ソリッドベンチャーを簡単に説明すると?

公開日:2024.09.09

更新日:2025.4.25

筆者:エンジェルラウンド株式会社 大越匠

ソリッドベンチャーとは、創業初期から「稼げる」事業を立ち上げ、そこから得た利益を新規事業に再投資することで持続的な成長を狙うビジネスモデルです。スタートアップがベンチャーキャピタルなど外部投資に頼りつつ急成長を狙うのとは対照的に、ソリッドベンチャーは早期黒字化を最優先し、着実にリスクを抑えながら事業を拡大していきます。本記事では、その特徴やメリット・デメリット、そして成功例と具体的な立ち上げ手法までをまとめました。「堅実に稼ぎ、攻めの新事業へ」と考える方には必見の内容です。

ハイライト

  • 早期黒字化でリスクを最小化: 創業直後からの収益確保により、資金ショートを回避しつつ再投資を可能に。
  • 既存事業をキャッシュエンジン化: 安定的な受託・コンサル・人材ビジネスで利益を稼ぎ、新規事業やM&Aに挑戦。
  • 長期視点での拡大戦略: スタートアップと異なる安定路線で、段階的に事業を横展開し、大きな成果を狙う。

ソリッドベンチャーとは何か?

ソリッドベンチャーとは、創業初期段階から収益を実現する事業を構築し、それをキャッシュエンジンとして新事業を持続的に模索する企業を指します。早期黒字化したコア事業の収益を活用しながら、新たな領域へのチャレンジや資金調達を柔軟に行うことで、持続可能な成長とリスク分散を狙うのが特徴です。ベンチャーキャピタルへの依存度が低いため、資本政策を多様に選べる利点があり、事業運営の自由度が高まります。

  • キャッシュ・カウ(稼ぎ頭)事業を確保
    受託開発やコンサル、人材関連など、比較的早期に売上を立てやすい事業を最初の柱とします。
  • 持続的なリスク管理
    新規事業が失敗しても、既存事業の黒字によって倒産リスクを大幅に低減。
  • 長期的視点で成長
    短期で爆発的リターンを狙うのではなく、安定運営と段階的な事業拡張を重視。

こうしたモデルは、一気に成長するスタートアップに比べ地味ではありますが、昨今の不確実なビジネス環境では安全性と柔軟性から大きな注目を集めています。

ソリッドベンチャーとスタートアップの違い

ソリッドベンチャーとスタートアップは、同じ「新しいビジネスを興す企業」でありながら、根本のアプローチが異なります。

  1. 資金調達のスタンス
    • スタートアップ: ベンチャーキャピタルなど外部から大規模な資金を調達し、短期間での急成長を狙う。
    • ソリッドベンチャー: 早期黒字化し、自己資本やデットファイナンスを中心に成長資金を回す。必要なタイミングでのみエクイティ調達を検討。
  2. リスク管理と事業運営
    • スタートアップ: 大きく成長すればリターンも大きいが、資金切れや方向転換のリスクが高い。
    • ソリッドベンチャー: 既存事業からの安定収益でリスクを吸収しつつ、慎重に新規領域へ挑戦。
  3. 成長速度と長期ビジョン
    • スタートアップ: VCのEXITスケジュールがあり、IPOやM&Aを数年内に達成することが多い。
    • ソリッドベンチャー: “まずは安定経営”を確立してから、中長期的に新規事業やM&Aで拡大。

このように、両者は目指すゴールや資金の流れ方に大きな違いがあります。ソリッドベンチャーは、持続可能なビジネスモデルを基盤に“少しずつ確実に成長”するスタイルと言えます。

ソリッドベンチャーの主要な要素は?

ソリッドベンチャーを形づくるポイントは以下の通りです。

  1. 早期収益事業(キャッシュ・カウ)の構築
    • 創業初期から安定収益を上げるビジネスを優先し、会社全体を支える土台とする。
  2. 複数の収益源を確保
    • 受託・コンサル・代理店・人材ビジネスなど、売上の立ちやすい分野を複数組み合わせる。
  3. リスク管理を徹底
    • 新規事業が不調でも、既存事業の黒字でカバーできる体制を整える。
  4. 長期的な視点での拡大
    • 短期的なIPOや投資家リターンよりも、継続的に成長できる組織づくりや市場開拓を重視。
  5. 柔軟な資金調達戦略
    • 必要に応じてエクイティ・ファイナンスも使うが、自己資金・銀行借入(デット)を中心に安定運営を目指す。

結果として“地味だけど倒れにくい企業”が育ち、新規サービスへの挑戦機会を何度でも得られることが強みとなります。

ソリッドベンチャーの立ち上げ方

1. キャッシュ・カウ事業の選定と立ち上げ

業界選定: 比較的早期に収益を上げやすい分野を選び、リスクを最小化します。たとえば、受託開発、コンサルティング、代理店業務、人材関連ビジネスなど。

  • 事例: SHIFT社
    創業当初、品質管理のサービスを提供し、安定した収益を確保。その後、M&Aを通じてIT業界全体の支援プラットフォームを目指す新規事業を展開しています。まずは堅実な品質管理事業を軸に成長を進めたことで、他の新規事業への展開が可能になりました。

2. マーケットリサーチと顧客ニーズの把握

市場分析: 競合や市場のニーズを調査し、最適なサービスや製品を提供します。

  • 事例: ナイル社
    SEOコンサルティングで堅実に事業を成長させた後、そのアセットを活かして「おトクにマイカー 定額カルモくん」という新サービスを提供。既存顧客のニーズを反映させ、新規事業で成功を収めました。

