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ソリッドベンチャーがスタートアップのように急成長を避けるべき理由
公開日:2024.11.19
更新日:2025.1.28
筆者:エンジェルラウンド株式会社 大越匠

急成長か安定成長か、どちらを選ぶ?
スタートアップという言葉が一般化して久しい現代、社会の注目は往々にして「短期間で爆発的にユーザー数を増やし、市場を席巻する企業」に向きがちです。急成長を果たした企業はメディアでも大きく取り上げられ、投資家からの高額出資が集まりやすい――それゆえに起業家たちは、つい「一気に攻める」路線に憧れを抱きます。
しかし、その一方で「ソリッドベンチャー」と呼ばれる企業群が、“急成長”ではなく“堅実な成長”を選び、結果的に長いスパンで事業を安定的に伸ばしているのも事実です。なぜ彼らはあえて“ジワ新規”とも呼ばれる穏やかなステップアップを好むのか? そこには持続可能性や組織文化の成熟、資金リスク管理といった経営要素が大きく関わっています。
本記事では、ソリッドベンチャーが急拡大を求めず、地に足の着いた成長路線を選ぶ背景とメリットについて、Union社・Wiz社・One Net社などの事例を交えながら解説します。短期的なブームに翻弄されずに事業を長く続けたいと考える方にとって、ソリッドベンチャーの考え方は大きなヒントになるでしょう。
ハイライト
- 急成長ではなく「ジワ新規」を選ぶのは、長期的な安定とリスクの最小化を両立できるから。
- 組織文化やマネジメント体制を整えつつ人材を育てることで、拡大期に起きがちな内部混乱を回避しやすい。
- 外部投資頼みの急加速より、自己資金や安定収益を活用した段階的成長が“ブレない経営”を可能にする。
急成長モデルに潜む落とし穴──スタートアップのリスクとは?
短期的な資金圧迫と投資家圧力
スタートアップのモデルは、短期間でシェア拡大を狙い、大手投資家(VCなど)から巨額の資金を調達するケースが多いです。確かに、この方法で一気にユーザー数を伸ばしたり市場を独占できれば、上場やM&Aなど派手な出口を得られるかもしれません。
しかし、そうした急成長には常に“資金不足”と“投資家の高圧的なリターン要求”がつきまといます。特に、調達から売上増加までの時間差が大きいサービスでは、現金がすぐに尽きかねません。
成長曲線が想定を下回ると、追加調達が難航して経営が不安定になり、短期目線のKPIばかりを追って本質的な事業戦略を見失うリスクが高まります。
組織崩壊のリスクと企業文化の希薄化
さらに厄介なのは、急拡大に伴う採用ラッシュや部署新設で、組織の求心力が低下することです。
- 新たに入社したメンバーが急増すると、旧メンバーとの認識ギャップや方針のズレが大きくなりやすい
- 経営が短期指標に左右されると、従業員がひたすら数字を追うだけの職場になり、企業理念や文化が育たない
- 拡大期にマネジメント体制の未整備が重なると、プロジェクト混乱やリソース配分のミスが起きやすくなる
こうした背景から、スタートアップの急成長は“華やかな裏にリスク”を内包しているのです。
ソリッドベンチャーの持続可能性──“ジワ新規”が生む堅実な拡大
急がば回れ:安定収益モデルの重要性
ソリッドベンチャーが急成長を敬遠する最大の理由は、まず“食い扶持”をしっかり確保する点にあります。大きく赤字を出して突っ走るスタートアップとは異なり、受託業務や代理店ビジネスなど、利益率が安定しやすいコア事業を持つことで、長期的なキャッシュフローを維持するわけです。
「ジワ新規」の考え方では、現在の強みをベースに少しずつ新しい領域を試し、そこから追加的な売上を立てるスタイルをとります。一度に大金を投下するのではなく、小規模テスト→顧客の反応確認→徐々に拡大というプロセスを繰り返すため、“プロダクトの失敗”で会社全体が傾くリスクを極力低く抑えられるのです。
Union社にみる「小さな成功の積み上げ」
Union社は、広告運用とコールセンター事業を核にしながら、徐々に新規プロダクトを展開してきたソリッドベンチャーの一例です。
- 最初から派手に資金を集めて拡大するのではなく、安定収益を生みやすい代理店ビジネスでキャッシュフローを確立。
- 次の新規サービスは、一部顧客に向けて“試験的”に導入し、手応えを得たら本格展開に移る。
- チーム増強も、ある程度利益を見込めた段階で初めて大きく動き、急激な人材増員による混乱を防止。
このステップを踏むことで、Union社は投資家からの厳しい数字要求に縛られることなく、自分たちのペースで拡張に成功しています。「機が熟したらスケールアウトする」という考え方が、まさに“ジワ新規”の真骨頂といえるでしょう。
Wiz社の組織文化醸成メソッド
ITコンサルティングや営業代理を手がけるWiz社も、“拡大しながらも組織文化を失わない”姿勢で有名です。大きく採用を進める際にも、
- 入社初期の研修を重視して、企業理念や事業ビジョンを全員に浸透させる
- 小規模チームごとの情報共有ミーティングを頻繁に設け、部署間の連携ミスを防ぐ
- 新サービスの立ち上げでは、少人数の“パイオニアチーム”を作り、成功事例やノウハウを全社に展開
というプロセスを丹念に実施。これが、「会社の拡大ペース」と「社員の理解・育成ペース」をうまく整合させる秘訣になっています。
