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これからの起業家にとってのソリッドベンチャーという選択肢
公開日:2025.01.20
更新日:2025.4.25
筆者:

「スタートアップ=VCマネーで急拡大」という図式に疲れを感じる起業家が増える一方で、“まずは着実に稼ぎながら、段階的に新規領域へ進出する”ソリッドベンチャーのモデルが再注目されています。本記事では、爆速成長を前提にしない代わりに、安定利益とリスク低減を両立するこのアプローチを、多彩な実例から解説。投資家の要求から自由になり、自社のビジョンをまっすぐ追求できる魅力とは何かを探ります。
ハイライト
- 安定収益を軸に、投資家の急拡大圧力に振り回されずに着実に成長できる
- “ジワ新規”戦略で大きな赤字を回避しながら、新しい事業領域を開拓可能
- VCモデル以外の起業スタイルとして、ソリッドベンチャーが再評価されている
これからの起業家にとってのソリッドベンチャーという選択肢
なぜ今「ソリッドベンチャー」が注目されるのか
「スタートアップで短期上場」や「巨額の資金調達をしてユニコーンを目指す」といった華やかな世界が脚光を浴びる現代。しかし、すべての起業家がハイリスクな投資ロードマップを描きたいわけではありません。VCの投資規模が大型化し、「短期で10倍、100倍の成長」を迫られるスタートアップが増える一方で、そこに疲弊する経営者や、“もっとじっくり利益を積み上げたい”と考える起業家も少なくないのです。
VCの大型化とスタートアップへの圧
昨今、ベンチャーキャピタルのファンド規模は拡大傾向にあり、多額のリターンを狙う投資家から、**「短期IPOを狙え」「赤字拡大しながらでも爆速成長を」**といったプレッシャーがかかりがちです。大規模な調達をしない企業は選択肢から外されやすく、調達できても“調達後の成長”を厳しく求められるケースが多々あります。
しかし、こうした“スピードと巨大化”がすべての起業家に合うわけではありません。そこで、**「まずは利益をしっかり確保し、リスクを最低限に抑えながら成長する」**というソリッドベンチャー型の路線が見直されています。
スタートアップ疲れと多様な起業のかたち
一度成功すればユニコーン級の華々しいシナリオが待っているとはいえ、その成功確率は高くありません。過度な赤字、投資家対応、激しい競争――こうした状況に疲弊する経営者が出る中で、「黒字経営の安定感を重視しながら少しずつ事業を広げるのも賢明な道だ」という声が増えているのです。
実際、日本には小規模な受託やコンサルから始まり、長年かけて多角化し上場規模へ成長した企業が多く存在します。ソリッドベンチャーのアプローチは、そうした“地道に伸ばす”文化とも親和性が高いと言えるでしょう。
ソリッドベンチャーの特徴とメリット
早期の安定収益とキャッシュフロー重視
ソリッドベンチャーでは、まず安定収益源を作り、黒字経営を確立することが最優先となります。スタートアップのように「ユーザー数」や「成長率」を重視して赤字を膨らませるのではなく、「キャッシュを生む事業=キャッシュカウ事業」を創業初期から担保するのが大きな特徴です。
- レバレジーズ社
SES(システムエンジニアリングサービス)で地道に利益を得つつ、IT・医療・介護など周辺領域へ段階的に展開。外部調達に依存せず自己資金ベースで成長することで、売上が1,000億円を超える規模へ拡大しました。
このように、最初に稼げるモデルを持っていれば資金ショートのリスクを抑えられ、急激な追加投資を強いられずに済みます。
リスク管理とジワ新規
スタートアップ型の急成長モデルは、成果が大きい反面、潰れるリスクも高いのが現実。ソリッドベンチャーはまず黒字を達成し、それを再投資して新規事業を“ジワ新規”で立ち上げるため、大きな赤字を抱えるリスクが低いのです。
- ナイル社
最初はSEOコンサル、次いでメディア事業と順を追ってビジネスを伸ばし、自動車サブスクへ進出。強固な利益体質を築いたうえで新サービスを投入し続けることで、安定感を伴う成長路線を描けました。
こうした段階的拡張は、顧客ニーズが明確なところからスタートできるため、無謀な投資を避けつつイノベーションを起こせるのが強みです。
投資家への依存度が低い=自由度が高い
ソリッドベンチャー型の場合、経営の主導権を創業者が握りやすく、投資家の意向によって戦略を大きく変える必要がありません。早期黒字を保っているため、株式を放出せずに銀行借入やスモールM&Aで事業を拡大するといった柔軟性もあります。
- 投資家の短期リターン要求に振り回されない
- 自社のミッション・ビジョンに忠実な事業展開が可能
- 事業判断のタイミングや規模感も、自己資本ベースで計画しやすい
結果として、社員や顧客を交えた長期的な関係性を構築しやすくなり、“ブレない経営”を続けられるメリットが生まれます。
“ジワ新規”戦略の実践例:緩やかに事業を広げる
既存顧客との関係を基盤に拡張
ソリッドベンチャーの新規事業立ち上げで重要なのが、既存顧客との関わりや既存事業で蓄積したノウハウを最大限活用すること。既存顧客が抱える課題を横展開して、新しいサービスを少しずつ育てるアプローチです。
- FPパートナー社
保険相談のビジネスからスタートし、蓄積された顧客情報と信頼関係を利用して新しい金融関連サービスに着手。少しずつ事業領域を拡大し、最終的に全国展開と大規模化に成功。
