ソリッドベンチャーは小さな成功を積み重ねるロングビジネス?

公開日:2024.11.18

更新日:2025.3.26

筆者:エンジェルラウンド株式会社 大越匠

ソリッドベンチャーとは、急成長を狙うスタートアップの「大きな資金投入→ハイリスク・ハイリターン」型とは異なり、安定収益を基盤に少しずつ革新を重ねていくビジネススタイルを指します。その代表例と言えるのが「ジワ新規」。既存事業を足場にしながら、小規模のチャレンジを積み重ねることで、いざ失敗しても大きなダメージを受けない――この安定感こそがソリッドベンチャーの特徴です。本記事では、ソリッドベンチャーが「ジワ新規」アプローチを活かしながら、どのように長期的なビジネスを築いているのか、考え方や具体的な取り組み例を掘り下げます。

ハイライト

  • 段階的な“ジワ新規”でリスクを抑えつつ、既存基盤を活かして堅実に拡大する
  • 小さな実験を繰り返し、失敗に学ぶカルチャーを醸成して組織全体を強くする
  • 多様なアイデアを取り入れ、市場変化に対応しながらロングビジネスを構築する

ソリッドベンチャーは、急成長を狙うスタートアップとは一線を画し、安定した収益基盤を元に少しずつ革新的な取り組みを重ねていく手法が特徴です。その代表的なアプローチとして注目されるのが「ジワ新規」。大きな冒険ではなく、小さな実験を重ねることで失敗を恐れずに次の挑戦へ繋げられる強みがあります。本記事では、ソリッドベンチャーが持続的に成功するための考え方や具体的な取り組み例を詳しく紹介します。

安定基盤×着実な革新――「ジワ新規」の強み

ソリッドベンチャーが最も得意とするのは、「いきなり大きな勝負を仕掛ける」のではなく、既存事業で培った収益とノウハウを足場にして、新規領域に少しずつ進出する手法です。

「ジワ新規」とはまさにこの段階的なアプローチのこと。大規模な投資を回避し、スモールステップで試しながら市場の反応を確認できるので、失敗しても痛手が小さく、次のチャレンジに素早く切り替えられます。

なぜ「ジワ新規」が効くのか

  • 既存ビジネスの安心感:安定した収益源があり、キャッシュフローに余裕がある
  • 段階的投資:一度に大金を投下しないので、万が一コケても会社全体が揺らがない
  • 顧客ネットワークを活用:顧客基盤を活かし、別のサービスや周辺領域に拡張しやすい

これらのメリットによって、ソリッドベンチャーは大勝負を避けながらも着実に成長できるのです。

小さな失敗が組織を強くする――トライ&エラーの重要性

「失敗を許す」カルチャーが継続的な挑戦を支える

ソリッドベンチャーがロングビジネスを築くうえで大切なのが、失敗を前提とした試行錯誤を続けることです。大きな賭けをすると、一度の失敗で取り返しがつかなくなるリスクがあります。しかし、小さな実験を積み重ねる形なら、ひとつの試行がうまくいかなくても企業全体への影響は限定的。

例えば、新規サービスの一部機能を一部顧客にだけ導入してみる――というようなスモールテストを繰り返すことで、失敗から学べる情報が蓄積され、むしろ組織全体のノウハウが着実に増えていきます。

一度の“うまくいかなかった”が次のヒットを生む

ソリッドベンチャーの強さは、市場のニーズがなかった→じゃあ他の切り口を試そうと柔軟にピボットできること。たとえば「新機能をリリースしたけれど利用率が低かった」という失敗は、「利用者はこんな機能なら使うかもしれない」という新発想に繋がる契機でもあります。

こうした段階的なチャレンジと検証サイクルによって、最終的には顧客満足度やリピート率が高まるケースも少なくありません。

市場変化を捉える――柔軟なアイデア導入がカギ

顧客・トレンドとの対話を重視

どんなに斬新なアイデアも、市場の要望とズレていれば成果に繋がりにくいのは言うまでもありません。ソリッドベンチャーが長期的に成功するためには、常に市場や顧客の声に耳を傾ける姿勢が欠かせません。

