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ユニコーン狙いよりも堅実な成長? ソリッドベンチャーが描く成功への道
公開日:2024.10.21
更新日:2025.4.15
筆者:エンジェルラウンド株式会社 大越匠

華々しくユニコーンを目指すスタートアップは夢が大きいものの、高いハードルとリスクに晒される現実も抱えています。そうしたなか、“ソリッドベンチャー”という堅実なビジネスモデルが着実に注目を集めています。急激な拡大よりも安定した収益確保を第一に、時間をかけて盤石な基盤を構築し、長期的に成長を続ける――そんな経営スタイルこそが、今後さらに多くの起業家や投資家から支持を得ると考えられるのです。
ハイライト
- ユニコーンを狙う急拡大は魅力的だが、成功率の低さと高リスクに留意が必要
- 堅実な収益確保とリスク管理を両立する“ソリッドベンチャー”が新たな注目を集める
- 長期視点の経営とステークホルダーとの信頼構築が、継続的な成長と事業安定を実現する
ユニコーン企業を夢見る起業家の現実

「わずか数年で評価額10億ドル(約1000億円)超えを果たすユニコーン企業になりたい」という熱い夢は、スタートアップ界隈で常に話題になります。しかし、そこに到達する成功確率は高くなく、たとえ一時的に高額の調達に成功しても、長期的に見れば赤字経営のまま市場を去るケースも珍しくありません。
- 資金調達の重圧
多額の投資を受けると、VCなど出資元の早期リターン要求が強まり、経営陣は本来やりたかった戦略よりも短期指標を追わざるを得なくなります。 - 初起業家の負担
特に初めての起業家は、ユニコーンを目指すプレッシャーと経験不足が相まって、精神的にも大きな負荷を背負いがちです。短期間での拡大を迫られ、組織や資金の管理が追いつかずに崩壊へ――というリスクは常に潜んでいます。
こうした“急拡大”の魅力と危うさを理解したうえで、それでも挑むか、あるいは別の経営スタイルを選ぶかが起業家にとって重要な岐路となるわけです。
堅実に伸びる――ソリッドベンチャーという選択肢

大きく儲けるより、コケない土台を作る
近年注目を集める「ソリッドベンチャー」は、黒字と安定収益を重視し、徐々に事業領域を拡張していく経営スタイルを指します。ユニコーンのような急成長ではなく、まずは“稼げる構造”をきちんと確立し、その利益を再投資して段階的にビジネスの幅を広げるのです。
リスクを過大に背負わないため、ドカンと跳ねるような派手さは薄いかもしれませんが、一度仕組みを固めると下振れしにくい強みがあります。
GENOVA社の手堅いスケールアウト
GENOVA社は医療機関向けのWeb制作からスタートし、徐々に医療DXサービスへ広げていきました。決して爆発的なユーザー獲得を狙ったわけではなく、顧客の声を反映した地道なサービス改善を重ねることで、安定したリピート案件を得られる事業基盤を整えています。
安定成長の効果:信頼関係の醸成と組織の成熟
ソリッドベンチャーは短期的には大きな数字を叩き出さなくても、着実に利益を生み出すことで外部からの見え方が変わります。
従業員の定着と成長
急拡大だと採用も一気に進めるため、組織が混乱しやすいですが、ゆるやかな拡張なら企業文化や研修制度を整えながら人材を育成できます。結果的に、社員一人ひとりのエンゲージメントも高く保ちやすいのです。
投資家からの評価
“成功確率が低いギャンブル”よりも、“しっかり利益を出す中堅”という姿を投資家は好む場面も多々あります。実際に、ギークス社のようにフリーランスエンジニアマッチングや動画事業などを地道に育てた結果、上場を実現したケースも存在します。
持続可能なビジネスモデルの築き方

市場ニーズの的確な把握とサービス設計
ソリッドベンチャーが長く稼ぎ続けるためには、「提供する価値が市場から確実に支持されるか」を何よりも優先します。
- 大きな新規投資をせず、小規模テストを重ねてニーズを確認する
- 既存顧客との対話を通じ、周辺領域への拡張を図る
たとえばSpeee社はBtoB向けのSEOコンサルを祖業としながら、そこから得たノウハウをもとに不動産メディアやゲーム領域などに徐々に展開してきました。無理に一足飛びの大博打を打たず、着実に“できること”を増やすことで、リスクを抑えながらトップラインを伸ばしています。
コスト管理と利益体質
急成長を目指す場合は投下資金も膨大になり、赤字覚悟のチャレンジが常態化します。しかし、ソリッドベンチャーは基本的に黒字運営をキープしながら、自己資本や利益の範囲内で拡張を進めるのがセオリーです。
- オフィスや広告費など固定費を必要以上に膨らませない
- 利益を確保しながら新規サービスの開発費を捻出
大きな余剰資金がなくても、試行錯誤を小さく回して検証し、成功した部分を徐々に拡大する。いわゆる“ジワ新規”アプローチを重視することで、失敗しても会社全体が揺らぐリスクが少なく済みます。
投資家とどう向き合うか――安定感を武器に

