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ソリッドベンチャーとスタートアップとの違いってなに?
公開日:2024.09.10
更新日:2025.2.3
筆者:エンジェルラウンド株式会社 大越匠

ハイライト
- ソリッドベンチャーは初期から黒字を重視し、リスクを抑えながら段階的成長を狙うのに対し、スタートアップは外部投資を活用して急成長・急拡大を追求する。
- 資金調達方法(自己資金やデット中心 vs. エクイティ中心)やリスク許容度の違いが、両者のビジネスモデル・組織づくり・成長ペースを大きく左右する。
- 自社の経営目標や市場特性、経営者のライフスタイル・価値観を踏まえ、どちらのモデルが合うかを判断することが重要。
企業の成長モデルを検討するとき、しばしば「スタートアップ」と「ソリッドベンチャー」という二つの概念が対比的に語られます。スタートアップは急成長を狙い、大きなリスクを伴って一気に市場を席巻しようとする姿勢が特徴。一方のソリッドベンチャーは、初期から安定収益を重視し、じわじわと持続可能な成長を目指すモデルとされます。一見すると、スタートアップは夢があり華やかな印象で、ソリッドベンチャーは地味に映るかもしれません。しかし、どちらが優れているわけでもなく、自社のビジョンやリソース、リスク許容度をどう考えるかで向き不向きが大きく変わってきます。本稿の前編では、まず「ソリッドベンチャー vs. スタートアップ」の基本的な違いと、それぞれが採用する資金調達・リスク管理・収益モデルの特徴について掘り下げていきましょう。
ソリッドベンチャーとスタートアップの定義
ソリッドベンチャーとは?
「ソリッドベンチャー」とは、創業期から収益が見込める事業を起点とし、そのキャッシュを再投資しながら新規領域へ拡張していく企業形態を指します。
例えば、受託開発やコンサル、BPOなど、比較的早期に売上が立つビジネスモデルを核に据え、そこで安定した収益を確保。その後、徐々に新サービスや新市場へ進出することで、段階的にリスクをコントロールしながら成長を図ります。
- 例:IT受託開発で得た資金を使って、クラウドサービスや別のSaaSプロダクトを試験的に開発していく、といったスタイル。
- 特徴:安定したキャッシュフローをもとにリスクを抑えつつ新規事業へ踏み出せる。外部資金への依存度が低く、経営のコントロール権を維持しやすい。
スタートアップとは?
一方、スタートアップは革新的なアイデアやテクノロジーを武器に、短期間で急成長を目指す企業を指します。新しい市場を急拡大するために、VC(ベンチャーキャピタル)やエンジェル投資家から多額の資金調達を行い、収益化よりもユーザー獲得やシェア拡大を優先します。
- 例:スマホアプリやクラウドサービスで、ユニコーン(企業評価額10億ドル超)を目指すIT企業。
- 特徴:大きなリスクを負って、ハイリターンを狙う。多額の投資資金を得やすいが、投資家へのリターンプレッシャーが高く、資金ショートのリスクも抱える。
資金調達:エクイティか自己資金か?
ソリッドベンチャーの資金調達
ソリッドベンチャーは、創業初期から自己資金や銀行融資(デットファイナンス)でビジネスを開始し、早い段階で黒字化を目指すのが一般的です。そこから生まれたキャッシュフローを新規事業へ投じることで、無理な外部調達を抑えられるのが強みと言えます。
もちろん拡大局面でエクイティ・ファイナンスを検討するケースもあり得ますが、過度に株式を手放さないため、経営者としての自由度や長期的視点を保ちやすいのが魅力です。
- メリット:外部投資家へのリターン要求に追われない。株式の希薄化が少なく、経営方針を自分たちでコントロールしやすい。
- デメリット:自己資金が限られていると、初期の事業規模が小さくなる。スケールアップに時間がかかる。
スタートアップの資金調達
対してスタートアップは、エクイティ・ファイナンス(株式発行による調達)を積極的に活用します。大きな資金を得ることで短期間で事業を拡大し、市場シェアの取り合いに勝つ戦略が標準的です。
特にITやバイオなど、スケールメリットが大きい領域では、VC投資を受けて赤字を掘りながらの成長が一般的となっています。
ただし、株式を発行するほどオーナーシップが薄まり、投資家の意向に左右されやすくなる点には注意が必要です。
- メリット:大型資金を武器に急拡大できる。短期間で大きな結果が出れば、上場やM&Aで莫大なリターンが得られる。
- デメリット:失敗時のリスク(資金ショート)や投資家の干渉が強くなる。成果を出す速度が遅いと次のラウンドが難航。
収益モデルとリスク管理
ソリッドベンチャーの収益モデル
ソリッドベンチャーは、既存事業で稼いだ利益を新事業に回すことで、利益率の高い新分野へ徐々に進出するのが基本の成長パターンです。このため、初期の段階から受託やコンサル等で着実に売上を得られる分野を選ぶことが多いと言えます。
- リスク管理:キャッシュエンジンがあるため、新規事業が失敗しても大きく揺らがない。地味でも確実なビジネスを固め、そこから隣接領域へ“ジワ新規”で拡張。
- 投資ペース:自己資金ベースのため、乱暴な投資ではなく計画的に資金を投下する。経営者のリスク許容度に応じてペースを調整可能。
スタートアップの収益モデル
スタートアップは「まずはユーザー(顧客)をとにかく増やし、市場シェアを拡大する」戦術を重視するため、当面の収益を度外視するケースが多く見られます。
その代わり、ある一定の規模に達したときに大きく収益化する(広告モデルやサブスクモデルなど)計画を描くわけです。
- リスク管理:大きな投資を必要とするので、常に資金調達の成否に運命が左右される。ユーザー拡大が計画通り進まないと、急に資金繰りが厳しくなる。
- 投資ペース:VC投資に合わせて大きく広告を打ったり、開発チームを急拡大するため、成長が早い反面、組織崩壊リスクや資金ショートリスクが高まる。
ソリッドベンチャーとスタートアップ、それぞれのリスクとリターン
ここではいったんまとめに代わって、ソリッドベンチャー vs. スタートアップのリスクとリターンを整理しておきましょう。
ソリッドベンチャー | スタートアップ | |
---|---|---|
リスク | ・成長速度がゆるやか ・大規模投資が難しい ・市場競争で後れを取る可能性 | ・資金ショートのリスク ・投資家の意向が強い ・急拡大による組織混乱 |
リターン | ・安定した収益基盤 ・外部要因に振り回されにくい ・長期的に持続可能 | ・成功時のリターンが大きい ・市場のトップランナーになり得る ・注目度が高い |
急成長を狙うならスタートアップ型が有利ですが、成功確率や経営の安定を考慮するとソリッドベンチャー型のメリットは見逃せません。これらの特徴を踏まえたうえで、具体的な成功事例と、両者のアプローチが明確に分かる成長戦略例を以下に取り上げていきます。
ソリッドベンチャーの成功パターン

