外部資本の影響を最小限に抑えつつ、長期的な視点で事業基盤を築いていく点が大きな特徴です。このようなソリッドベンチャーの経営手法には、以下のような利点があります。
- 経営の独立性
外部の投資家や株主からの短期的なリターン要求や経営干渉を受けにくい。 - 長期視点での意思決定
自己資金を活用することで、長期的な展望に基づいた戦略を描きやすい。 - 企業文化の保持
創業者の理念やカルチャーを柔軟かつ強固に維持できる。
U&Gに見るソリッドベンチャーの特徴
U&Gは、2005年の創業以来、コーポレートIT部門の業務支援を中核としながら徐々に事業領域を拡大してきました。自社資金や事業収益を基盤とした着実な経営を進め、「シェアード社員」という独自のサービススタイルを創出。
会社概要と創業期の背景
会社概要
- 会社名:ユナイトアンドグロウ株式会社 (Unite and Grow)
- 設立:2005年
- 代表者名:須田 騎一朗(代表取締役社長)
- 所在地:東京都千代田区
- 公式サイト:https://www.ug-inc.net/
U&Gは企業のIT部門をサポートするコーポレートITサービス企業として、IT戦略策定やシステム導入・運用、セキュリティ対策などを手掛けてきました。ITの専門家を雇用しない中小企業や、IT人材不足に悩む大企業に対して、「必要なときに必要なだけ使えるIT部門」として機能することを目指しています。
創業者 須田騎一朗氏のバックグラウンド
U&Gの代表取締役社長である須田騎一朗氏は、1966年生まれ。早稲田大学第一文学部を中退し、出版社やマーケティングリサーチ会社、パソコン通信会社、広告代理店など多様な業界・職種を経験してきました。
- 1997年には(株)キューアンドエー(現キューアンドエー(株))を創業し、代表取締役社長に就任。サポート事業やコールセンター事業などを中心に成果を上げた後、新たにU&Gを立ち上げるに至った経緯があります。
- メディア、通信、広告など、異なる業種で得た知見が、IT部門支援や人材サービスを行う上での多角的な視点につながっています。
創業当初の事業モデル
U&Gは創業時、企業のIT部門を代替または補完するコーポレートIT部門の業務支援をメイン事業としました。システム導入や運用に関するコンサルティング、セキュリティ対策、ヘルプデスクなどを担い、社内ITスタッフを持たない企業や、IT部門が慢性的に忙しい企業に対して実務レベルで支援を行うモデルです。
- 創業時の特徴:大企業だけでなく中小企業にも目を向け、カスタマイズ性の高い支援を提供。
- 市場の背景:IT技術が急速に進化し、企業側のIT人材不足が顕在化していた時期。外注やコンサルサービスの需要が高まり、ビジネスチャンスが拡大していました。
成長戦略と資金調達
「シェアード社員」という新たな働き方の提案
U&Gの成長を牽引するのが、「シェアード社員」という独自の働き方です。
- シェアード社員の仕組み:一人のIT人材が複数企業のIT部門をサポートする兼務スタイル。必要な時間・リソースを各企業に割り振ることで、効率的かつ柔軟にITサポートを提供します。
- メリット:
- 企業側:フルタイムでITスタッフを雇用できない中小企業でも、高度なスキルを持つIT担当者を確保できる。
- 社員側:多様な企業のIT課題に触れることで、スキルアップとキャリア形成が可能。働き方も柔軟になりやすい。
- 企業側:フルタイムでITスタッフを雇用できない中小企業でも、高度なスキルを持つIT担当者を確保できる。
このモデルが、IT人材不足という社会課題解決と個人の働き方改革の両面を実現し、U&Gの差別化要因になっています。
堅実な事業拡大と外部資金
U&Gは創業当初から自己資金で事業をスタートしてソリッドベンチャー的な拡大成長をしております。
- ソリッドベンチャーの特徴:大規模な増資や上場前資金調達に依存するのではなく、事業のキャッシュフローや売上拡大を基本に、必要最小限の資金調達を行う。
- メリット:短期的なリターン圧力が少なく、サービス品質の向上や「シェアード社員」制度の磨き込みなどに集中できる。
事業の多角化と新規事業
コーポレートIT部門支援の拡張
メイン事業であるコーポレートIT支援を軸に、U&Gは下記のような関連サービスを拡充してきました。
- ITコンサルティング:IT戦略立案やシステム選定、セキュリティ施策など、上流工程から企業をサポート。
