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なぜ「安定」がスタートアップにも勝る価値を持つのか?
公開日:2024.11.15
更新日:2025.4.15
筆者:エンジェルラウンド株式会社 大越匠

「スタートアップ=急成長」のイメージが根強い一方、早期から収益基盤を築き“安定”をベースに拡大を続ける「ソリッドベンチャー」というモデルにも注目が集まっています。外部投資家の要求に振り回されず、キャッシュフローの安定を軸に、段階的な新規事業展開や顧客満足の追求を可能にする。このアプローチこそが、企業を長期的に支える強固な土台を形成し、創業者のビジョンや従業員のモチベーションを最大化する手立てとなりつつあるのです。本記事では「安定」が持つ具体的価値と事例をもとに、その魅力と重要性を解説します。
ハイライト
- 安定収益が外部圧力を軽減し、長期視点の経営を促進する
- 精神的余裕がイノベーションと組織の持続力を高める
- 顧客との長期的な関係づくりが新たな安定を呼び込む好循環を生む
「安定収益」がもたらす経営の自由度
外部資金への依存を和らげ、長期戦略を握る
スタートアップの多くは短期間で大きな資金を調達し、それによってハイリスク・ハイリターンを狙う戦略をとりがちです。しかし、この方法には投資家の短期目標を満たす必要や株価対策などの外部圧力が伴います。その結果、経営の意思決定が短期志向になり、本来の事業ビジョンからブレが生じるリスクが高いのが難点です。
一方、早期のキャッシュフロー確保を重視するソリッドベンチャーは、外部投資家からの大型資金に頼らずとも回る自前の稼ぎを基盤にできるため、経営判断の幅が広がります。次の調達を急ぐ必要がないため、安定的な経営計画を柔軟に組み立てられ、投資先や新規事業の立ち上げ時期も自分たちのペースで判断できます。
事例:DONUTS社
受託開発で確固たる収益を得たうえで、ゲーム・勤怠管理ツール・ライブ配信といった新規事業を次々と展開。投資家に左右されないからこそ、独自のプロダクト発想にチャレンジできました。結果的にマルチな事業ポートフォリオを築き、リスク分散と成長を両立しているわけです。
精神的余裕が生む「長期ビジョン」の実現力
資金ショートの不安を払拭し、腰を据えた戦略を描く
大きな調達を受けて急成長を目指すスタートアップでは、資金繰りを常に意識しなければならず、経営者が「次の調達」に気を取られるケースが多々あります。数字を急速に上げるプレッシャーは大きく、精神的に追い詰められがちな状況では、根本的な戦略や長期的なビジョンに集中する余裕を失いかねません。
安定収益のあるソリッドベンチャーでは、日々の資金繰りのリスクが低く、しっかりした足場を築けます。その結果、経営者自身が精神的に安定し、長期プランを実行に移すための時間とモチベーションを確保できます。
事例:レバレジーズ社
IT人材サービスで着実に利益を出しつつ、介護や医療など別領域にも後発参入。投資家からの短期的な成果要求に追われることなく、自社の強みを生かしながら着実にサービス範囲を広げています。短期間で“当てに行く”のではなく、一度に大失敗しないように段階を踏むことで、結果として事業の伸びを安定化させているのです。
従業員やチームの士気も向上
経営トップが常に余裕を失っていると、従業員へのケアや教育投資が後回しになり、離職やチーム崩壊に繋がるリスクが高まります。安定収益の下では、給与や福利厚生を堅実に確保し、社員の成長と満足度を支援しやすくなります。それが組織力アップに結びつき、結果的に製品・サービスの質も向上するという好循環を生むのです。
顧客との“持続的な関係”で生まれる安定成長
目先の売上より顧客ロイヤルティを重視
“急拡大”を強く意識するスタートアップだと、広告投下や短期キャンペーンに大きく依存し、獲得した顧客とのリレーションを疎かにしがちです。しかし、長期安定を重視するソリッドベンチャー型の企業は、顧客との関係を深め、リピーターとして継続的に利用してもらうことでキャッシュフローを盤石にする動きが得意。
- 顧客満足が向上すると、リピートビジネスが安定して売上を下支え
- クチコミや紹介で新規顧客が獲得しやすくなり、さらに安定度が増す
事例:マイネット社
