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事業収益を基盤にした新規事業の創出方法
公開日:2024.11.18
更新日:2025.1.9
筆者:エンジェルラウンド株式会社 大越匠

ハイライト
- 既存事業の収益を再投資し、リスクを最小化しながら自由度の高い挑戦を実現する。
- 顧客ニーズをベースに新規事業を構築し、成功確率とブランド信頼を同時に高める。
- 収益基盤が生む安定性によって、長期的な拡大と組織全体のモチベーション維持が可能になる。
新しいビジネスにチャレンジしたい、でも外部投資に頼ると自由な経営が難しくなる──そんなジレンマを抱えていませんか。実は、既存事業から得た収益を再投資しながら、リスクを抑えた形で新規事業を育てる方法があります。本記事では、ソリッドベンチャー的アプローチがもたらすメリットや具体策に迫ります。
既存事業の“稼ぎ”を使う意味——自由度と安定感を得る
多くのスタートアップが外部資金を頼りに急成長を目指す一方で、ソリッドベンチャーは既存事業の安定収益を新たなビジネスに投下し、自由度の高い戦略をとるのが特徴です。大きな資金調達を行う場合、経営者は投資家の意向に縛られがちです。
ときには自社のビジョンを歪めてしまうこともあります。しかし、自社で生み出したキャッシュを再投資できれば、次のようなメリットを得られます。
- 自由度の高い事業運営
自己資金であれば、経営判断を外部に委ねずに済みます。新規事業の方向転換や追加投資のタイミングなどを、自社のペースで決定できるのです。 - リスク分散のしやすさ
既存事業が安定した利益を生み出していれば、一時的な赤字や新規開拓の失敗があっても、経営そのものが大きく揺らぐことはありません。 - 長期視点での開発が可能
「今期中に結果を出せ」と迫られにくいので、腰を据えてサービスの質を高めることができ、顧客満足度アップやブランド構築にもつながります。
事例:C-mind社が見せる“収益再投資”の妙
C-mind社は2011年に設立され、2023年2月期には売上35億円を達成。15期連続で増収を続けている堅実なビジネスを展開している企業です。彼らは通信代理店など“儲かる領域”に狙いを定め、創業期から収益の積み上げを重視。そこで得た利益を新規事業へ段階的に振り向けることでリスクを低減しながら多角化を進めてきました。
興味深いのは、キャッシュを投資する際に「会社が得意とするセールス力や顧客ネットワーク、デリバリーの仕組み」を存分に活かせる領域を厳選していること。つまり、“稼ぎどころ”と“新規チャレンジ”の親和性を高める戦略です。これにより、着実な収益を保ちながら新しいサービスやプロダクトを生み出し、毎年のように売上を伸ばしています。
顧客の声を“新事業の羅針盤”にする秘訣
どんなに練り上げたアイデアでも、顧客が求めていないなら失敗に終わる可能性が高いのは言うまでもありません。ソリッドベンチャーは既存事業での顧客基盤を“生きたデータ”として活かし、新規事業のアイデアを洗練させます。
既に信頼関係のある顧客からフィードバックを得ることで、最小限のリソースで適切な改善を繰り返し、より高い成功確率を目指すのです。
- 顧客インタビューと仮説検証
単なるアンケートだけでなく、実際の対話を通じて顧客が望む機能・サービスを引き出し、段階的にプロトタイプに落とし込んでいきます。 - クイックリリースとフィードバック収集
コアとなる機能を素早く市場に出し、顧客の反応をもとに次のバージョンを開発。大規模投資前に確度の高い判断ができます。 - 既存顧客の口コミ効果
既存事業のファンが新サービスの初期ユーザーとなり、評判が広がるスピードが速まるため、マーケティングコストも抑えられます。
