リスクを抑えつつ成長を目指すソリッドベンチャーの資金調達戦略とは?

公開日:2024.11.15

更新日:2025.3.28

筆者:エンジェルラウンド株式会社 大越匠

大きな投資を得て急成長を狙うスタートアップに注目が集まりがちな一方、早期の収益化を重視しながらリスクを抑え、着実に事業を拡大する「ソリッドベンチャー」も存在感を高めています。無理なスケールを追わず、自己資金や利益再投資で堅実にまわすことで、投資家からの圧力を回避しつつ自由度の高い経営が可能です。本記事では、ソリッドベンチャーが実践する資金調達戦略と、その背後にある考え方を具体的に探ります。

ハイライト

  • 自己資金や利益再投資を活用し、外部からの過剰な干渉を避けながら安定成長
  • 銀行融資の活用で株式希薄化を防ぎ、経営陣が描くビジョンを貫きやすい
  • 戦略的パートナーシップによる新市場開拓や技術シナジーで、単なる“お金”以上の効果

“ソリッドベンチャー”的な資金調達とは?

急成長型スタートアップとは対照的な堅実路線

スタートアップといえば、VCから大きな資金を調達して短期間でスケールするイメージが強いかもしれません。もちろん、その方法で成功を収める企業もありますが、その背後には多大なリスクや投資家の意向に左右される経営があるのも事実です。

これに対して、ソリッドベンチャーは「まずは手堅く収益を確保し、そこからさらに拡大を狙う」という路線を取り、長期的な視点でリスクを最小限に抑える戦略を重視します。

着実なITサービス展開

たとえば、あるIT受託企業が安定したSES(システムエンジニアリングサービス)事業を収益源に確保しながら、そのキャッシュフローを使って自社SaaSの開発に挑むケースがあります。こうした企業は、大規模な外部投資なしでも堅実に利益を生み出し、新サービス開発に再投資して徐々に拡大するのです。

自己資金・利益再投資の強み

ソリッドベンチャーの多くは、まず“自分で稼ぐ”ことを最優先します。外部から大量の資金を得ずとも、既存ビジネスの売上や利益を再投資することで、経営判断における自由度が大きく保てるのが魅力。

スタートアップにありがちな「いつExitするのか」「どのタイミングで投資家にリターンを返すのか」というプレッシャーも比較的少なく、自社のペースで事業づくりを続けられます。

  • 外部圧力の軽減: 投資家に事業方針を左右されにくい
  • 精神的負担の低減: 経営者のビジョンをそのまま追いかけやすい
  • 中長期的な視点での拡大: 一気にジャンプするのではなく、段階的に事業領域を増やすことが可能

精神的な安定がもたらすメリット

外部投資家が絡むと、どうしても「短期的な成果」「高い成長率」が求められがちです。一方で自己資金と利益再投資を軸にすれば、経営者は自分たちのタイミングで新製品や新市場を試せます。これは従業員にも方針ブレが少なく、働きやすい環境として映り、組織の安定やモチベーションにも好影響を与えます。

銀行融資の上手な活用で株主構成を守る

デットファイナンスの利点

ソリッドベンチャーが資金を調達する際、銀行融資(デットファイナンス)の活用は大きな選択肢となります。株式を発行して資金を募る(エクイティファイナンス)方法では、株式の希薄化が進み、最悪の場合は経営権を失うリスクもあります。

一方、銀行融資であれば、決められた期間で返済を行う義務はあるものの、株式構成は変わらず、外部の株主から経営に口を出される度合いも低いのが特徴です。

  • 株式の希薄化を防ぐ: 創業者や経営陣の持ち株比率を維持できる
  • 経営の裁量を保持: 投資家の要望に引きずられず、独自のビジョンを貫きやすい

事例:ストック収益を担保にスケール

安定したストック型ビジネス(例:定額課金のBtoB SaaSサービス)を持つ企業ほど、銀行からの信用度が高まり融資条件も有利になります。実際に、通信系のサービス会社が毎月の契約ベースの売上を担保に社員の採用費やシステム投資に資金を回すなど、銀行借入によって拡大スピードを上げながらも、株式はしっかり守っているケースがあります。

返済計画と金融機関との信頼関係

銀行融資を利用するうえで重要なのは、安定的なキャッシュフローを示すこと。ソリッドベンチャーは初期から少しずつ収益を上げる仕組みを作るため、金融機関との関係も良好になりやすく、金利面や返済期間でも優遇を得られる可能性が高まります。

  • 返済計画の明確化: どの時点でどのくらい返済できるかを具体的に数字で示す
  • 実績データの活用: 既存事業の安定利益を証拠として提示し、銀行とWin-Winの関係を築く

これらをしっかり行うことで、いざ新規事業や組織拡大を図るときにも、無理のない借入金額で済ませられ、経営が圧迫されにくいというメリットがあります。

戦略的パートナー提携で新市場を切り開く

お金以上の相乗効果

ソリッドベンチャーが事業をさらに拡大しようと考えたとき、単に「お金を出してもらう」のではなく戦略的パートナーシップを結ぶケースが増えています。たとえば、大手企業と資本提携を結ぶことで、販路やブランド力、技術力などを共有し合い、新市場への進出をスピーディに進められるのです。

