ソリッドベンチャーが描く、リスクを抑えた資金計画の立て方

公開日:2024.11.19

更新日:2025.1.20

筆者:エンジェルラウンド株式会社 大越匠

ソリッドベンチャーがリスクを抑えつつ長期的な成長を目指すには、いかにして資金計画を立案するかが重要な鍵となります。大規模な外部調達ではなく、既存の収益基盤をしっかり活かしながら、少しずつ新しい事業を拡大していく「ジワ新規」の考え方が、堅実かつ持続的なビジネスを育むポイントです。本記事では、ソリッドベンチャーが安定した収益を保ちながら、柔軟な資金計画でリスクを低減する方法を探っていきます。

ハイライト

  • 小さな成功を着実に重ねる「ジワ新規」の発想で、段階的に資金を投入しリスクを分散する。
  • 限られたリソースを最大限に活用し、収益性を維持しながら持続的な成長を狙う。
  • 既存の安定収益を活かして外部資金への依存度を下げ、経営の自由度を高める。

段階的資金調達でリスクを抑える―「ジワ新規」の真髄

ソリッドベンチャーにおける資金計画の特徴は、一度に多額の資金を調達するスタートアップ的なモデルとは異なり、リスクを最小限に抑える段階的な手法を採用する点にあります。

これは、「ジワ新規」と呼ばれるアプローチの本質にも通じるものです。

大規模資金調達がもたらすプレッシャーを回避する

スタートアップでありがちな問題の一つが、投資家からの高い成長要求や経営方針への干渉です。大きな資金を一気に調達すると、どうしても外部の期待に縛られ、リスクの大きい決断をせざるを得ない状況に陥ることが少なくありません。

ソリッドベンチャーは、既存の安定収益をベースにしながら、必要なときに必要な範囲で資金を確保するため、このような過度なプレッシャーから比較的自由です。

小さく始め、大きく育てる「ジワ新規」のアプローチ

たとえば、INTLOOP社のように最初はコンサルティング領域で安定した売上を作り、その後、人材プラットフォームやSES事業などを徐々に拡大していくケースが挙げられます。

彼らはまずコンサル業務で収益を積み重ね、その資金の範囲で次のビジネスに投資してきたため、過剰な借り入れや大きなリスクを避けつつ成長を実現してきました。

リソースの最適活用で無駄を防ぎ、成長を加速

ソリッドベンチャーは、限られた資金や人材を最大限に活かすことで、着実なビジネス拡大を狙うスタイルが特徴的です。資金計画を立てる際にも、「いかに効率よくリソースを配分するか」が焦点となります。

既存のアセットを活用した新規事業の展開

安定収益を生む既存事業があることは大きな強みです。その顧客基盤やノウハウを活かして、新しい製品やサービスを追加することで、無理なくアップセルやクロスセルが期待できるからです。

たとえば、ギークリー社はIT業界特化の人材紹介を中心に、周辺サービスへと派生して事業を拡大しています。既存顧客との関係性を深める形で新規事業を展開することで、大きな追加投資を避けつつ、売上を段階的に伸ばすことが可能です。

人的リソースと組織体制の効率化

リソース最適化では、人材の配置や業務フローの整備が欠かせません。ソリッドベンチャーの場合、急成長を前提としたスタートアップよりも人の回転率や組織の流動性が低い傾向があるため、長期視点で人材を育成しやすい利点があります。

これにより、経営陣と従業員が一致団結して同じビジョンを追求し、無駄を省いた運営が可能になります。

資金計画をリスクヘッジの観点から設計する

ソリッドベンチャーにとって資金計画は、単なる「資金の確保手段」ではなく、リスクヘッジの重要な仕組みです。安定収益に裏打ちされた持続的なキャッシュフローを確保しつつ、失敗時のダメージを最小限に抑える仕組みを構築することが求められます。

自己資金での投資と外部資本への依存度のバランス

外部資金調達に頼らず、自己資金での投資を重視するソリッドベンチャーも多く見られます。その理由は、出資者や投資家からの急激なリターン要求を避け、安定的に事業を進められるからです。

ユナイトアンドグロウ社は情シスやIT関連のシェアサービスを中心に、自社の資金を活用して事業を徐々に拡大してきました。大きく上場の道を急ぐことなく、安定した顧客ニーズと収益をもとに堅調に成長を遂げています。

リザーブ資金で変動リスクに備える

資金計画の中で重要なのがリザーブ(予備資金)の設定です。これは、新規事業が思わぬ方向に進んだときに備えたり、市場環境の変化による収益減をカバーしたりするためのものです。ソリッドベンチャーの場合、既存事業による安定的な売上がある程度見込めるからこそ、リザーブ資金を確保しやすいメリットがあります。

もし新規プロジェクトが失敗しても、そのリザーブがクッションとなり、企業が致命的な打撃を受けずに済むのです。

安定成長とチャレンジを両立するための組織づくり

資金計画をうまく立て、リソースを最適化しても、実際にそれを実行に移すのは「人と組織」です。ソリッドベンチャーが長期にわたってリスクをコントロールしながら成長するには、社内文化や組織形態も柔軟である必要があります。

失敗を許容し、改善を繰り返すカルチャー

段階的な資金投下や新規プロジェクトを試す「ジワ新規」では、大小さまざまな試行錯誤がつきものです。社員が失敗を恐れずに取り組み、そこから学びを得る風土が整っている企業ほど、新しいプロダクトやサービスを素早く市場にフィットさせられます。

プラスアルファ・コンサルティング社が自社のデータ解析ツールを発展させて複数のSaaS製品へと展開してきた背景には、社内での試行錯誤と改善を歓迎する文化が大きく関わっています。

明確な役割分担とビジョンの共有

ソリッドベンチャーは大規模な組織になるほどではないものの、複数の新規プロジェクトが並行して進むケースがあります。その際に重要なのは、各プロジェクトでの役割分担を明確にしながら、企業全体が共有するビジョンをブレさせないことです。

これができていれば、資金面でも戦略面でも「何に、いつ、どれだけ投資するのか」という意思決定をスムーズに進められます。

慎重な資金計画こそ、ソリッドベンチャーの成長エンジン

ソリッドベンチャーの資金計画は、リスクを抑えた段階的な調達と賢いリソース活用を軸に据え、長期的な安定収益と挑戦の両立を目指す点が大きな特徴です。

「ジワ新規」という考え方をベースに、既存事業のキャッシュフローをしっかり活かしつつ、新たな市場へ慎重に進出していく。さらに、リザーブ資金の確保や組織文化の醸成などを通じて、変化に柔軟に対応できる体制を整えることで、失敗のリスクを最小限に抑えながら持続的な成長を実現します。

大規模な資金調達や急激な成長を求めるスタートアップとは異なり、ソリッドベンチャーは安定と挑戦をバランスよく取り入れるビジネスモデルを選び取っているのです。これこそが、経営の自由度を確保しながら長期的な成功を収めるための、ソリッドベンチャー独自の価値ある戦略といえるでしょう。

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