ソリッドベンチャーとスタートアップとの違いってなに?

2024.09.10

筆者:エンジェルラウンド株式会社:大越匠

ハイライト

  • ビジネスモデルと成長戦略が大きく異なる
  • 事業スタート時に「自己資金・銀行融資」なのか「エクイティ・ファイナンス」なのか
  • それぞれのリスクとリターン

ソリッドベンチャーとスタートアップの違いは、起業家や投資家にとって重要なテーマです。ソリッドベンチャーは、初期段階から安定した収益を生み出し、持続可能な成長を目指す企業を指します。一方、スタートアップは急成長を目指し、大胆なリスクを取ることが多いです。本記事では、ソリッドベンチャーとスタートアップの基本的な定義から資金調達や収益モデルの違い、成長戦略とリスク管理のアプローチまでをまとめました。


ソリッドベンチャーとスタートアップの基本定義

ソリッドベンチャーとスタートアップは、どちらも新しい事業を始める企業ですが、そのビジネスモデルや成長戦略は大きく異なります。

ソリッドベンチャーは、創業初期から収益を上げる事業を構築し、その収益を元に新規事業を持続的に模索する企業です。主な目的は、安定したキャッシュフローを確保し、リスクを最小限に抑えながら、時間をかけて新しい事業領域へと成長していくことです。多くの場合、ソリッドベンチャーはすぐに売上が見込める業界(例: 人材、コンサル、受託開発)を選び、キャッシュ・カウとなる事業を構築します。

一方、スタートアップは、革新的なアイデアや技術を基に、短期間で急成長を目指す企業です。スタートアップは、アイデアやプロダクトの可能性を最大限に追求し、資金を調達して市場シェアを素早く獲得することに重点を置きます。収益は当初の最優先事項ではなく、成長率と市場の拡大が鍵となります。

このように、ソリッドベンチャーとスタートアップは、ビジネスの成長戦略やリスク管理のアプローチにおいて異なる特性を持っています。次のセクションでは、資金調達と収益モデルの違いについて詳しく見ていきましょう。

資金調達と収益モデルの違い

ソリッドベンチャーとスタートアップの大きな違いは、資金調達の方法と収益モデルにあります。

ソリッドベンチャーでは、自己資金やデット・ファイナンス(銀行借入など)を中心に事業を始め、早期から利益を上げます。収益性が重要視されるため、企業は早期にキャッシュフローを確保し、それを新規事業や成長に再投資します。このアプローチにより、外部からの過度な資金調達を避けることができ、創業者が経営の主導権を維持しやすいという特徴があります。もちろん、事業のアクセルを一気に踏みに行くときのエクイティ・ファイナンス(株式による資金調達)を実施するという選択をとることもできます。

一方、スタートアップはエクイティ・ファイナンスを多用し、成長資金を外部の投資家(ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家)から調達します。初期の収益性は重視されず、スケールアップを目指すために多額の資金を投入し、短期間で市場シェアを拡大します。このため、スタートアップは資金調達を繰り返し、急速な成長を支えるキャッシュを確保する必要があります。ユニコーンと呼ばれるような急拡大・急成長をすることもできる一方で失敗のリスクも大きくなります。

このように、資金調達と収益モデルの違いは、ソリッドベンチャーとスタートアップのビジネス戦略に大きな影響を与えています。どちらのモデルが自分に適しているかを考える際には、これらの違いを理解することが重要です。

成長戦略とリスク管理の比較

ソリッドベンチャーとスタートアップでは、成長戦略とリスク管理のアプローチが大きく異なります。

ソリッドベンチャーの成長戦略は、既存事業で収益を確保しながら、その延長線上で新規事業を展開するという堅実なアプローチを取ります。例えば、SHIFT社は品質管理という安定した事業を基盤に、M&Aを通じてIT業界全体の支援プラットフォームを目指す成長戦略を展開しています。このように、収益をキャッシュエンジンとして活用し、新しい市場に参入する際もリスクを抑えることができます。失敗した場合でも、キャッシュフローを生む既存事業があるため、企業全体が大きな損失を被るリスクが低いです。(そのほかの具体的事例はこちらのページで紹介しています)

これに対し、スタートアップは短期的な急成長を目指し、リスクを取ることを前提としています。成長が加速するほど、次のラウンドの資金調達が必要になり、キャッシュの枯渇が大きなリスクとなります。収益が出る前に市場シェアを拡大することを重視するため、失敗した場合には企業全体が破綻する可能性があります。たとえば、UberやWeWorkのようなスタートアップは、巨額の資金を調達しながら急成長を目指し、成功と失敗の境界線を行き来するリスクを伴います。

このように、ソリッドベンチャーは安定性を重視し、スタートアップは成長のスピードを重視するため、それぞれのビジネスモデルに応じた戦略とリスク管理の方法が必要です。どちらのアプローチが適しているかは、企業の目指す方向性や市場環境によって異なるため、慎重な判断が求められます。

成功事例で見る違い

ソリッドベンチャーとスタートアップの違いを理解するためには、具体的な成功事例を通じてその特性を見ていくことが有効です。上場ソリッドベンチャーとして成功事例にあがるのは、SHIFT社やナイル社です。SHIFT社は品質管理という安定した事業を基盤に、M&Aを通じて事業領域を拡大。特に、新たな分野に進出する際も、リスクを徹底的に管理しながら成長を図っています。ナイル社もSEOコンサルティングから始まり、そのアセットを活かして新規事業に参入し、堅実な成長を遂げています。

一方で、スタートアップの成功事例としては、急成長を遂げたテクノロジー企業が挙げられます。これらの企業は、革新的なアイデアや技術をもとに、短期間で市場シェアを拡大することを目指します。例えば、ある配車サービスは、初期の段階で大規模な資金調達を行い、迅速にサービスを展開しました。その結果、短期間で多くのユーザーを獲得し、業界のリーダーとなることに成功しました。

これらの事例からもわかるように、ソリッドベンチャーは安定性と持続可能性を重視し、スタートアップは急成長と革新を追求するという明確な違いがあります。成功の形は異なりますが、それぞれのビジネスモデルには独自の魅力と戦略が存在することを理解することが重要です。

どちらが自社に合っているか?

ソリッドベンチャーとスタートアップのどちらが自分に合っているかを判断するためには、まず自分のビジネスに対する目標やリスク許容度を明確にすることが重要です。ソリッドベンチャーは、安定した収益を重視し、持続可能な成長を目指す企業形態です。このため、安定したビジネスモデルを構築し、長期的な視点での成長を求める方には向いています。特に、リスクを抑えつつ着実に利益を上げたいと考える起業家にとっては、ソリッドベンチャーが適しているでしょう。

一方で、スタートアップは急成長を目指し、大胆なリスクを取ることが特徴です。新しいアイデアや技術を駆使して市場に挑戦し、短期間での成長を狙うため、変化に柔軟に対応できる能力が求められます。革新的なビジネスモデルや製品を持ち、リスクを取ることに対して前向きな姿勢を持つ方には、スタートアップが向いているかもしれません。

ソリッドベンチャーとスタートアップは、それぞれ異なるアプローチでビジネスを成長させる企業形態です。ソリッドベンチャーは早期収益化と安定した成長を重視し、長期的な視点で持続可能な成長を目指します。一方、スタートアップは革新的なアイデアを基に急速な市場拡大を目指し、資金調達を通じて急成長を遂げることが特徴です。どちらのアプローチが適しているかは、企業のビジョンや経営者のリスク許容度、そして市場の状況によって異なります。