あえてユニコーンを目指さないソリッドベンチャーの可能性

公開日:2024.11.15

更新日:2025.3.26

筆者:エンジェルラウンド株式会社 大越匠

急激な成長によって巨額の企業価値を得るユニコーン企業は、多くのメディアで注目の的となっています。しかし、すべてのビジネスがユニコーンを目指す必要は本当にあるのでしょうか。むしろ、安定した収益を確保しながら長期的に社会のニーズに応え、起業家自身のペースを保ってビジネスを伸ばしていく「ソリッドベンチャー」の在り方も、いま改めて注目を集めています。ソリッドベンチャーは、大規模な外部調達や短期的な評価額の上昇を追いかけるのではなく、安定収益と社会への貢献を重視するのが特徴です。過度な投資家プレッシャーから解放され、長期的なブランド価値の向上や顧客との信頼構築にじっくり取り組める点こそ、ソリッドベンチャーの醍醐味だといえるでしょう。本記事では、そんな「ユニコーンではなくソリッドベンチャーを選ぶ」企業の魅力やメリットを詳しく解説します。

ハイライト

  • 安定収益×自己資金ベースで“過剰な投資家プレッシャー”を最小化できる
  • 社会貢献やブランド価値を重視し、長期で信頼を積み重ねる経営が可能になる
  • “自分のペース”で堅実に成長し、リスク分散を図りながら持続可能なビジネスを築ける

なぜ“ユニコーン至上主義”でなくてもいいのか?

ユニコーン企業とは、起業から短期間で企業価値10億ドル以上を達成したスタートアップを指します。華々しいニュースで取り上げられ、巨額調達とともに「一気に市場を制覇する」というイメージが付きまといますが、その裏には投資家の高いリターン期待熾烈な競争が潜んでいます。

  • 投資家の意向に振り回されやすい
  • 成長戦略に余裕がなく、理念が揺らぎがち
  • 市場環境の変化や資金繰りの悪化で崩壊リスクも大

一方、ソリッドベンチャーは「まずは自走力のあるビジネスモデルを固める」ことに専念し、外部からの資金調達よりも自己資金や営業利益での拡大を目指すパターンが多いです。

大きく短期で跳ねなくても、確かなニーズに支えられた利益を積み重ね、長期的に社会に根付いていくアプローチが可能となります。

安定収益の強みと精神的メリット

経営者の視界がクリアに

投資家からの早期リターン要求が強いと、四半期ごとに数字を追いかけることに疲弊し、ビジョンや理念が後回しになりがちです。しかし、ソリッドベンチャーで安定収益が確保されていれば、日々の資金繰りや極端なプレッシャーに悩むことが少なくなるので、腰を据えた戦略立案がしやすくなります。

自己資金での投資がしやすい

安定したキャッシュフローを回せていれば、追加の事業投資を自己資金から行うことも可能です。投資家との折衝に時間や労力を取られることなく、スピーディに新規事業を試せるのもメリットの一つです。

  • 事例:C-mind社
    C-mind社は通信代理店事業で着実にキャッシュを稼ぎ、そこから新規事業へ“ジワ新規”で投資を続けることで、外部からの過度な要求を受けることなく自分たちのペースで領域を拡大しています。通信以外にも「定額制レンタルプリンター」など複数事業を展開し、キャッシュカウ事業で創出した利益を新サービスに投下してきました。このように、安定的な収益を基盤にしているからこそ、大きくぶれずに成長を続けられるのです。

社会貢献とブランド価値を重視する持続可能なモデル

利益と社会的意義の両立

ユニコーン企業はどうしても評価額を高めることが中心になりがちですが、ソリッドベンチャーは目先の株価より、社会的意義や長期的な信頼醸成を重視する傾向があります。

  • 地域社会への貢献(地元での雇用創出、地域経済の活性化など)
  • 環境への配慮(サプライチェーンの効率化、CO2削減など)
  • 従業員への投資(人材育成、働きやすい組織づくり)