買収したスマホゲームアプリを大規模広告で一気に集客するのではなく、長期運営・ユーザーコミュニケーションによる継続率向上を狙う方針で成功。既存ユーザーを大切にする運営モデルが、安定収益の軸となっています。短期的な爆発よりも、しっかりした長期ユーザーベースを形成できるのは、安定志向ならではの強みといえるでしょう。
安定だからこそ可能になる“ジワ新規”の挑戦
大博打を打たなくても試行錯誤を続けられる
ハイリスク・ハイリターンの大勝負ではなく、「失敗しても傷が浅い」範囲で小さく新規事業を立ち上げ、徐々に拡大していくアプローチをとれるのがソリッドベンチャーの特徴です。キャッシュが安定的に入る仕組みがあるため、もし新サービスがコケても会社の存続を揺るがすほどの大打撃にはなりにくいのです。
- 隣接市場や周辺サービスへの拡張
- 既存顧客からのフィードバックを生かし、新プロダクトを投入
- 人材やノウハウに合わせて段階的にチームを増強
事例:C-mind社
通信の代理店事業で着実に利益を積み上げながら、新規事業としてレンタルプリンターやリクルートスーツ無料レンタルなどを立ち上げている例が挙げられます。自社がすでに持っている顧客アセットとノウハウを活かして、じわじわと新しい収益の柱をつくることで、リスクを最小限に抑えながら安定成長を続けているのです。
安定がもたらす組織全体へのメリット
人材定着と採用競争力
先が見えないスタートアップは、給与や待遇を投資でまかなう形になりがちで、資金状況次第ではメンバーが不安定な立場に置かれます。逆に安定収益がある会社では、待遇や福利厚生の継続が見込みやすく、人材の離職率も下がり、採用にもプラスに働きます。結果的に能力の高い人材が集まりやすくなり、組織力が高まりやすいという“プラスの連鎖”が生まれるのです。
社内文化の育成
経営陣が次の調達や株価に追われることなく、長期的な視点で企業文化の形成に注力できるのも大きなポイントです。新しい研修やチームビルディング施策を実験し、組織を強くしていく取り組みに対しても、時間とリソースをじっくり割けます。
「安定×スタートアップ」の共存が生む可能性
急成長だけが成功モデルではない
スタートアップと言えば、華々しい調達ニュースやエグジット(IPO・M&A)が注目されがちですが、それが唯一の成功法ではありません。むしろ、ソリッドベンチャー型のアプローチは、急成長スタートアップがはらむ短期リスクを回避しながら、企業としての生存率と持続的成長を高める上で極めて合理的な選択肢となっています。
社会的信用と長期的価値の創出
安定ベースの企業は取引先や金融機関からの信用度も高くなる傾向があります。これは、事業の継続性や財務基盤が一定以上担保されていることの証左。長期にわたる企業価値を磨くうえで、この社会的信用は大きなアドバンテージです。
“安定”を土台にさらなる飛躍をめざす
ソリッドベンチャーにおいて、「安定」は決して守りに徹する戦略ではありません。むしろ、余計な外部圧力や資金繰りの不安を取り払い、本質的な顧客満足と長期視点の革新に集中できる「攻めの安定経営」と言えます。
- 最初に手堅い収益モデルを作り、そこから周辺領域にジワ新規拡大
- 顧客リピートと社員の満足度で足元を固めつつ、挑戦を積み重ねる
- 外部投資家に振り回されず、経営者のビジョンを継続的に追求できる
多くの事例からわかるように、安定は企業が生き残り成長するためのエンジンとなる要素です。長期的に強固なビジネスを築きたいと考えるなら、この「安定」をいかに早期に確立し、活用するかが極めて重要なポイントになるでしょう。
「安定」を味方につけたソリッドベンチャー思考で未来を拓く
急激な資金調達による爆発的拡大もスタートアップの華ですが、その一方で「安定」を武器にじわじわと市場を広げるソリッドベンチャーは、外部の急な圧力に左右されず長いスパンで事業を形づくっていく力を持っています。
- キャッシュフローを安定させることで、“攻め”と“守り”のバランスを自在に
- 経営者や従業員が精神的余裕を持って顧客満足やイノベーションに注力
- 顧客との長期的な関係を築き、その信頼がさらなる安定を呼ぶ好循環
「安定こそが次のステージへ行くための足場」と捉えれば、スタートアップ的なスピード感とも両立できるはずです。むしろ、安定基盤をしっかり固めつつ新たな領域を模索するソリッドベンチャー的アプローチこそが、これからの時代、持続可能かつ柔軟な事業拡大を実現していく鍵といえるのではないでしょうか。