ソリッドベンチャーの収益多様化戦略、事例をつかって説明してみる

2024.11.19

筆者:エンジェルラウンド株式会社 大越匠

ハイライト

  • キャッシュカウ事業で安定的な収益基盤を確立し、成長を支える
  • 「ジワ新規」で段階的に収益源を多様化し、リスクを抑える
  • M&Aや提携を活用し、市場拡大と収益基盤の強化を図る

安定したキャッシュカウ事業の確立

ソリッドベンチャーが持続可能な成長を実現するために、まず欠かせないのが安定したキャッシュカウ事業の確立です。このキャッシュカウ事業は、企業が新規事業に投資する際の財源となり、リスクを抑えた挑戦を可能にする基盤です。

例えば、ナイル社は創業時にSEOコンサルティングを行い、この収益性の高いビジネスを基盤にしてキャッシュフローを積み上げてきました。その後、SEOのノウハウを活かして「Applive」といったメディア事業へと進出し、新たな収益源を確立しました。また、次なる挑戦として「おトクにマイカー 定額カルモくん」といった自動車関連サービスを展開し、多角化を進めています。このように、創業事業でしっかりとキャッシュカウを築いたことで、新たなチャレンジを行う際のリスクを最小限に抑えています。

さらに、FPパートナー社はファイナンシャル・プランニングを基盤に、安定的なストックモデルの保険提案を行っています。このキャッシュカウ事業により安定したキャッシュフローを確保し、その余裕を使って保険以外の金融サービスなどへの展開を進め、企業の成長をサポートしています。このようにキャッシュカウ事業の確立が、次の成長段階への資金的余裕を生み出し、事業の持続可能性を支えるのです。

「ジワ新規」による段階的な収益源の拡大

「ジワ新規」という戦略は、既存のリソースや顧客基盤を最大限に活用しながら、少しずつ新たな収益源を追加していく手法です。これにより、大規模な投資やリスクを伴わず、安定的な成長を実現することが可能です。

例えば、プログリット社は英語コーチング事業からスタートし、その後「シャドテン」(シャドーイングの特化サービス)や「SUPIFUL」(ビジネス英会話の発話トレーニングサービス)などの関連サービスを展開しました。これにより、英語学習分野のノウハウと顧客基盤を活用しつつ、着実に新しいサービスを拡大しています。このような「ジワ新規」の戦略により、企業は事業を急拡大させることなく、新たな収益源を段階的に追加し、全体的なリスクを低減しています。

また、レバレジーズ社も創業事業であるSES(システムエンジニアリングサービス)を基盤に、ITや医療・介護、若手キャリアに関するサービスへと事業をジワジワと拡大しました。各分野で顧客ニーズに応じたサービスを展開し、安定したキャッシュフローを利用して次の新規事業に挑戦し続けており、その戦略はソリッドベンチャーの教科書的な例と言えます。

M&Aや提携による市場拡大と収益基盤の強化

ソリッドベンチャーの収益多様化を支えるもう一つの重要な手段が、M&Aや業務提携です。特にキャッシュカウ事業で安定した収益を確保している企業は、他の会社を買収することで、事業ポートフォリオを強化し、持続可能な成長を目指すことができます。

TWOSTONE&Sons社は、創業時に受託開発を基盤とし、エンジニアマッチングプラットフォームを立ち上げました。その後、M&Aを積極的に進めることで、事業をさらに強化しています。同様に、SHIFT社は、品質管理サービスを基に、多くのM&Aを行うことで、IT支援のプラットフォーム企業へと成長を遂げています。SHIFT社のM&A戦略では、「のれん負けする企業は買収しない」という明確な基準を設け、高リスク案件を避けることで、堅実な成長を実現しています。

また、ボードルア社は、ITインフラ特化のSES事業から始まり、M&Aを活用して事業の幅を広げています。同業他社をグループに加え、業績向上に寄与することで、企業全体の成長を支えています。これにより、安定的な事業基盤を築きつつ、持続的な収益拡大を実現しています。

さらに、業務提携も有効な手段です。例えば、ユナイトアンドグロウ社は、ITリテラシーの高い人材を中堅・中小企業向けに提供するというニッチなニーズを満たしつつ、他社との提携を通じて市場での存在感を強化しています。このように、M&Aや提携を通じて事業を多角化することにより、収益基盤を安定させながら新たな成長機会を掴むことが可能です。

収益多様化戦略の重要性

ソリッドベンチャーにとって、収益多様化戦略は持続可能な成長のための重要な鍵です。キャッシュカウ事業を安定的に確立し、その基盤をもとに「ジワ新規」や「M&A、提携」を活用することで、収益源を多角的に拡大します。このようにして、企業は市場変動に対しても柔軟に対応しながら競争力を維持し、長期的な安定成長を実現することができます。

特に、競争が激しい市場環境において、このような柔軟性と多角的な収益構造を持つことは、事業のリスクを軽減し、長期にわたって収益を確保するために非常に有効です。例えば、ヘッドウォータース社が行ったAIインテグレーションとDX支援は、長期的な顧客ニーズに応じたソリューションを提供し続けることで、安定した収益を生み出しながらも、新しい技術分野での成長を目指しています。

収益の多様化を図ることで、ソリッドベンチャーは単一の事業に依存せず、さまざまな市場機会に対応できる体制を築くことができます。これにより、企業は成長を続けるだけでなく、外部からの不確定要素に対する耐性も強化され、長期的な成功への道筋を確立できるのです。