ソリッドベンチャーは既存事業を活かした新たな挑戦?

公開日:2024.09.12

更新日:2025.4.16

筆者:エンジェルラウンド株式会社 大越匠

ソリッドベンチャーは、現行の収益源をしっかりと維持しながら、新たな事業機会を探り、地に足をつけた成長を目指す企業モデルです。すでに安定したキャッシュフローを生む事業があるからこそ、大胆な挑戦にも柔軟に取り組むことができ、長期的な視野でのビジネス拡大が可能となります。リスクを抑えつつ新規領域を開拓する手堅いアプローチが、ソリッドベンチャーの最大の強みといえるでしょう。

ハイライト

  • 既存事業の安定収益を活かしつつ、新規分野へ段階的に挑戦しやすい
  • 既存顧客基盤をテコに、リスクを抑えながら市場シェアを拡大できる
  • 組織体制や人材強化に余裕を持てるため、長期的視点で持続成長を目指せる

既存事業を活かすメリット――リスク分散と成長余力

安定収益がリスクを軽減

ソリッドベンチャーの最大の特長は、既存事業からの安定したキャッシュフローを核に、新規事業への投資や試行錯誤を進められる点です。安定収益があるため、仮に新分野で失敗してもすぐに資金難に陥るリスクは低く、企業全体が揺らぎにくいという強みに繋がります。

  • 失敗しても“屋台骨”である既存事業がカバー
  • 短期的な赤字を背負わず、長期的視野で新規領域を検証可能

たとえば、INTLOOP社(コンサルティング&フリーランスマッチング事業)では、製造業向けの戦略コンサルという祖業からの収益基盤を活かし、新しいコンサルモデルや人材サービスへ投資を行ってきました。既存事業のキャッシュがあるからこそ、新しいモデルを急拡大させるリスクを背負いやすかったのです。

既存顧客基盤を活用した市場拡大

ソリッドベンチャーにおいて、既存事業で培った顧客基盤や信頼関係は極めて大きなアドバンテージです。まったくゼロから市場を開拓する必要がないため、新プロダクトや新サービスを導入しやすく、追加コストやリスクを抑えた市場拡張が可能となります。

  • 既存の顧客ネットワークを活かし、導入ハードルを下げる
  • すでに築かれた信頼関係を“足がかり”に、スムーズにアップセル・クロスセル

M&A仲介を例にすれば、M&A総研ホールディングス社は既存の仲介業務の顧客網を起点に、企業評価やDX支援など別領域のサービスを少しずつ拡充。顧客接点が既にあるため、一歩ずつサービスの幅を広げやすいのです。

人材と組織の強化

安定収入がある企業は、人材採用や組織体制強化に投資する余力が大きいのも特長です。新規事業立ち上げ時には、多様なスキルを持つ人材や新しいチームが必要になりますが、既存事業が収益を支えることで人材登用や研修が容易になります。

  • 採用ブランディングを強化し、優秀な人材を呼び込みやすい
  • 研修や育成にコストをかけられるため、スキルの底上げが可能

コンサル業界の例では、ベイカレント・コンサルティングが安定したクライアント基盤を背景に、積極的な採用と研修制度を整備。組織全体の専門性が向上し、さらに付加価値の高い新規サービスを打ち出す好循環を形成しています。

新規事業へのリスク管理――堅実なアプローチ

段階的な成長――ジワ新規の展開

スタートアップのように“ドンと大きく張る”のではなく、既存事業に隣接した領域で少しずつ新規事業を広げるのがソリッドベンチャーの王道パターンです。この「ジワ新規」戦略なら、大きな資金投下を一度にしなくても済むため、失敗してもダメージを抑えられます。

  • 既存事業との親和性が高い分野で実験し、段階的に拡大
  • 小規模から始めることで市場の反応を見極め、柔軟に修正

たとえば、AppleがiPhoneなどハードウェアから徐々にサービス事業(Apple MusicやApp Store)へ移行し、段階的に収益源を拡張していった例は有名です。既存顧客の利用状況や嗜好を把握しているからこそ、無理なく新たな柱を構築できました。

既存事業とのシナジーを最大化

新規事業が既存事業と高い親和性を持つほど、シナジー効果を得やすくなります。販売チャネルや技術ノウハウ、顧客管理システムなどを共有することで、新規領域の成長スピードを加速可能。

  • 顧客リソースやブランド認知を新事業へ横展開
  • 社内のスキル・ナレッジを共用し、立ち上がりをスピードアップ

具体的には、ソフトウェア開発支援を祖業とするINTLOOP社が、製造業向け戦略コンサルのノウハウを転用しながら、フリーランスのハイブリッドチーム構築やDX人材の派遣事業に展開。これによって別事業間の相乗効果が生まれ、顧客満足度をさらに高めています。

ソリッドベンチャーを目指すためのアクションプラン

既存事業のさらなる強化

まずは企業の“屋台骨”となる既存事業の強化が最優先です。競争優位を保ちつつ利益率を上げることで、新規投資余力を生み出します。

  • 市場でのシェア拡大やコスト改善に注力し、キャッシュフローを安定化
  • 顧客満足度やブランド価値を高め、リピート率・紹介率を向上

安定した収益があれば、新規事業で多少の赤字や失敗が出てもカバー可能なので、“失敗を許容できる土壌”をつくることこそが鍵となります。

段階的な市場拡大計画

新規事業は既存事業との関連性が高い領域を手始めにして、小さく試して市場の反応を検証するのが堅実です。うまく行く兆しが見えたら拡張、ダメなら一旦撤退やピボット。こうした“素早いPDCA”を可能にする組織づくりが求められます。

  • 小規模テストマーケティング→検証→段階的拡張
  • 既存の販売チャネルや顧客ネットワークを部分的に活用し、リスクを抑える

組織体制と人材育成

ソリッドベンチャーを強固にするには、既存事業で得た収益を人材育成や組織づくりに再投資するサイクルが重要です。

  • 採用ブランディングを強化し、専門人材や若手をバランスよく確保
  • 社内研修や職種転換制度を整備し、新規プロジェクトに対応できる人材を育成

結果として、新旧事業を跨いで活躍できる人材が増えれば、どの領域でも着実な拡大が見込めます。

ソリッドベンチャーがもたらす新たな可能性

ソリッドベンチャーは、“バランス感覚”をもって成長を目指す経営スタイルです。短期間で爆発的に伸びるスタートアップほど派手ではないかもしれませんが、持続的かつ安定的な成長が期待できるのは大きな魅力と言えます。

  • マイルドなリスクテイクで、長期的な利益確保を狙える
  • 既存顧客や既存組織との連動をベースに、無理なく新規事業を育成
  • 優秀な人材が集まりやすい環境を作り、新たなアイデアも生まれやすい

今後もビジネス環境の変化が続く中で、「成功確率を高めながら新しい領域を開拓したい」と考える経営者にとって、ソリッドベンチャーの手法は大いに参考になるはずです。

ソリッドベンチャーが切り拓く持続的な成長への道

既存事業という“土台”がしっかりしているからこそ、企業は新たな一手を大胆に打ち出せます。堅実な収益を守りつつ、段階的に新規領域を広げることで、失敗を許容しながらも成長を加速させられるのがソリッドベンチャーの強みです。

短期的なブームや外部投資に依存するスタートアップとは異なり、地道な積み重ねによって長期的な安定と競争優位を築ける点が、ソリッドベンチャーならではの魅力といえます。自社の経営ビジョンに「継続性」「安定性」「組織力強化」を重視するなら、このモデルをいま一度検討してみてはいかがでしょうか。

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