たとえば、こまめなアンケート、ユーザーインタビュー、データ分析などを通じ、リアルタイムに顧客ニーズの変化をキャッチする。それを小さな新機能やサービスに落とし込んでリリース→反応を見てさらに改善、という流れを回すことが多いです。

多様なバックグラウンドのチームでアイデアを生む

メンバーが同じ発想だけに囚われないようにするのも、ソリッドベンチャーの成長に不可欠です。職種や経歴が異なる人材を交えてブレーンストーミングを行うことで、「こういう追加サービスがあればニーズを掴めるのでは?」「この分野の顧客層にも水平展開できそう」といった新たな着想が生まれます。

  • 事例:ファインドスター社
    ファインドスター社は、当初は受託ビジネスで顧客と密接にコミュニケーションを取りながら課題を解決していました。その中で得たノウハウをもとに、徐々にマーケティング支援領域へと進出。大きな投資を一気にするのではなく、既存顧客のニーズと自社の強みを組み合わせた「ジワ新規」で多角化に成功し、広告代理事業やEC支援など幅広く展開しています。

ロングビジネスを形作る“安定と革新”の両立

安定収益を活用してコツコツ革新を続ける

ソリッドベンチャーがもともと保持している安定した収益モデルこそが、新規挑戦を後押しします。キャッシュフローが安定しているため、急激に稼がなければならない焦りが少ないのです。

結果として、失敗しても致命傷にならない範囲での冒険が可能になり、むしろ多くの試行錯誤を経て新しい事業の芽を育てやすいのです。

企業文化としての挑戦意識

また、ロングビジネスを支えるうえでは、組織全体に「変化を楽しむ」カルチャーが浸透していることが重要です。失敗を責めるよりも学びに変え、自分たちの強みに取り込んでいく姿勢が定着すれば、時間をかけて次々と新たな市場開拓に踏み出せます。

終わりなき挑戦――小さなステップが積み上がる

ソリッドベンチャーは、一発逆転のブレイクスルーではなく、小さな成功を何度も積み重ねることで企業としての底力を強めていきます。

既存事業による安定感を背景に、「新機能」「新市場」「新サービス」などのテーマに小出しで挑戦し、合わなければ修正する。そうした柔軟さを長期間続けることで、結果として大きな成長曲線を描くことができるのです。

事例ピックアップ:オロ社の“ジワ拡大”戦略

オロ社は当初、ウェブやシステムの受託開発で安定的な顧客基盤を築き上げました。その後、この受託の現場で培ったノウハウをもとに自社製品として「ERP ZAC」を展開。

  • 大規模投資ではなく、まずは社内で実用→外部展開という小さなステップ
  • 既存クライアントに近い業務領域から段階的に拡張

こうしたスモールスタート&段階的拡大によって、2017年にIPOを果たし、多彩なサービス群を堅実に育てています。

ソリッドベンチャーが描く“長い成功”への道

「小さな成功を積み重ねるロングビジネス」は、一見地味に映るかもしれません。しかし、それこそがソリッドベンチャーの本質的な強みと言えます。

  • 一度の成功や失敗に振り回されにくい
  • 堅実なキャッシュを元に、リスク分散型の新規投資が可能
  • 持続的な改善とアップデートで競合優位性を保ちやすい

変化の激しい時代だからこそ、確実に失敗リスクを制御しながらチャレンジを積み重ねるソリッドベンチャーのスタイルは、多くの企業にとって有力な成長戦略の一つと言えるでしょう。

おわりに

ソリッドベンチャーは、大きな挑戦を一気に成功させるスタートアップ的手法ではなく、既存事業による安定収益を武器に「ジワ新規」を継続することで、ロングスパンでビジネスを拡大していきます。

安定と革新を絶妙に組み合わせるこのアプローチは、すぐには派手な数字が出なくとも、確実に企業体力とノウハウを蓄積し、長期にわたる成長軌道を描ける点で非常に魅力的です。

いままさに、新規事業のリスクや組織文化づくりに悩む企業こそ、ソリッドベンチャーの持つ「安定×挑戦」のバランス感覚から学ぶところが多いのではないでしょうか。

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