顧客の声を拾い上げる手法は多岐にわたりますが、重要なのは自社の資源を過剰に使わず、効果的に検証できる仕組みを用意すること。一度サービスをローンチしてから軌道修正を行うのは、お金も時間も大きく浪費しかねません。ソリッドベンチャーが顧客目線を重視するのは、最初の設計で間違いを減らし、以降の成長をスムーズにするためです。
“稼ぎ続ける力”が生む新事業の安定感
新しい挑戦をする上で、最も大きなハードルの一つが“資金ショート”です。すばらしいアイデアを持っていても、事業化の過程で資金が尽きればそこで終了してしまいます。ソリッドベンチャーの強みは、既存事業の収益を通じて一定のキャッシュフローが回り続ける点。
これが新規事業の成長をじっくりと支える強固な土台となります。
- 不測の事態に耐える
市場環境の変化や競合の動きによって新規事業が想定より伸び悩むこともあるでしょう。しかし、既存事業の利益があることで、当初の計画から多少ズレが生じても巻き返しが可能です。 - 従業員のモチベーション維持
「資金繰りで火の車」という状況を避けられるため、開発や営業のメンバーは“常にリストラを意識する”ような精神的プレッシャーから解放されます。結果的に、クリエイティブで前向きな姿勢が保ちやすくなります。 - 新たな投資余力の確保
ある程度の安定収益があれば、「新分野の調査」「小規模M&A」など、通常なら躊躇するような投資にも踏み込める余地が生まれます。
事例:ネオキャリア社が示す“耐久力”
ネオキャリア社は2024年2月期に売上高508億円を突破した未上場ソリッドベンチャーとして注目される企業です。もともとは採用媒体の代理店から始まり、徐々に人材コンサルティングやBPOなど隣接領域を拡大。確固たる収益源を複数確立したうえで、介護や保育などの専門領域にも進出しています。
もし市場変動で特定事業の成長が鈍化しても、他の分野が収益を下支えしてくれるという安心感があるため、新規プロジェクトにも躊躇なく投資できるわけです。“稼ぎ続ける力”があるからこそ、多少の失敗では揺らがない耐久性を持ち、攻めの姿勢を保つことができます。
新規事業を育む“連鎖”を作る——スモールステップで大きく飛躍
ここまで見てきたように、既存事業のキャッシュフローと顧客理解があれば、効率的に新規事業を生み出すことができます。しかし、大事なのはどう育て続けるかという点。ソリッドベンチャーが成功している企業には、以下のような特徴的な連鎖が見られます。
- リソースの段階的拡大
新規事業の成功見込みが高まるタイミングで投資を一気に増やす。逆に不透明な時期は最小限のリソースで検証を続ける。 - 既存事業との連携
新事業立ち上げ時に、既存事業の顧客ネットワークやノウハウを惜しみなく活用。シナジーを出しやすく、初期導入がスピーディに行える。 - 組織づくりの柔軟化
新規プロジェクトを進めるチームに裁量を与えつつも、方針転換やサポートが必要なときは既存事業から支援を受けられる仕組みを用意する。
この連鎖をうまく回すことで、“次の一手”を生み出すたびに企業は一回り大きくなっていきます。単発のアイデアに終わらず、ノウハウや組織力を継続的に強化するサイクルを回すことで、会社は長期的に見ても高い成長曲線を描くことができるのです。
本記事の最後に
本記事では、既存事業の収益を新規事業に再投資し、顧客ニーズを軸にビジネスを広げるソリッドベンチャーの強みに注目しました。自らの力で稼ぐからこそ外部の意向に縛られず、**“腰を据えて顧客と向き合う”**余裕が生まれます。さらに、既存事業の収益による安定性が新事業開発を持続的に支えることで、長期的な成長を掴めるのです。
既存事業の利益をどう活かすか悩んでいる方、もしくは外部の投資家に翻弄されたくない方にとって、ソリッドベンチャー的アプローチは大きなヒントになるはず。市場環境がめまぐるしく変化する中だからこそ、安定性と自由度を両立できる方法をぜひ検討してみてください。あなたの事業が次なるステージにステップアップする鍵が、ここにあるかもしれません。