DONUTS社
ここでは、有名なソリッドベンチャーの一つとして知られる「DONUTS社(株式会社DONUTS)」を取り上げます。同社はゲーム事業やWebサービスを軸に、受託や自社プロダクトを並行して展開することで、創業初期から収益を得られるモデルを構築しました。
- 受託ゲーム開発で安定した売上を確保
- その利益を元手に、自社サービス(「ジョブカン」などのSaaS事業)や新規メディア運営へ投資
- 外部投資を大きく受けないまま、自己資金+小規模調達で拡大し、上場へ向けた基盤を固めた
結果、創業時から大赤字を抱えることなく、黒字経営を続けながら多角化を実現。市場リスクが高いゲームジャンルでも、ヒット作がなくても会社全体が揺らがないほどの安定体制を築き、同時に次々と新領域へ挑戦できる土俵を整えたのです。
成長戦略のポイント
DONUTS社の事例から見えるソリッドベンチャーの成長ポイントは主に以下の3点です。
- キャッシュフロー重視:早期に稼げる事業を1本もつ。例:受託開発、コンサル、人材紹介など。
- 段階的拡大:新規領域をテスト的に立ち上げて、ヒットの兆しがあればスケール投入。小さな成功体験を積みながら組織を拡大。
- 柔軟な資金戦略:自己資金+必要最小限の外部ファイナンスでリスクをコントロール。投資家への高リターン要求に追われない。
このアプローチを踏めば、“失敗しても会社の本体が揺らがない”というソリッドベンチャー特有の強さが生き、着実に売上と事業領域を広げることができるわけです。
スタートアップの成功事例:ハイリスク・ハイリターンの実態

