ソリッドベンチャーとスタートアップとの違いってなに?

公開日:2024.09.10

更新日:2025.4.16

筆者:エンジェルラウンド株式会社 大越匠

新規事業を立ち上げる際、思い描くゴールや許容できるリスクによって、企業は「ソリッドベンチャー」か「スタートアップ」のどちらかを選択する傾向があります。ソリッドベンチャーは早期黒字化と安定収益を重視するモデルで、リスクを抑えながらじわじわ成長。一方でスタートアップは外部資金を用いて短期間で市場を席巻し、ハイリターンを狙います。本稿では両者の特徴や資金調達手法、成長戦略の違いを紐解き、具体的な事例を交えながらあなたのビジネスに合った選択肢を見極めるポイントをご紹介します。

ハイライト

  • 初期から安定収益を狙うソリッドベンチャーと、外部調達で急成長を目指すスタートアップではリスク許容度と成長速度が大きく異なる。
  • 資金調達方法(デット中心 or エクイティ中心)や収益モデルが両者の事業運営を左右し、経営者が選ぶべき道も大きく変わる。
  • 経営目標・市場特性・価値観を踏まえ、ソリッドベンチャー型かスタートアップ型かを選択することが、長期的にみた成功のカギとなる。

ソリッドベンチャーとスタートアップの基本像

ビジネスを興すとき、よく耳にする「ソリッドベンチャー」と「スタートアップ」。どちらも新しい企業形態の総称ですが、それぞれが掲げる成長のゴールやリスクの取り方は大きく異なります。

ソリッドベンチャーの定義

ソリッドベンチャーは、初期から黒字を狙い、安定したキャッシュフローを起点に着実な拡大を進める企業です。創業直後から受託開発やコンサル、人材紹介など、“売上が早く立つ”事業でキャッシュを稼ぎ、その収益を新規領域へ回すのが典型的なスタイル。極端に外部資本に頼らないため、創業者が経営方針をコントロールしやすいのも特徴です。

ソリッドベンチャーのメリット

  • 早期からの黒字化が可能で、資金ショートリスクを抑えやすい
  • 投資家の意向に左右されにくく、経営権や方針を維持しやすい
  • 失敗事業が出ても、本体のキャッシュエンジンがあるため大崩れしにくい

ソリッドベンチャーのデメリット

  • 自己資金中心だと爆発的な拡大はしにくい
  • 受託やBPOなど地道な事業領域が多く、華やかさや注目度はやや劣る
  • 急成長組との市場競争では後手に回る可能性がある

スタートアップの定義

スタートアップは革新的なアイデアやテクノロジーを武器に、短期間で一気に市場を制覇しようと試みる企業形態です。外部投資家(VCなど)から大きな資金を調達し、赤字を掘りながらユーザーを獲得し、一定の規模に達した段階で一気に収益化を図るモデルが主流となっています。

スタートアップのメリット

  • VC投資を活用し、短期で大規模な事業拡張ができる
  • ユニコーン(企業評価額10億ドル以上)など、華々しい成功を狙える
  • 特定のタイミングで上場やM&Aを実現すれば、創業者や投資家に大きなリターンをもたらす

スタートアップのデメリット

  • 大量の投資資金を受けた分、失敗時のリスクやプレッシャーも大きい
  • 外部株主の意向に左右され、経営の自由度が制限されがち
  • 成長速度が鈍化すると次ラウンドの調達が困難になり、資金ショートに陥る危険が高い

資金調達アプローチの違い

ソリッドベンチャーは自己資金や銀行融資(デット)を中心にし、スタートアップはエクイティ調達(株式発行)を積極利用する――ここに両者の明確な性格の差が表れます。

ソリッドベンチャー:自己資金+デット

たとえば、C-mind社のように早期から通信の代理店事業で稼いだ利益を蓄え、それを新規プロダクトや周辺サービスへ再投資する形が典型です。必要に応じて銀行融資は使うものの、投資家に大きく株式を渡すような動きは最小限。これにより、会社の舵取りは代表・経営陣がしっかり行い、無理なく段階的に成長していきます。

