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後発参入でも勝てるのか?ソリッドベンチャー式“追い風”のつかみ方
公開日:2024.12.25
更新日:2025.1.7
筆者:エンジェルラウンド株式会社 大越匠
後発で参入した企業が、すでに先行企業や大手が存在する競争の激しい市場で勝ち残れるのか――この問いに対して、いま着実な成功例を増やしているのがソリッドベンチャーという企業形態です。大きな資金調達や短期的な急拡大を求めず、堅実にキャッシュフローを回しながら地道に拡大するからこそ、後発でも十分に独自のポジションを築ける可能性があります。本記事では、なぜソリッドベンチャーが後発参入でも“追い風”をつかめるのか、その背景や成功事例、さらに実践ステップまで詳しく解説します。
ハイライト
- すでに大手が確立した市場でも、ソリッドベンチャーならばニッチや細分化された領域で独自性を打ち出し、後発参入のデメリットを補える。
- 地道なキャッシュフロー運営と“ジワ新規”展開により、短期勝負を避けつつ長期的にシェアを拡大する戦略が後発からの台頭を可能にする。
- 顧客の細かな要望を丁寧に拾い上げる“きめ細かいサポート”こそ、大手が弱い部分になりやすく、後発ソリッドベンチャーの成長エンジンになる。
後発参入が注目される理由とソリッドベンチャーの視点
後発参入のメリットとデメリット
後発で市場に入り込むとき、メリットとデメリットが常に表裏一体となります。メリットとして、先行企業がある程度市場やユーザーの認知を育ててくれているため、初期段階の啓蒙コストやマーケットを“ゼロから”作る負担が軽減されやすいのです。
また、大手企業が広く押さえている分野の“すき間”や“取りこぼし客層”が後発組にとっては魅力的なセグメントになります。
一方で、すでにネームバリューや大規模広告でアドバンテージを築いた先行企業と真っ向勝負することになりかねない点がデメリットです。
特に圧倒的資金力やブランド力を持つ競合がいると、価格・機能面での差別化が難しくなる場合もあります。そこでカギとなるのが、「大手が苦手とするニッチを狙うこと」と「きめ細かい対応で差別化を図ること」です。
ソリッドベンチャーが“追い風”を活かす背景
ソリッドベンチャーは、短期的なハイリスク投資よりも、手堅い利益体質の構築を優先して事業を拡大する企業を指します。ベンチャーキャピタル(VC)からの多額の資金調達や派手なキャンペーンを行うのではなく、地道に顧客を獲得しながら再投資を行うため、リスクを最小化しつつ安定成長が見込めるのです。
市場が成熟しているほど、既存の顧客が抱える未解決ニーズや細分化された要望は大きくなります。先行企業がカバーしきれていない部分を丁寧に拾い上げることで、後発企業でも充分に競争力を発揮できるのが、ソリッドベンチャーにとっての“追い風”となるわけです。
事例に見る後発参入のパターン
自社キャッシュフローで着実に成長した“TWO STONE & SONS社”
TWO STONE & SONS社(上場企業)は、当初は受託開発を主軸に安定キャッシュフローを得ていましたが、それを足場としてエンジニアマッチングプラットフォームやメディア運営など新たな事業に参入。後発で参入したプラットフォーム事業は、すでに大手企業も進出している領域でしたが、
- “受託開発×既存顧客との深い信頼” を活かして最初のユーザーを獲得
- 大手が提供しづらい“密着型サポート”や“ニッチな機能”を強みとする
ことで着実にシェアを伸ばしました。派手なマーケティングを行うわけでもなく、黒字を保ちながら新規サービスを拡張し続けた点こそ、ソリッドベンチャーらしさです。
後発でも業界特化で顧客を取り込んだ“GENOVA社”
医療機関向けのウェブ制作・DX支援を行うGENOVA社も、後発ながらバーティカルメディアや精算機など周辺ビジネスへの展開を成功させた例として注目されます。すでに大手の代理店やメディアが医療業界に参入していたものの、GENOVA社は以下の戦略を徹底したことで差別化に成功:
- 医療業界に特化した独自のノウハウを形成(他業界には転用しづらい機能を実装)
- きめ細やかな対面サポートと、現場の要望をすばやく反映する改善サイクル
- 徐々に精算機など新規領域へ拡大しつつ、メディア運営で相乗効果を狙う
大手が包括的に狙う医療市場の中で、より深い領域特化を進めることで信頼を勝ち取り、後発組でも着実に顧客数と売上を伸ばしました。
