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高リスクの起業を避ける?ソリッドベンチャーがもたらす現実的な未来
公開日:2024.10.21
更新日:2025.4.16
筆者:エンジェルラウンド株式会社 大越匠

スタートアップのような一発勝負の“高リスク”を避け、着実に安定収益を築きながら堅実に拡大する――それが「ソリッドベンチャー」の考え方です。急成長を狙う起業には大きな魅力がある一方、高い失敗率や精神的負担もつきまとうのが現実。本記事では、利益重視でリスクを抑えつつ、投資家や金融機関にも評価されるソリッドベンチャーの特徴と、そのもたらす“現実的な未来”を解説します。
ハイライト
- ソリッドベンチャーは初期から安定収益を重視し、経済的リスクを抑えた形で成長を目指す。
- 利益重視の経営により自己資金を確保し、外部プレッシャーに左右されない自由な意思決定が可能。
- 投資家や金融機関からも堅実な投資先として注目され、長期的な成長を見越した資金調達が比較的容易。
高リスク起業がもたらす負担とは

「高リスクの起業」というと、多額の資金を投じて短期間でシェアを奪い取る“スタートアップ”を思い浮かべる方も多いでしょう。たしかに、革新的な技術やアイデアを武器に、競合を押しのけて急拡大を狙うスタートアップには大きな魅力があります。しかし、その裏には高い確率での失敗リスク、そして想像を超える精神的・経済的な負担が伴うのも事実です。
- 資金調達のプレッシャー
VCなどの投資家を巻き込むと、短期間での成果や大幅な成長が求められがちで、経営者には大きな重圧がかかる。 - 市場への不確実性
斬新なサービスや技術が期待通りに受け入れられなければ、あっという間に資金難に陥ってしまう。 - 初めての起業家にとって過酷
経験値が少ないうちから巨大なリスクに挑むため、精神的に追い詰められるケースが多い。
こうした背景から、近年では「スタートアップ一択」ではなく、より現実的なリスクバランスを重視した起業モデルに注目が集まっています。その代表格が“ソリッドベンチャー”です。
ソリッドベンチャーとは?――堅実に基盤を築く起業モデル
ソリッドベンチャーとは、初期段階から安定した収益を重視し、無理のないペースで成長を図るビジネスモデルを指します。派手な爆発的スケールこそ狙わないものの、着実に利益を積み上げていくため、リスク管理がしやすく、経営者も精神的な余裕を持ちやすいのが特徴です。
リスクを抑えた“現実的な挑戦”
スタートアップのように「短期間で爆伸びしないといけない」という追い込みがないぶん、失敗しても軌道修正がしやすいのが大きなメリットです。ソリッドベンチャーは段階的にテストを繰り返しながら事業を伸ばすため、全資金を一気に失うリスクも相対的に低く抑えられます。
- 安定収益を先に確保
たとえば既存技術の受託開発でしっかりキャッシュフローを作り、その後に独自サービスの開発へ投資。 - 段階的な成長戦略
まずは小規模な検証で顧客ニーズを確かめ、上手くいけば投下資金や人員を増やす形で拡大する。
精神的な安心感と挑戦の両立
初期から安定収益を生むことで、経営者自身が慢性的な資金プレッシャーに追われにくくなります。その結果、新しい挑戦をするタイミングも自由度が高まり、「やりたいができない」状況を回避しやすいのです。
たとえばボードルア社は、ITインフラ事業で安定した売上を確保しながら、新規領域やM&Aも積極的に展開。十分な“土台”があるからこそ、リスクをとった新事業にも冷静に挑める――これこそソリッドベンチャーの醍醐味と言えます。
事業利益への正しい理解――経済的自立の鍵