これらの取り組みが企業ブランドをじわじわと高め、ステークホルダー(顧客・社員・地域社会)との関係を強固にします。

長期にわたる信頼の積み重ね

堅実に稼ぐ仕組みは、経営のブレを小さくし、社会からの支持を継続的に得やすい構造を作ります。仮に大きく派手な数字ではないとしても、日々の積み重ねによる口コミや顧客満足度が、企業の姿勢を裏付ける大きな資産となるでしょう。

投資家プレッシャーからの解放とブランド力アップ

ユニコーン企業の背景には、当然ながら多額の資金を出している投資家の強いリターン期待があります。IPOやM&Aのタイミングがいつになるか、何倍のバリュエーションを実現するか、といった短期視点のプレッシャーを常に感じながら走ることになるのです。

一方でソリッドベンチャーは、初期から売上と利益を生む形を重視し、投資家からの要求を最小限に抑えられます。

  • 自社の理念やカルチャーを守りやすい
  • 競争軸を“顧客満足”や“社会課題解決”に置きやすい
  • 長期的なブランドづくりに専念できる

社会や顧客との対話を大事にしながら、ぶれない姿勢で品質向上やサービス改善に取り組むことで、ブランド力をじわじわと高められるのです。

リスク低減の視点で見る「ソリッドな道」

大規模外部投資に依存しない

大きな投資を受けるほど、急激な規模拡大とセットになりがちです。その過程で内部プロセスや組織体制が追いつかなければ、人材流出やサービス品質の低下につながります。ソリッドベンチャーであれば、自分たちが扱える規模から無理なく拡大できるため、成長痛を最小化できます。

組織文化と人材育成に注力しやすい

成長スピードをコントロールできるため、企業文化の醸成や人材育成にも注力しやすく、社員のロイヤルティを高めやすい点は見逃せません。

「急いで人を増やした結果、社員同士の連携が不十分」という事態が起こりにくく、社内のまとまりと顧客満足度の両方を高水準で維持できます。

実際に増えているソリッドベンチャーの事例

C-mind社の「ジワ新規」アプローチ

先述のC-mind社は、通信の代理店事業で着実に収益を作った後、プリンターの定額制レンタル事業や求人スーツの無料レンタルサービス「カリクル」など、少しずつ新規事業を立ち上げるやり方で成功を収めています。

このアプローチは、多額の資金調達に頼らずとも「キャッシュカウ事業」の利益を積み立てながら余裕を持って新しいサービスを育て、過剰リスクを負わずに安定的な拡大を図るソリッドベンチャーの好例といえます。

(他の事例も多数ありますが、本記事ではC-mind社を取り上げています。詳しくは文末の参考リンクなどをご覧ください。)

ユニコーンを目指すか、ソリッドベンチャーとして進むか

「急成長 × ユニコーン」という華やかな選択肢もあれば、「安定収益 × 持続可能な経営」を優先するソリッドベンチャーという選択肢もあります。どちらが優れているという話ではなく、企業家の志向やビジネスの特性に合った成長モデルを選ぶことが大事です。

  • ユニコーン型
    • ハイリスク・ハイリターン
    • 短期で大きく市場を取りにいく
    • 投資家の存在感が大きく、舵取りが難しい
  • ソリッドベンチャー型
    • 安定収益+社会貢献+緩やかな成長
    • 自己資金での投資もしやすい
    • 長期的な顧客・社会との信頼関係を築く

自分のペースで挑戦できる、もう一つの王道

無理なく、ぶれずに、少しずつ積み上げる経営スタイルこそ、ソリッドベンチャーが持つ最大の強みかもしれません。大きな「花火」のような急上昇は無いかもしれないけれど、企業としての信頼と安定は厚くなる一方です。

起業家の視点に立てば、「自分が本当に作りたい世界観」や「社会が本当に求めている価値」を大事にしながら、しっかりと利益も出せる——そんな経営スタイルが選べるのは、ソリッドベンチャーならではの醍醐味でしょう。

今後も“ユニコーン一辺倒”でなく、「ソリッドで堅実な会社づくり」に光が当たる動きは広がっていくはずです。自分らしいペースでリスクをコントロールしながら社会に必要とされるビジネスを築くという選択肢を、ぜひ考えてみてはいかがでしょうか。

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