  • キャッシュフローに余裕があるときにのみ積極投資
  • 投資家のリターン圧力が小さいため、長期視点で事業を育てやすい
  • 既存事業が黒字だとリスクが限定的

スタートアップ:エクイティ中心

一方、スタートアップはVCから数億~数十億円単位の出資を受け、爆発的な拡大を狙います。IT分野であれば、広告費や開発費に一気に資金をつぎ込み、短期間でユーザーを獲得する戦略をとるのが典型です。

  • 大規模資金で急成長を目指し、シェアトップを奪う
  • 次の調達に繋げるためにも継続的にハイペース成長を求められる
  • 株式の希薄化が進み、経営権を維持できなくなるケースも多い

収益モデルとリスク管理の実態

売上をどこから得るか、いつ得るか――これがソリッドベンチャーとスタートアップで大きく異なります。

ソリッドベンチャーの収益モデル

“まずは堅実に稼ぐ事業”を起点として成長資金を生み出し、新規領域に少しずつ挑戦していきます。既存事業がキャッシュエンジンになっているため、新規プロダクトの失敗リスクが高くても会社全体のダメージは比較的軽微で済むわけです。

  • 堅実ビジネス × 新規ビジネスの組み合わせでリスクを分散
  • 収益化が遅れる新規領域でも、既存事業が支えてくれる
  • 「地味でも利益が出る」ジャンルへの着眼が重要

スタートアップの収益モデル

スタートアップは「ユーザー獲得優先 → 後から大きく収益化」のスタイルが標準的です。具体的には、赤字を厭わず広告やキャンペーンを打ちまくり、ユーザー数や市場シェアを最優先します。あるタイミングで一気にマネタイズに移行して利益を回収する設計です。

  • ユニコーン化やIPOが実現すれば、投資家・経営陣ともに大きなリターンを得られる
  • 当面は赤字が続くが、スケールメリットを生かせる領域なら一発逆転が可能
  • 資金繰りは常にシビアで、資金ショートすれば一気に経営危機

リスクとリターンの比較

ここで簡単に対比表を再掲し、それぞれの性質を整理してみましょう。

     ソリッドベンチャースタートアップ
リスク・成長速度がゆるやか
・大規模投資が難しい
・市場競争で後手に回る可能性
・資金ショートのリスク
・投資家の意向が強い
・急拡大で組織混乱
リターン・安定収益基盤
・外部影響が少ない
・長期的に持続可能
・成功なら大きいリターン
・市場トップのシェア獲得
・注目度が高い

急成長を狙うならスタートアップ型が有利ですが、成功確率や経営の安定を考慮するとソリッドベンチャー型のメリットは見逃せません。これらの特徴を踏まえたうえで、具体的な成功事例と、両者のアプローチが明確に分かる成長戦略例を以下に取り上げていきます。

5.ソリッドベンチャーの成功事例:C-mind社

ソリッドベンチャーの代表格として、C-mind社が挙げられます。通信の代理店事業を祖業として15期連続増収を続けながら、定額制レンタルプリンターやリクルートスーツ無料レンタルなどの新規事業を生み出し、地道に売上を伸ばしているのが特徴です。

  1. 通信代理店で安定キャッシュを確保
  2. キャッシュフローを活用し、段階的に新規サービスを立ち上げ
  3. 失敗リスクを限定しつつ、堅実なM&Aやサービス拡張を実施

こうしたモデルは、“すでに安定した収益の柱”を持ちながら新領域へ足を伸ばす典型的なソリッドベンチャー型。赤字を抱えるリスクを抑えながら着実に事業を増やしていけるのが強みです。

スタートアップの成功事例:テック系急成長企業

スタートアップ型の成功を象徴するのは、海外でよく知られる配車アプリフードデリバリーの事例です。巨額のVCマネーを調達し、広告・キャンペーン・開発投資を一気に進め、短期間でユーザーを何百万単位で獲得。赤字を度外視しながら、まずは市場シェアを奪取する戦略です。