このように“ジワ新規”は、既存リソースを流用できるためコストを抑えつつ大きな失敗をしにくいのが特徴です。
組織シナジーを活かしながら新領域へ
ソリッドベンチャーの多角展開は、単に事業を増やすだけでなく、組織内でのシナジーを生み出すことがポイントです。受託・コンサルなどを通じて得た顧客基盤や営業ネットワークを新規事業でも活かし、クロスセルやアップセルを狙う形が多く見られます。
ボードルア社
SESとITインフラ管理を主柱に、上流工程やコンサル領域へシームレスに拡張。顧客のITニーズ全般をグループ全体でカバーできる体制を整えることで売上高を拡大し、IPOも果たしています。
事例から学ぶソリッドベンチャーのポイント
レバレジーズ社:SESを軸にIT人材事業を拡大
レバレジーズ社は創業初期にSES(システムエンジニアリングサービス)でしっかりと稼ぎ、その収益をもとにIT領域の人材紹介、さらには介護や医療へとジワジワ進出。外部資金調達に頼らず、あくまで黒字経営を保ちつつ展開しているのが特徴だ。
この事例は「まず堅いビジネスでキャッシュを生み、余力をもって新規事業に挑む」というソリッドベンチャーの王道パターンを体現しているといえる。成功要因としては、市場ニーズの明確なSESビジネスと、それを活用したジワ新規戦略でリスクを最小化していることが挙げられる。
ナイル社:SEOコンサルを基盤にしたメディア&自動車サブスクへ
ナイル社はSEOコンサルという比較的早期に収益化できる事業からスタートし、メディア事業を展開。さらに「おトクにマイカー 定額カルモくん」のようなサービスへ少しずつ領域を広げている。ここでも“ジワ新規”の典型が見られ、着実な成長の裏には顧客ニーズの分析と既存リソースの有効活用がある。
ナイル社の戦略は、一つの事業でキャッシュフローを安定させ、その利益を次の新規事業に投じるというソリッドベンチャーの基本スタイルと合致する。短期IPOを目指すスタートアップとは明確に違うテンポでビジネスを拡大している点が興味深い。
ソリッドベンチャーを成功に導くポイント
1)安定収益の確保が最優先
何よりもまず、早期に黒字を実現し、会社の基盤となる“キャッシュカウ事業”を確立することが肝心。資金繰りの安定が、長期的なビジョンを実行に移す余裕を生み、結果として持続的な成長を支える。
2)ジワ新規による段階的展開
新規事業は一気に拡大するのではなく、既存顧客との関係性やリソースを活かしてゆっくりと浸透させる。これにより大きな赤字を抱えるリスクを回避できるし、顧客も新サービスを受け入れやすくなる。
3)投資家への過度な依存を避ける
必要があれば出資や融資を受けることもあるが、基本は自己資金や黒字事業の再投資で事業を回すことで、経営の自由度を高める。投資家主体のスケールアップではなく、経営者が描くビジョンを実行できるのが大きな魅力。
4)組織を“柔軟で強固”に維持する
ソリッドベンチャーは安定収益に甘んじるのではなく、組織的にも“変化に対応できる強さ”を追求すべき。既存の人材をうまく配置転換し、新規プロジェクトを立ち上げる際にも動きやすいフラットなカルチャーを作ることが望ましい。
ソリッドベンチャーは「急成長か否か」以外の起業の道
「ユニコーンを目指せ」というスタートアップ的な風潮が強い中でも、ソリッドベンチャーは“地に足のついた”もう一つの起業ロードを提示しています。スタートアップ型と比べて地味に感じるかもしれませんが、堅実な利益を確保し、着実に多角化していくことで企業価値を膨らませられるアプローチです。
- 投資家の圧力に左右されない: 長期的視野で事業を育てられる
- リスク低減: まずは黒字化し、持続可能なキャッシュフローを生む
- ビジョン重視: 企業カルチャーや自社の方向性を守りやすい
日本には上場ソリッドベンチャーや、未上場でも売上数百億円規模へ着実に成長した事例が数多く存在します。大きな変革を一気に目指すのではなく、まず黒字を目指して少しずつ領域を広げる“ジワ新規”こそ、実は日本企業の強みに合った方法なのです。
もしあなたが、リスクばかりが大きいスタートアップ型に疑問を抱いているなら、このソリッドベンチャーという選択肢を真剣に検討する価値があるでしょう。華やかさに欠けるように見えても、長期的な企業価値と経営の自由度を両立できる可能性が高いからです。
もう一つの起業の可能性──ゆるやかな成長が未来を拓く
ソリッドベンチャーは、初期に黒字を確保することで、投資家や市場からのプレッシャーを最小限に抑え、企業本来のビジョンを着実に進められる点が最大の魅力です。スタートアップ的な爆速・大勝負型に比べて地味かもしれませんが、逆に言えば**「息切れしにくい」「倒産リスクが小さい」**モデルとも言えます。
- 大きな賭けよりも手堅い事業から始めたい
- 経営判断を起業家自身が主導し続けたい
- 段階的に事業を拡張し、少しずつ組織を育てたい
そんな思いを抱くなら、ソリッドベンチャーの道を選ぶ意義は十分にあるでしょう。短期的な株価や派手なニュースよりも、地道に積み上げた収益基盤が最後にモノを言う──そのリアルな姿を多くの事例が示してくれています。
起業の世界は、VC調達を目指すスタートアップだけが選択肢ではありません。むしろ日本企業らしい堅実さや段階的成長を大切にするアプローチが、思いがけない大きな成果と安定をもたらすかもしれません。そんな“もう一つの起業の可能性”として、ソリッドベンチャーを検討してみてはいかがでしょうか。