ソリッドベンチャーが追い風をつかむ3つのポイント
1. 隣接領域へのジワ新規展開
ソリッドベンチャーらしい特徴は、既存事業とシナジーのある周辺領域から徐々に事業を拡張することです。一気に巨大市場へ真っ向勝負するのではなく、
- まずはメイン事業で黒字を確保
- 同じ顧客や類似セグメントで必要とされる新サービスを少しずつ開発
- 既存顧客の追加発注や口コミをベースに無理なく拡張
という流れが典型的です。いわゆる“ジワ新規”の拡大戦略により、大量のマーケ費用を投下せずともユーザー獲得が進み、後発でも大手に対抗しうる“囲い込み”を構築しやすくなります。
2. 既存市場の隙間ニーズを狙う
成熟した市場には、大手がフォーカスしない細分化された要望や特殊な業務フローを必要とする顧客が意外と多いものです。例えば、
- 大きなカスタマイズ要望だと大手が嫌がる
- 少人数事業者向けは単価が低いため、切り捨てられている
- 地域特化のサポートに対応していない
こうした“隙間ニーズ”を着実に拾い上げるのが、後発ソリッドベンチャーの強みです。大手は効率性重視で取りこぼす小規模案件が、ソリッドベンチャーにとっては大きなリピーターとファンベースを生む源泉になります。
3. 顧客との長期的な関係づくり
ソリッドベンチャーは短期的に急成長を目指すスタートアップモデルとは異なり、顧客を長く支えていくビジネスを重視しがちです。
後発でも大手に負けないほどの密着度の高いサポートや柔軟なカスタム対応によって、顧客に「あちらよりこちらのほうがずっと頼りになる」と思ってもらえれば、継続契約と口コミ誘発が期待できます。
ここで形成されたロイヤル顧客層は、大手のトップダウン的なマーケティングでは到達しづらい、地道かつ強固な“ファンコミュニティ”を生み出します。
後発参入を成功させるための実践ステップ
ステップ1:競合のギャップを徹底調査
後発で入り込む際は、先行企業や大手のビジネスモデル・ターゲット層・サービスラインナップを丹念に調べ、自社が“狙うべき隙間”を洗い出すことが第一歩です。大手が落としている顧客段階や機能、サポート体制の薄い部分こそ、自社が付加価値を出しやすい領域になり得ます。
ステップ2:少人数からでも利益を回す収益モデルの構築
大きな投資や赤字覚悟のキャンペーンが難しいソリッドベンチャーでは、利益確保しながら事業を拡大するスキームづくりが不可欠です。最初は少人数でサポートしやすい顧客群を絞り込み、そこで確実なキャッシュフローを得てから、新規領域に再投資する流れを回していけば、後発参入のリスクを低減できます。
ステップ3:継続的な顧客コミュニケーションと改善
後発で顧客を獲得し続けるには、フィードバックの取り込みスピードが何より大切です。リリースしたサービスや機能への要望を真摯に受け止め、短いスパンで改善を積み重ねることで「大手よりも動きが早い」「要望がすぐ反映される」という評判を獲得できます。後発だからこそ、柔軟で小回りの効く意思決定が大きな武器になるのです。
ステップ4:必要に応じたM&Aや業務提携
ソリッドベンチャーとしての地盤が固まってきたら、M&Aや業務提携を通じて一段上の成長を狙うのも選択肢の一つ。既存顧客の満足度を保ちながら、自社の弱い領域や未開拓セグメントをカバーするパートナー企業を見つけることで、後発参入ながら“垂直・水平拡張”を同時に進めることができます。
後発が活きる市場でソリッドベンチャーが生む価値
後発組は一見不利に思われがちですが、市場が成熟するほど大手が拾いきれない細分化されたニーズが存在し、ソリッドベンチャーこそそこに大きなチャンスを見出せます。
大規模な広告戦略や投資合戦ではなく、黒字を出し続ける安定経営と“ニッチへの深耕”を組み合わせることで、“追い風”をしっかりとつかむわけです。
成熟度の高い市場であればあるほど、後発ベンチャーは隠れた課題や局所的な要望を武器にリピート顧客を育て、長期にわたる利益を得やすいといえます。
ソリッドベンチャー特有の“地道な拡張”は、どれほど派手なキャンペーンをしなくても、結果的に盤石な顧客基盤とブランド支持を生みだすのです。
今後、さらに多くの業界でソリッドベンチャーが後発から参入し、差別化に成功する例が増えていくでしょう。大手が生み出した市場の枠組みや顧客認知を賢く活かし、地道な収益拡大と密着型のサービス改善でファンを獲得する――まさにソリッドベンチャーならではの強さが、これからもあらゆる後発企業の成功を後押ししていくに違いありません。