4-1. 安心感を訴求するストーリー
ソリッドベンチャーが投資家を納得させるには、「安定しつつも徐々に成長していく姿」を具体的な数字とビジョンで示すことが重要です。
- “毎年10~20%成長”を狙い、5年後には売上が倍になっているシナリオ
- ストックビジネスやリピート売上の比率を高める計画
ボードルア社のようにSES(システムエンジニアリングサービス)から始まり、ITインフラ特化でフローとストックをバランスよく組み合わせたモデルは、投資家からすると“堅く強い”印象を与えます。さらに、若手育成の仕組みやM&A戦略など将来的な拡張を具体的に見せることで、安定性と成長性を同時にアピールできるのです。
情報共有と経営の透明性
投資家は、ユニコーンのような爆発的リターンは見込みにくくても、腰を据えた運営を行う企業に対しては“説明責任”を強く求めます。四半期ごとの売上報告だけでなく、サービスの改善状況や顧客満足度、次のプロダクトの進捗などを定期的に共有することが信頼獲得のカギです。
- 定期レポートやミーティングで事業の方向性を開示
- 経営陣がオープンに議論し、重要決定の背景を丁寧に説明
こうした取り組みにより、投資家との良好な関係を保ちながら、安定的な資金調達やサポートを受けられるようになるでしょう。
ステークホルダーとの“共生”で築く持続性

顧客との長期的な協力関係
ソリッドベンチャーは大規模なマス広告に頼るよりも、既存顧客に対する細やかなフォローやアップデートによってブランド力を高めていきます。顧客が使い続けてくれるサービスや製品を提供することで、リピート率を向上させ、継続課金や追加発注につなげるのです。
医療機関と二人三脚でDXを進めたGENOVA社のように、顧客の生の声を反映してサービス品質を上げるスタイルは、ゆっくりではあっても“堅い”収益源を生み出し、さらにネットワーク効果的に紹介や新規案件獲得の広がりを期待できます。
従業員とパートナー企業の満足度
従業員にとって、激しい変動のある会社よりも、ある程度見通しが立ちやすく福利厚生やキャリアステップが整備されている会社のほうが安心感を得やすい面があります。ソリッドベンチャーはキャッシュフローが安定している分、人材育成や企業文化づくりにリソースを投下できる余裕が生まれやすいのです。
パートナー企業にとっても、短期的な売上だけを目指す取引先より、腰を据えて一緒に成長していける企業の方が魅力的です。新たなコラボを提案し合いながら、継続的なシナジーを生む関係へと発展しやすいでしょう。
安定と成長を両立する、ソリッドベンチャーの未来
ユニコーン企業がもたらすインパクトやロマンは大きい一方で、高リスクかつ低成功率である現実は無視できません。そのなかで、日々の売上と利益を積み重ねながら着実にビジネスを広げるソリッドベンチャーが、堅実な道を求める起業家や投資家から注目を浴び続けています。
特大ホームランを狙わなくても、
- 一定の利益を安定的に出す
- 顧客や従業員、パートナーとの信頼関係をじっくり育む
- 徐々に売上を増やすことで長期的な企業価値を高める
――こうした経営スタンスは、社会や市場環境の変動にも柔軟に対応しつつ、息の長い成長を実現していく上で欠かせないものとなるはずです。
これからの成長のかたち
ソリッドベンチャーは、決して地味な道というわけではなく、“攻めのリスク”と“守りの安定”をバランスよく両立するアプローチとしてとらえられます。実際に上場ソリッドベンチャーの数々は、M&Aや新サービス拡大にも意欲的でありながら、堅実な利益体質を手放さないところが特徴的です。
今後もスタートアップの世界では、ユニコーンを目指す挑戦とソリッドベンチャーの着実な成長とが共存するでしょう。どちらを選ぶかは起業家のビジョンやリスク許容度によって異なりますが、堅実に利益を上げ、周囲とともに成長していくというビジネスの王道が、改めて注目されていることは間違いありません。
ソリッドベンチャーを志向する起業家には、ぜひ“無理なく拡大しながら、ステークホルダーとの長期的な関係を築く”という視点を大切にしてほしいところ。そうすることで、短期的な失速に悩むことなく、息の長い企業づくりが可能になります。言い換えれば、ドカンと花火を打ち上げるのではなく、“消えない火”を灯し続けるような経営こそが、ソリッドベンチャーのめざす姿なのです。