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あえてユニコーンを目指さないソリッドベンチャーの可能性
公開日:2024.11.15
更新日:2025.1.8
筆者:エンジェルラウンド株式会社 大越匠

ハイライト
- 過剰な投資家プレッシャーから解放され、安定収益で着実な成長を実現できる。
- 社会的貢献やブランド価値の向上を重視し、長期的に信頼を獲得し続ける。
- 自己資金や収益を基盤にすることで、自分のペースでリスク分散を図りながら拡大できる。
急激に成長して莫大な企業価値を得る「ユニコーン企業」は、メディアで注目を浴びる存在です。しかし、実際には全てのビジネスがユニコーンを目指す必要はありません。むしろ安定した収益を確保し、投資家からの過度なプレッシャーに振り回されない経営を選ぶことで、起業家自身のペースを守りつつ持続的な成長を築けるケースも多いのです。さらに、社会貢献を意識しながら堅実に利益を生み出すことで、長期的なブランド価値や顧客との信頼関係を強固にすることができます。本記事では、ユニコーンを追わない「ソリッドベンチャー」の考え方や、そのメリットを解説します。
なぜユニコーンを追わないのか?
ユニコーン企業とは、急成長によって短期間で10億ドル以上の企業価値を持つスタートアップを指します。華々しい評価額や豊富な資金調達実績に目を奪われる一方で、その成長過程には大きなリスクが伴います。
たとえば投資家の要求に応えなければならず、 「とにかく急いで拡大する」 という圧力にさらされることもしばしばです。
一方、ソリッドベンチャーは 「まず堅実な収益を生み出すビジネスモデルを築く」 という姿勢を重視します。急激に規模を拡大するのではなく、安定的なキャッシュフローを確保しながら着実に成長を重ねるため、投資家の過剰な期待やプレッシャーに煩わされる心配が比較的少ないのです。
結果として、起業家はビジネスの方向性を自分の価値観やペースに合わせて調整でき、長期的な視点で運営を進められます。
安定収益がもたらすメリット
経営者の精神的負担を軽減
安定した収益があると、毎月の資金繰りに追われる心配が減り、経営者は腰を据えて今後の戦略を考えることができます。短期的な資金不足で焦る必要がないため、余裕を持った判断が可能になり、社員の教育やサービス品質の維持など、 「長い目で企業価値を高める施策」 に注力しやすくなります。
自己資本での運営が可能
外部資金を多額に導入すると、どうしても投資家の利益を最優先にせざるを得なくなりがちです。ソリッドベンチャーでは、安定した利益を投資に回せるため、 「経営の主導権を失わない」 というメリットがあります。自分たちが理想とするビジョンを大切にしながら事業を発展させられる点は、起業家にとって大きな魅力です。
社会貢献を重視する持続可能なモデル
ユニコーンを目指す企業は、しばしば株価や評価額を高めることが最優先課題となります。しかし、ソリッドベンチャーは 「利益の追求と社会的意義の両立」 をより重視し、長期的な視野でのビジネス展開を行います。
具体的には、地元経済の活性化や雇用創出、環境負荷の軽減といった取り組みを進めながら、企業ブランドの信頼度をじわじわ高めていくアプローチが考えられます。
事例:日本M&Aセンター
1991年創業の日本M&Aセンターは、後継者不足の中小企業を大手企業につなぐサービスを展開し、社会課題の解決に貢献してきました。大々的な資金調達や派手なマーケティングで急成長を目指すというより、手堅いコンサルティング収益を積み上げながら、M&A支援の専門性を強みに事業規模を拡大してきたのが特徴です。
その結果、顧客や地域社会からの信頼を獲得し、持続可能かつ堅実な成長を遂げています。
このように、 安定した収益基盤 をベースに、社会的意義のあるサービスを提供することで、ステークホルダー(顧客、従業員、地域社会)からの支持を得やすくなります。
数字の上での派手な伸びではなく、長期にわたって社会に根差す企業であることが、ソリッドベンチャーの大きな強みといえるでしょう。
投資家プレッシャーを回避し、ブランド価値を高める
ユニコーン企業は莫大な資金を集め、競合他社を一気に引き離す力を得る一方で、その背後には投資家の高いリターン要求が存在します。 「いつIPO(株式公開)するのか」 「どれだけ早く利益を出すのか」など、短期的に成果を出すことを強いられがちです。
すると、経営判断がどうしても 「短期利益優先」 になってしまい、企業としての理念や社会的責任がなおざりになる危険性もあります。
ソリッドベンチャーでは、こうした投資家からの急かしや厳しい要求を最小限に抑えられるため、 「自分たちが大切にしたい価値観をぶらさずに経営」 できるのが強みです。
安定的に稼ぐ仕組みがあれば、厳しい期限やノルマに追われることなく、質の高い商品やサービスの開発に集中できます。さらに、この姿勢は社会との信頼関係を築きやすく、結果として長期的なブランド力を育む助けともなります。
長期的な視点で見るソリッドな道
ユニコーンという華やかな目標がもたらすインパクトは確かに大きいものの、そこに至るまでの過程では大量の資金調達やプレッシャー、そして不確実性が伴います。
一方でソリッドベンチャーは、 「安定収益+社会貢献+緩やかな成長」 という組み合わせによって、起業家の負担と企業リスクを下げるアプローチを選択します。
これにより、周囲の期待を必要以上に背負わず、自らの理念を軸に計画的な事業展開が可能となるのです。
- リスク管理がしやすい
大規模な外部投資に依存しないため、経営判断を冷静に行える。 - 企業文化と人材育成がスムーズ
成長のペースをコントロールできるので、組織づくりや社員教育に丁寧に取り組める。 - 社会からの信頼を獲得しやすい
利益重視だけでなく、社会的価値の創造を大切にすることでブランドイメージを向上させる。
このような特徴が、ソリッドベンチャーの長期的な安定につながっていくのです。大きな花火のような短期的爆発力はないかもしれませんが、 「無理なく、ぶれずに、少しずつ積み上げる」 姿勢こそが最終的に大きな成果へ導く一つの王道かもしれません。
成長の選択肢は一つではありません。
ユニコーンを追うスタートアップも魅力的ですが、あらゆる企業が同じ道を目指す必要はないのです。安定した収益基盤や社会貢献を意識した経営こそ、自分たちのビジョンを大切にしながら企業価値を高めたいと考える起業家にとって、 「もっとも自分らしく挑戦できる選択肢」 となり得るでしょう。
ユニコーンを目指すか否か――この問いに対して、ソリッドベンチャーという堅実な道があることを、改めて意識してみてはいかがでしょうか。