テック系スタートアップの一例
スタートアップの成功例としては、多額のVC投資を受けて急拡大したテック企業が挙げられます。たとえば海外の例ですが、配車アプリやフードデリバリーサービスが典型的です。
初期段階で数百億円レベルの投資を受け、赤字覚悟で徹底的に市場浸透を図ることで、一気にユーザーを囲い込みました。
- 短期で数百万人〜数千万人のユーザーを獲得
- 売上よりもシェア拡大を優先し、広告やキャンペーンで赤字を積極的に出す
- 巨額調達が途切れない限り、世界各国で高速展開
結果的に、大成功を収めればユニコーン企業として華々しいIPOやM&Aに至り、創業者や投資家は大きなリターンを得られます。
ただし、このモデルでは少しでも成長速度が鈍化すると次ラウンドが困難になり、一気に経営が立ち行かなくなるリスクも潜んでいます。
成功と失敗の分岐
スタートアップの成功率は一説には10%以下ともいわれ、ハイリスク・ハイリターンを地で行く世界です。一発当たれば大きいですが、外部投資家からのプレッシャーや毎年赤字を掘り続ける負荷は、創業者のメンタルや組織にも相当な負担を強います。
一方、ソリッドベンチャーであれば失敗確率を下げることができ、仮に新規事業でコケても受託などの既存収益でカバー可能です。ここに両者の決定的な差があるといえるでしょう。
どちらのモデルが自社に向いているか?
ソリッドベンチャー向きの起業家・企業
- リスク許容度が小さい:資金ショートの可能性を極力減らしつつ、手堅く事業を運営したい。
- 長期経営を重視:短期的な爆発よりも、10年スパンでじわじわ大きくしたい。
- ある程度のコア収益を持っている:既に小規模でも安定収益がある会社が第二創業的に新プロダクトを検討するなど。
スタートアップ向きの起業家・企業
- 大きな夢を追い、短期で世界を変えたい:リスクよりもリターンを優先し、資金を一気に突っ込む覚悟がある。
- 投資家を巻き込みやすい革新的アイデア:ユーザー数が爆発的に増えるビジネスでネットワーク効果を狙えるなど。
- エグジット(IPOやM&A)を視野に入れ、数年スパンで勝負:早期に上場や買収によるリターンを志向。
両者は対極にあるわけではなく、ソリッドベンチャーが途中でスタートアップ並みにスケールを狙う選択をすることもあるでしょうし、スタートアップが成長後に堅実経営へシフトするケースもあり得ます。大事なのは、どのフェーズで何を目標にし、どれだけのリスクを取るかを明確にすることです。
ソリッドベンチャーとスタートアップは共存するか?

スタートアップ的な「急拡大路線」を重視する投資家が多い一方、近年では、スモールM&Aや小規模な投資を得意とするファンドやエンジェル投資家も増えてきています。
そうした投資家は、大きなリターンよりも安定感や長期的な配当を好む場合があり、ソリッドベンチャーとも親和性が高いといえるでしょう。
また、スタートアップとソリッドベンチャーがそれぞれの得意分野で協業やアライアンスを組むことで、お互いの不足リソースを補い合う形も考えられます。
ソリッドベンチャーが持つ安定基盤と、スタートアップの革新性を掛け合わせることで、新たな市場が生まれる可能性も十分あり得ます。
これからのビジネスにおける選択肢

ここでは「ソリッドベンチャー vs. スタートアップ」の議論を締めくくるにあたり、今後のビジネス環境を踏まえ、どんな選択が考えられるのかをまとめます。
- 成熟市場 vs. 新興市場
- 成熟市場では、競合が多く価格競争が激しいため、堅実に収益を上げられるソリッドベンチャーが活路を見いだしやすい。
- 新興市場では、先行者メリットを狙うスタートアップが爆発的成長を遂げる可能性が高い。
- 資金調達の多様化
- 国内でも個人投資家やマイクロVCが台頭し、数千万円〜1億円規模のスモールM&Aや出資が活性化している。ソリッドベンチャーが中長期的にM&AでEXITするルートも増えている。
- 国内でも個人投資家やマイクロVCが台頭し、数千万円〜1億円規模のスモールM&Aや出資が活性化している。ソリッドベンチャーが中長期的にM&AでEXITするルートも増えている。
- 経営者のライフスタイル
- がむしゃらに資金集めをして時価総額を上げたいのか、あるいは安定収益で着実な社業を大きくしたいのか。どちらを選ぶかは、経営者の人生観や価値観にも大きく左右される。
あなたに合ったビジネスモデルを見極める
ソリッドベンチャーとスタートアップは、どちらも新しいビジネスを立ち上げる選択肢として魅力的ではありますが、求めるゴールや許容できるリスクの大きさで向き不向きが変わります。
安定収益を早期に得て着実に拡大するか、あるいは大きな資金を投下して一気にシェアを取るか――。この岐路を理解し、自社や自分のスタイルに合った道を選ぶことが、成功への近道となるでしょう。