急速に社員数が増える場合、往々にして「だれが何のプロジェクトに所属し、どういうゴールを目指しているのか不明」という状態が生じがちですが、Wiz社は初期から企業文化を固め、コミュニケーション体制を整えることで、混乱を防いだのです。
資金リスク管理と自己資金活用のメリット
外部資金を過度に頼らないことで得られる柔軟性
急成長を目指すスタートアップでは、投資家による大型出資が“生命線”となる一方、
- 株式の希薄化(経営者の持ち株比率低下)
- 投資家からの短期KPI要求
- 成長曲線の僅かなブレで追加調達が困難になるリスク
などが避けられません。
ソリッドベンチャーは、安定した既存事業から得られるキャッシュフローをベースに、自分たちが必要な範囲でデットファイナンス(銀行融資)や少額のエクイティ調達を行うだけにとどめられます。
経営方針や売上計画を自社主導でコントロールできるため、「投資家に振り回される」「急な戦略転換を余儀なくされる」といった事態を回避しやすいのです。
One Net社:キャッシュフロー重視で堅調拡張
One Net社は、営業代行とSES(システムエンジニアリングサービス)を柱とし、
- まずは顧客企業との“月額契約”や“プロジェクト型契約”で安定収益を確保
- そこで得たキャッシュを広報活動や開発チームの強化に少しずつ回し、新規サービスを静かに立ち上げる
- 新規サービスが軌道に乗れば、その収益を再投資して次のサービスへ…
というサイクルを続けてきました。結果的に、大型の調達に頼る必要がなく、過度な株式放出をせずに独自の拡張スタイルを維持できたのです。
投資家との関係とデットファイナンスの活用
ソリッドベンチャーといえども、全く外部資本を入れないわけではありません。成長が加速するタイミングで資金が必要になる場合もあります。その際には、以下の選択肢が考えられます。
- 銀行融資(デットファイナンス):既存事業の黒字実績があれば、金融機関の信頼を得やすく、金利負担もコントロールしやすい
- スモールエクイティ調達:大株主としてのコントロールを失わない範囲で、戦略的投資家から小額出資を受ける
- M&Aによるシナジー:必要な機能やノウハウを持つ企業を買収し、一気にサービスラインを拡張
投資家に事業方針をあまり干渉されたくないなら、銀行借り入れやリースなどを積極的に活用するのもソリッドベンチャーらしい選択肢です。
ソリッドベンチャーが目指す“長寿企業”への道
じわじわ成長が組織の強度を高める
ここまで紹介してきたように、ソリッドベンチャーは“急騰”を狙わず、“安定成長”を志向します。この姿勢が組織の結束力や企業文化の浸透を進め、拡大期における内部の混乱を最小化する効果をもたらします。急成長すれば知名度は上がりやすいものの、組織が追いつかずに採用やマネジメントで苦労する例は後を絶ちません。
逆に、「多少遠回りでも着実に収益を積み上げる」という路線なら、一人ひとりの社員が会社の方向性を理解しながらステップアップでき、トラブルやリソース不足にも対応しやすくなるのです。
安定基盤が社員と顧客を守る
ソリッドベンチャーが急成長を避けるもう一つの理由として、「社員や顧客との関係を安定させる」狙いもあります。
- 一気に規模を拡大すると、社員が疲弊し、離職率が上がりやすい
- 事業が急に膨れ上がると、顧客対応が疎かになったり、サービス品質が低下する恐れがある
- 社内のノウハウや育成体制が未整備だと、業務が場当たり的になりやすく、顧客満足度が下がる
穏やかなペースで成長すれば、こうした負の連鎖を回避し、企業が長期的に信頼を勝ち取りながら規模を大きくすることが可能になるのです。
“焦らない”が生み出す本当の競争力
急がば回れ──これは古い諺ですが、ビジネスの世界にも通じる教訓です。
短期間の資金調達やメディア露出には確かに魅力がありますが、それが持続可能性を損ない、最終的に企業の寿命を縮める危険性も同時に孕みます。
ソリッドベンチャーは、あえてその「速さ」よりも「持久力」に注目し、地道な積み重ねで確実に力をつけることで、“これからも生き残れる企業”を目指しているのです。
焦らず、一歩一歩着実に進むからこそ、外部の経済状況が多少変動しても揺らがない基盤が築かれ、そこに生まれる信頼感が将来にわたる競争力を支えます。
急成長だけが正解ではない
ソリッドベンチャーがスタートアップのように急成長を避ける理由は、
- 持続的な成長重視:安定基盤を先に作ることで、長期的な価値創造を実現
- 組織文化と人材育成:急拡大で失われがちな一体感を守り、足腰の強い組織を育む
- 資金リスク管理:自己資金や安定収益を基に無理のない投資を行い、ブレない経営を実践
という3つの観点に集約できます。
もちろん、短期間にトップシェアを取りたい事業や、ネットワーク効果を最大化したいサービスには、攻めの資金投入が必要な場面もあるでしょう。
しかし、必ずしもすべての企業が“スピード命”のスタートアップモデルを踏襲すべきではありません。むしろ、地に足の着いた経営スタイルによって企業と従業員、顧客、投資家の間に納得感を醸成し、息の長いビジネスとして市場に根を下ろすことが、これからの時代にこそ求められているのではないでしょうか。
急がば回れ――ソリッドベンチャーの選択が示すのは、まさにこの言葉の大切さです。派手な注目を浴びるわけではなくても、着実に階段を上ることで初めて手に入る強固な基盤や企業文化があります。
そして、その基盤こそが長い年月を経ても揺るがない“本当の強さ”を生むのです。