- 運用・保守サービス:導入したシステムの定常運用から障害対応まで、運用負荷の大きい部分を専門スタッフが請け負う。
- ヘルプデスク:社員からの問い合わせ対応やトラブルシュートを実施。ITリテラシーが低い現場でも安心してIT活用が可能。
これらの機能を「シェアード社員」によって複数企業へ柔軟に提供することで、規模の大きい顧客だけでなく中小企業にもサービスを届けやすい仕組みを確立しています。
働き方変革と企業変革支援
U&Gは、「シェアード社員」の仕組みを提供するだけでなく、企業が抱える働き方や人事制度の課題にも取り組んでいます。
IT部門の支援にとどまらず、コーポレート全体の課題を俯瞰する立場から企業変革をサポートできることが強みです。
- 人材育成・組織開発:IT人材不足の背景には、組織文化やマネジメント手法の遅れといった問題もある。U&GはIT導入と並行して人材育成や組織改革の相談にも乗る姿勢を打ち出しています。
- バックオフィス連携:IT部門だけでなく、総務や経理、人事などバックオフィス部門との連携を最適化する取り組みも支援可能。デジタル化による業務効率向上やリモートワーク体制の構築などが例として挙げられます。
潜在的なサービス拡張領域
同社のビジネスモデルは、IT人材不足を解消する「シェアード社員」サービスに大きく依存しています。しかし、IT人材以外の専門職でも同様のシェアリングモデルが成り立つ可能性はあります。
例えば財務・経理のプロフェッショナル、デザイナー、法務など、特定領域の専門家が足りない企業は少なくありません。
- 今後の多角化の可能性:U&Gがこれまで培った「シェアード社員」のノウハウを、IT以外の職種にも横展開できる余地がある。
- フリーランスとの連携:日本ではフリーランス人口が増加傾向にあり、企業と個人をつなぐマッチングの在り方が注目されている。U&Gがより広範な職種に対応すれば、企業と個人の双方のニーズを満たす新たな市場を切り開くかもしれません。
U&Gが示すソリッドベンチャーの意義
社会課題への取り組み
IT人材不足は、企業競争力の低下だけでなく、日本社会のDX遅延にも直結します。U&Gの「シェアード社員」は、企業が必要とするスキルを柔軟に提供する仕組みを生み出し、社会的課題の解決に寄与しています。
自己資金ベースの長期的視野
大幅な外部資本に頼らないソリッドベンチャー型経営は、短期的な利益ではなく長期的な事業価値創造を重視できるメリットがあります。U&Gは着実に顧客満足度や社員満足度を高めることで、結果的に安定した成長軌道を築いていると言えます。
新しい働き方の普及
「シェアード社員」は、従来の正社員・派遣社員という枠組みに囚われない働き方です。各企業の業務量に合わせてリソースを配分でき、社員もスキルアップを図りやすい環境を得られます。U&Gがこのモデルを普及させることで、働き方改革やダイバーシティ推進の一助となる可能性を秘めています。
ユナイトアンドグロウ株式会社は、コーポレートIT部門の業務支援という明確な領域で確固たる地位を築きながら、新しい働き方である「シェアード社員」を導入することで、IT人材不足という社会課題に挑んでいます。
その成長モデルは、大規模なベンチャーキャピタルの支援を受けず、自己資金や事業収益を基盤としたソリッドベンチャー的な経営を行う点でも注目に値します。
創業者・須田騎一朗氏の多彩な業界経験を通じて得られた洞察が、IT領域だけでなく企業文化や働き方へも波及。企業と人材のマッチングを、単なる派遣やアウトソーシングではなく「兼務」という形で柔軟に仕組み化している点は非常にユニークです。
今後、事業の多角化が進み、IT人材に加えて他分野の専門人材をシェアする形態へと拡張する可能性も考えられます。
一方で、サービスの拡大に伴って、人材マネジメントや企業文化の維持、競合差別化などの課題は複雑化するでしょう。とりわけ「シェアード社員」の評価制度やキャリアパスの設計は、従来型の雇用モデルとは違う難しさを伴います。
しかし、ソリッドベンチャーの強みである長期的視野を活かし、着実にノウハウを蓄積することで、顧客企業・社員・社会の三方良しを実現できる道筋が見えています。
結果として、U&Gの事例は「IT人材不足」「働き方改革」「ソリッドベンチャー型の成長モデル」という複数の社会的テーマに対する実践的な解答を示していると言えます。
大きな外部資金に左右されずに自社の強みを磨き上げ、新しい雇用形態を確立していくこの試みは、今後のスタートアップや中小企業の成長戦略にとって、示唆に富む例と言えるでしょう。