「利益を出す」というのはビジネスの根幹でありながら、「まだ利益なんて必要ない」「先に成長を優先すべき」といった認識も根強く残っています。もちろん、短期間で急拡大を目指すスタートアップでは、利益よりユーザー数や市場シェアが優先されるケースもあるでしょう。
しかし、ソリッドベンチャーは利益を出すことこそが経営の安定と自立を実現する鍵と位置づけます。早期に黒字化し、自己資本を厚くすることで、外部の投資家や金融機関の意向に縛られずに済む利点があるのです。
自己資金経営の強み
- 経営の自由度
潤沢な自己資金があれば、外部からの急なリターン要求に振り回されにくい。 - 持続的な開発・人材投資
利益から再投資できるため、焦らずに質の高いプロダクトやサービス、組織づくりに取り組める。
安定したキャッシュフローが生む好循環
黒字経営を達成すれば、次の新規事業や追加投資への道が開けます。例えばSpeee社のように、既存事業で得た利益を起点に別事業へとジワジワ広げていくと、全社的なポートフォリオが強固になり、経営リスクの分散にもつながるのです。
投資家・金融機関から見たソリッドベンチャーの魅力
スタートアップが華々しく注目される一方で、投資家や金融機関は「堅実にリターンを期待できる企業」を探し続けています。ソリッドベンチャーは、初期から安定収益を上げる構造を持つため、その分だけ投資リスクが低いと評価されることが少なくありません。
高い失敗率を嫌う投資家へのアプローチ
VCなどはハイリスク・ハイリターンを好む傾向がありますが、すべての投資家がそれを望んでいるわけではありません。定期的に配当や安定成長を見込めるビジネスへの投資を好む層も存在します。ソリッドベンチャーはまさにそうした投資家のニーズに合致するのです。
- 安定感のあるビジネスモデル
事業の立ち上げ期から利益が出ている場合、資金の追加投入も判断しやすい。 - 柔軟なキャピタル戦略
高い利益率を維持しつつ、必要に応じてM&Aやプロダクト拡充に資金を使える点が評価される。
金融機関にとっての“安全資産”
銀行などの金融機関は、貸し倒れリスクを嫌うため、確度の高いビジネスプランを求めます。ソリッドベンチャーの安定収益モデルや明確な事業計画は、融資を引き出しやすい要素となるのです。たとえば、INTLOOP社のように複数の柱を作り着実に拡大している企業は、財務面での信頼度が高く、金融機関からの調達もスムーズに行われています。
具体的事例が示すソリッドベンチャーの可能性

ここでは、ソリッドベンチャーとして特徴的な動きを見せる企業事例をいくつか取り上げます。これらの企業はいずれも「まず安定収益を作る → その利益を新たな事業やM&Aに再投資 → 継続的にスケール」の流れを確立しています。
- ボードルア社
ITインフラ領域で着実に顧客深耕しつつ、得た利益を人材育成と新規M&Aに投資。結果として大きく飛躍。 - コアコンセプト・テクノロジー社
製造業向けのITコンサルで地盤を固め、独自プロダクト「Orizuru」の開発や1次請け案件へ拡大を実現。
両社ともに「ソリッドベンチャー的アプローチで成功を収めている」好例であり、安定感と成長意欲を巧みに両立していることが窺えます。
これからの起業でソリッドベンチャーを選ぶ理由
- 精神的な安定
いきなり高額な投資を受けずに済むため、経営者が大きなプレッシャーに追い詰められにくい。 - 安定と挑戦の両立
既存事業で得た黒字をもとに、新しい領域やM&Aなどにチャレンジしやすい。 - 投資家・金融機関からの評価
リスクコントロールがしやすいビジネスモデルは、長期的なリターンを重視する投資家や金融機関にとって魅力的。
もし、スタートアップのような急成長の“刺激”だけを求めるのであれば、ソリッドベンチャーは物足りないかもしれません。しかし、経営者自身が持続的かつ安定した成長を志向するのであれば、ソリッドベンチャーという選択肢は十分に検討の価値があります。
「ソリッドベンチャー型」起業へのステップ

ソリッドベンチャーを目指すうえで、特に意識しておきたいポイントを整理します。
- 安定収益事業を先に育てる
需要の確実性が高い領域で顧客を獲得し、まずはキャッシュフローの基盤を築く。 - 利益を自社投資に回す
得た利益で人材確保や新規サービスの研究開発に投資。負担にならない範囲で拡大を図る。 - 段階的なサービス拡充
市場や顧客の反応を見つつ、新規サービスやM&Aを検討。大きな投資判断は小規模な実証を経てから行う。 - 金融機関や投資家とのコミュニケーション
財務状況や将来計画を丁寧に説明し、安定感のあるビジネスモデルとしての認知を得る。
このプロセスを踏むことで、無理のない速度でビジネスを成長させながら、急変する市場環境にも柔軟に対応できる体制を作り上げることができます。
ソリッドベンチャーという結論
高リスクに挑むスタートアップも大きな魅力を持っていますが、それがすべての起業家にとってベストな道ではありません。ソリッドベンチャーという選択肢は、安定感と挑戦のバランスをうまく取りながら、長期的な企業成長と経営者の精神的安定を両立させる“現実的な未来”を提示します。
「起業したいけれど、大きなリスクを負うのは怖い」「まずはしっかり利益を出してから本格的に攻めたい」――そんな声に応えるソリッドベンチャーの道は、これからのビジネスシーンにおいて、より多くの人にとって有力な選択肢となっていくでしょう。
いままさに一歩を踏み出そうとしている起業家や、新たな経営スタイルを模索している方には、ぜひこのソリッドベンチャーの考え方を取り入れてみてください。リスクを最小化しながら夢を実現する、現実的かつ堅実なルートがあなたを待っています。