3. 既存事業からの新規事業展開

事業拡張のタイミング: キャッシュ・カウ事業が安定してから、新規事業に挑戦します。

  • 事例: TWOSTONE&Sons社
    受託開発で安定した収益を確保した後、エンジニアマッチングプラットフォームやメディア事業に進出。IPO後も、新規事業の展開を続けています。安定収益に支えられた堅実な成長モデルを維持しつつ、次のステップに進む良い例です。

4. 長期的な成長戦略の策定

成長のロードマップ: 短期と長期の目標を設定し、それに基づいた計画を作成します。

  • 事例: オロ社
    受託開発で成長し、社内向けに作成した業務管理ツールを外部にも提供する形でERP事業を展開。既存事業での経験と資産を基盤に、徐々に事業を広げ、IPOを実現しました。堅実な成長を目指す戦略が特徴です。

5. 資金調達と財務管理

収益の再投資と資金調達: キャッシュ・カウ事業の利益を新規事業に投資し、必要に応じてエクイティ・ファイナンスやデット・ファイナンスを活用。

  • 事例: DONUTS社
    SI事業で収益を確保しながら、新規で「ジョブカン勤怠管理」や「ミクチャ」など複数のサービスを展開。これにより、売上高200億円を超える未上場ソリッドベンチャーへと成長しました。既存リソースを使った新規事業展開と財務の堅実な管理が成功要因です。

これらの具体的なステップと事例を参考に、まず安定した収益基盤を構築し、その後に新規事業や長期的成長を追求するのがソリッドベンチャーの基本的な立ち上げ方法です。各事例からもわかるように、堅実な成長基盤を作りながら、柔軟に市場ニーズやビジネス機会に対応することが成功の鍵です。

ソリッドベンチャーの新たな視点

ここでは、さらに事例を紹介します。ビジネス設計の参考にしてみてください。

  1. M&A総研ホールディングス社
    • 創業期からM&A仲介で堅実に売上を積み上げ、デジタル化やAI活用を積極推進。
    • 2024年時点で時価総額1,300億円超の上場ユニコーンへ。
    • 完全成功報酬制に特化し、大手よりもリーズナブルな手数料で顧客を拡大。

  2. Speee社
    • 元々はBtoBのSEOコンサルで利益を上げながら、そのアセットを活かしBtoCメディア(イエウールなど)へ展開。
    • レガシー産業DXや金融DXにも進出し、多角的に事業を育成。
    • スモールビジネスから始まり、段階的にIPOに至った典型的なソリッドベンチャー。
  3. レバレジーズ社
    • SES(システムエンジニアリングサービス)で着実に売上を立てつつ、IT人材・医療・介護・海外支援など多角化。
    • 18年で売上1,000億円超えを果たし、今もさらなる拡大を目指す。
    • ジワ新規を繰り返し、既存リソースをしっかり再利用する堅実さが特徴。

ソリッドベンチャーの魅力は何か?

リスク分散と安定

メイン事業の黒字化により、急激な売上減少や新規事業の失敗に備えられます。スタートアップのようにVCマネーを大量に入れて走るビジネスに比べ、突然の「資金ショート」で息切れする可能性が低い点が大きな魅力です。

投資家の目線が変わりつつある

近年、VCや投資ファンドも「短期で10倍を狙う企業」だけでなく、「黒字を確保し、着実な成長を重視する企業」に着目するようになっています。不況や金融引き締め局面では、ソリッドベンチャーの安定感が高く評価されることも多いです。

組織文化を育みやすい

外部投資家の短期リターン要求に追われないため、企業理念やカルチャーを社員全体に浸透させやすく、長く勤める人材の育成に力を入れやすい土壌があります。結果的に定着率やチーム力が向上し、新規領域へのチャレンジも社内で応援されやすくなるでしょう。

地方創生や後継者問題への貢献

中小企業が後継者不足に悩む地方でも、ソリッドベンチャー的モデルを採用すれば、安定的な稼ぎを生む事業を軸に、新たなサービスやM&Aで地域の雇用を維持することが期待できます。例として、ファインドスターグループ社がスモールM&Aを繰り返しつつグループ全体を拡大し、地方拠点を増やしているように、地域ビジネスとの相性も良いのです。

これからのビジネスモデルとしての可能性

スタートアップ文化が盛り上がり、大きなリターンを生む企業の事例が数多く取り上げられる一方で、安定と堅実をベースに“長い目で挑戦”を続けるソリッドベンチャーの存在感が増しています。

  • 世界経済や金融市場の動向が不透明でも、堅実な収益があれば耐久力が高い
  • スモールM&Aを活用することで、中小企業の事業承継問題にも対応できる
  • 既存社員が働きやすく、組織力を高める文化を育む余裕が生まれる

ソリッドベンチャーは、ハイリスク投資に疲れた投資家や、地方・中小企業のオーナーにとっても新たな選択肢になり得ます。

これからの時代を支える“安定×挑戦”モデル

ソリッドベンチャーは、地道に稼ぐ事業を基盤としながら、慎重かつ着実に新規領域やM&Aに踏み出せるのが強みです。スタートアップのような急拡大ではない分、外部資金への依存が少なく、投資家の都合で戦略を曲げられる心配も少なくなります。

さらに、失敗を恐れず“挑戦を繰り返せる”土壌はイノベーションの源泉でもあり、中長期的な視点で見ると大企業に匹敵する成長を遂げる可能性を十分に秘めているのです。

もしあなたが、

  • なるべくリスクを抑えながら起業したい
  • 投資家の意向に左右されず、マイペースで事業を育てたい
  • 地域密着や長期雇用を大切に考えている

というのであれば、ソリッドベンチャーのモデルは大いに参考になるはずです。“安定×挑戦”という二刀流のスタイルを、ぜひ自社のビジネス戦略にも取り入れてみてはいかがでしょうか。

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