この提携は、投資家との関係というよりは「共同事業者」としての側面が強く、出資額が大きくても経営への過度な干渉を行わない形がとられることも多いです。

共同研究・開発への取り組み

たとえば、AI技術を持つベンチャー企業が、大手インフラ企業と共同でサービス開発に乗り出すケースでは、

  • ベンチャー:斬新なアイデアや専門技術を提供
  • 大手企業:既存の顧客基盤・マーケティングチャネル・ブランド力を提供

という形で互いの強みを掛け合わせ、市場への浸透を早めています。これは一方的な資金の授受だけでは得られない、大きなシナジーを生む方法といえます。

“ハード”דソフト”の相互補完

ソリッドベンチャーは、すでに築いた「堅実な売上」や「顧客ネットワーク」という“ハード”を持っています。一方で、新分野への進出時には、“ソフト”に相当するノウハウや技術が不十分なこともあるでしょう。そこを補うのが戦略的パートナーです。

  • 顧客基盤を共有して一気にサービスを拡販
  • 既存プロダクトに新しい技術や機能を追加

こうした共同開発や共同マーケティングは、ソリッドベンチャーらしい着実さと、パートナー企業のリソースを融合する最適解です。

ソリッドベンチャーが成功するための要点

自分たちが“稼ぐ”構造をまず確立

株式を手放さずに済む資金調達を利用するためには、何より「早期収益を確保できるビジネスモデル」が大前提。最初から大きく成長を目指すより、まずは小さく試して売上を立てられる仕組みを構築し、その後に拡大路線を歩む方がリスクを軽減できます。

計画性のある資金繰りと返済

銀行融資を受ける場合、無理なく返せる見込みを説明できなければ、融資条件は厳しくなるか、そもそも借りられない可能性も。逆に、安定収益モデルを示せば銀行との関係は良好に保ちやすく、「必要なときに必要な額をスムーズに借り入れ」できるようになります。

外部リソースの戦略的活用

単なるお金のやり取りに終わらず、パートナー企業との共同開発顧客基盤の相互利用など、お互いが強みを活かす形で協力関係を築くことが、ソリッドベンチャーの成長を大きく押し上げるポイントです。

具体的な事例から学ぶ“ソリッドな”戦略

C-mind社の「ハード×ソフト」戦略

たとえばC-mind社は、通信代理事業などで地道に顧客を増やしながら、そこで得た「キャッシュフロー(ハード)」を新しいサービス開発(ソフト)に投下してジワジワ新規展開を積み重ねています。これにより、15期連続で増収という堅実な成果をあげることに成功しています。大規模出資に頼らずとも、着実な収益源があれば新規事業への投資リスクも低く抑えられるわけです。

Grand Central社の“セールスコンサル”で実績構築

また、Grand Central社は「セールスコンサルティング」という得意領域に焦点をあて、社員や業務委託メンバーを効率的に活用して黒字経営を続けるモデルを確立。着実に売上を立てながら、その実績と利益をもとに事業規模を拡大している点が特徴的です。結果的に投資家の影響を受けにくい経営が可能となり、セールス力を武器に他の領域にも足を伸ばせる基盤を作っています。

“ソリッドベンチャー”流の資金調達がもたらす未来

自由度と安定性のバランス

ソリッドベンチャーのアプローチ最大のメリットは、「経営の自由度」と「安定的な財務基盤」の両立です。急成長を狙うスタートアップほど派手さはないかもしれませんが、堅実に増収を重ねながら、組織のモチベーションやブランドの信頼をじっくり築ける利点は大きいでしょう。

変化への柔軟対応

大きな外部資金に頼りすぎると、市場変動や投資家の要求による急な方向転換で苦しむこともあります。一方、ソリッドベンチャーは自社キャッシュフローで動けるため、状況に応じて「投資を控える」「新領域にスモールステップで入る」など柔軟な戦略をとりやすいのです。

“地に足の着いた”成長への道

自己資金・利益の再投資・銀行融資・戦略的パートナーシップ──ソリッドベンチャーが駆使するこれらの調達手段は、表面的な華やかさは薄いかもしれません。

しかし、急拡大を狙うスタートアップほどのリスクを負うことなく、堅実かつ自分たちのビジョンを大切にしながら事業を育てていける点が大きな魅力です。

「小さく稼ぐ→利益で再投資→徐々に拡大」を着実に回していければ、投資家へのリターンを意識した無理な成長を強いられることもなく、経営者や従業員が納得のいく形でビジネスを伸ばせます。

特に、初めての起業や高リスクを避けたい方にとって、ソリッドベンチャー式の資金調達戦略は、長期的に安定しながら企業価値を高めるうえで有力な道筋となるでしょう。

リスクと自由度のバランスを取りながら、堅牢な基盤を作り上げていく──それこそが、ソリッドベンチャーの真髄と言えます。しょうか。

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