  • 巨大市場で大規模投資を行い、数年で“世界的企業”へ急成長
  • 投資家と二人三脚で、連続してラウンドを行い数百億円を集める
  • もし計画通りシェアを取り切れば、IPO時に莫大なリターンを得られる

ただし、ユーザー獲得が計画通りに進まないと資金調達に失敗し、そのまま事業撤退するリスクも常につきまといます。ハイリスク・ハイリターンの典型例といえるでしょう。

どちらのモデルがあなたに合っているかを見極める

では、どんな企業がソリッドベンチャーを選び、どんな企業がスタートアップを選ぶべきなのでしょうか。以下の視点で判断してみてください。

ソリッドベンチャーに向くケース

  • 長期的・安定的な経営を重視し、大きな赤字を抱えたくない
  • 受託やBPOなど早期黒字化が見込めるビジネス領域に強みがある
  • 投資家の要求に追われず、経営者自らのペースで拡張したい

スタートアップに向くケース

  • 大きな市場でユーザーが急激に増えるポテンシャルがある
  • リスクを恐れず、世界的なトッププレイヤーを本気で目指す
  • 投資家の協力を得て、短期間で資金を集中投下し、シェア奪取を狙う

実際には、ソリッドベンチャーが途中で大きな投資を受けて一気にスケールアップする場合もありますし、スタートアップが安定成長路線に軌道修正する例もあります。最終的には、経営者がどのくらいのリスクを負ってでも短期勝負を挑みたいか、あるいは腰を据えて堅実経営をするか――この意志が大きな分かれ道となるでしょう。

ソリッドベンチャーとスタートアップは共存可能か

日本でも近年、スモールM&Aや個人投資家の台頭など、必ずしも“大型のVC出資”だけが資金調達の手段ではなくなってきています。その結果、ソリッドベンチャーが小規模な外部資本を取り入れつつも堅実に成長し、最終的には上場するルートが徐々に注目されるようになりました。

さらに、スタートアップの革新性とソリッドベンチャーの安定基盤を組み合わせた協業も十分可能です。たとえば、ソリッドベンチャーがスタートアップに出資し、自社の顧客基盤や営業力を提供し、スタートアップの技術力やサービスを取り込む形も見られるようになっています。

互いの持ち味を活かすことで、新たなイノベーションを創出するポテンシャルがあるわけです。

これからの選択肢:自社のビジョンに合わせて

外部資金で一気に成長し、大きく世界を変えるか、あるいは地に足をつけて長く稼ぎ続けるか。どちらが良い・悪いではなく、自社のビジョン・市場環境・経営者のライフスタイルなど総合的に判断して道を選ぶことが大切です。

  • 成熟市場で価格競争が厳しいなら、ソリッドベンチャーで安定を図る
  • 急激に拡大する可能性のある新興市場なら、スタートアップで先行者メリットを奪いにいく
  • 資金調達手段も、自己資金・銀行融資・クラウドファンディング・VCなど多様化
  • 大きなリスクを背負うか、じっくり積み上げるかは経営者の人生観にも関わる決断

「自分のスタイル」に合った道を選ぼう

ソリッドベンチャーとスタートアップの違いは、単なる成長速度や資金調達スキームの差だけではありません。リスク許容度経営ビジョン、そして企業としての「成功」への考え方の違いが、両モデルを大きく分けるのです。

  • ソリッドベンチャーは早期黒字と長期的安定を武器に、組織体制やサービス領域を段階的に拡張。
  • スタートアップは大胆な資金投下で急成長を狙い、短期勝負で大きな結果を追求。

自分がどのくらいの速度で結果を求めたいのか、どれほどのリスクを負えるのかを再確認してみましょう。安定路線でじっくり会社を育てたいのならソリッドベンチャーがフィットするでしょうし、一攫千金を夢見て世界的トッププレイヤーを目指すのならスタートアップ型に舵を切るのが自然かもしれません。

どちらの選択にも一長一短があり、自社に合う道を的確に選ぶことこそが、経営者の腕の見せどころなのです。

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