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ソリッドベンチャーとスタートアップ、それぞれの道をどう選ぶ?
公開日:2024.11.18
更新日:2025.3.28
筆者:エンジェルラウンド株式会社 大越匠

起業の世界では、成長を「一気に加速させるスタートアップ」と「着実に積み上げるソリッドベンチャー」が好対照です。前者はハイリスク・ハイリターンを狙い、大胆な投資や変革を伴う一方、後者は安定収益を築きながら、緩やかに新市場へ進出するのが特徴です。資金調達の選び方から組織文化、日々の働き方まですべてに影響が及ぶため、「どちらを選ぶか」はビジネスの将来像を左右する重要な分岐点。そこで本記事では、両者の相違点を掘り下げながら、自分に合った成長モデルを考える手がかりを提供します。
ハイライト
- ソリッドベンチャーは早期の安定収益を重視し、長期的なリスク回避と持続的成長を狙う。
- スタートアップは急成長を求め、VCなどの外部資金と大胆な意思決定でマーケットを一気に拡大。
- 両者の違いは資金調達や組織文化まで波及し、自社のビジョンやリスク許容度で最適解が変わる。
急成長か安定拡大か?――スタートアップとソリッドベンチャーの基本像
スタートアップとソリッドベンチャーを比べる際、最も分かりやすい対比となるのが成長速度とアプローチです。
- スタートアップは、新しい技術や革新的なアイデアを武器に、短期間で市場シェアを獲得しようと試みます。大きなリターンが得られる可能性がある一方、ハイリスクであり、投資家の高い期待に応えるためにスピード感ある意思決定を迫られます。
- ソリッドベンチャーは、まずは着実な収益基盤を作り、そこから少しずつ事業を拡大していくのが特徴です。大きくジャンプするよりも、毎期の安定収益を積み重ねることで経営を安定させ、長期的視点で新たな事業やサービスを育てます。
両者は「どちらが優れているか」ではなく、事業の狙いとリスク許容度の違いから生まれる選択肢と言えます。爆発的な成長でユニコーン企業を目指すか、それとも堅実な姿勢で長く信頼を積み上げながら規模を拡大するか。
いずれを選ぶにせよ、ビジネスモデルや市場条件を理解した上で、自分たちの強みを最適に活かすことが重要です。
資金調達の違い――“一気呵成”か“積み上げ”か
スタートアップ流:外部資本で一気に進める
スタートアップは、VC(ベンチャーキャピタル)やエンジェル投資家から大きな出資を受けることで急速な成長を狙います。
- 市場参入時に大きく広告費を投下し、一気にユーザー数を増やす
- 競合を引き離すために先行投資を積極的に行う
- 投資家からの“ハイリターン”への期待が大きく、プレッシャーも相応に強い
このアプローチは、「当たれば大きいが、失敗すれば短期間で撤退」というハイリスク・ハイリターン構造になりがちです。また、投資家の要求に応えなければならないため、経営判断に投資家の意向が色濃く反映されることも多いでしょう。
ソリッドベンチャー流:自己資本と収益再投資
一方、ソリッドベンチャーは外部資金への依存度を低くし、自己資金や既存事業の営業利益を再投資して拡大していきます。
- 早期から安定収益(サブスク、コンサルティング、受託など)を生むモデルを作る
- その利益を新規プロダクトや周辺事業に回して少しずつ範囲を広げる
- 失敗しても既存事業の利益でカバーできるため、大きな痛手を負いづらい
この堅実な姿勢によって、経営者は投資家の厳しい要求に縛られず、自社のペースを貫きやすいのがメリットです。短期的な株主利益よりも長期的なビジョンを大切にする社風が生まれやすく、組織全体が安定した雰囲気を得られます。
組織文化と意思決定――二つの成長スタイルがもたらす社内環境
3-1. スタートアップのスピード感と変化への柔軟性
スタートアップは常に市場の動きを注視し、場合によっては短期間で製品コンセプトやビジネスモデルを切り替えることも。そのため組織文化は次のような特徴を持ちやすいです。
- トップダウンの迅速な決定: 社長や創業メンバーの発想が即反映される
- フラットな組織: 階層を少なくし、誰でもアイデアを出しやすい
- 試行錯誤の繰り返し: “リーンスタートアップ”の考え方でプロダクトを素早く改善
しかし、急拡大する過程でヒト・モノ・カネの管理が追いつかず、内部体制の整備が後手に回るリスクもあります。採用や教育が追いつかず、優秀な人材の離脱につながるケースも否定できません。
ソリッドベンチャーの安定感と段階的拡張
対してソリッドベンチャーは、堅実な収益源を基盤に「少しずつ新規領域を開拓する」方式が主流。
- “ジワ新規”の発想: 周辺領域に踏み出して既存顧客の課題に答えながら新事業を育てる
- 徐々に組織を拡大: 社員の育成や内部ルールを整備しつつリスクを管理
- 継続的な人材定着: 安定した事業環境が中長期のキャリア形成を後押し
このスタイルは、ときに「スピード感が足りない」と批判される面もありますが、裏を返せば“一発勝負”の不確実性を最小化できるともいえます。社内が落ち着いている分、新しい挑戦が失敗に終わっても再挑戦の余力が残りやすいのです。
実例から学ぶソリッドベンチャーの安定力
レイスグループ社の“ジワ新規”モデル
レイスグループ社は、HR領域で安定収益を得つつ、そこから周辺ビジネスを段階的に開拓してきた好例です。
- 始めはコア事業で利益を稼ぎ、その余剰を新サービスに投下
- 低リスクかつ既存顧客とのシナジーを活かして成長
- 事業ポートフォリオが増えたことで景気や市場変動にも強い体制を構築
この手法では、仮に新事業が期待どおりに育たなくても、コア事業の利益が経営を支えてくれるため“倒れるリスク”を大幅に下げられます。
ボードルア社の安定収益を軸にしたITコンサル展開
ボードルア社(ITインフラ・SESなど)も同様に、初期から安定したSES収益を確保してきました。積み上げた実績を活かし、コンサル領域へと徐々に幅を広げる形を取っています。
- インフラ技術の専門性を磨き、差別化を図る
- 安定売上に裏打ちされた若手育成システムを整備
- 新しいプロジェクトやM&Aでも無理なく拡張
こうした計画的成長は、市況に左右されにくく、組織全体を着実に強化していくのが特徴です。
スタートアップとソリッドベンチャーの融合は可能か?
ハイブリッド型への挑戦
近年、ソリッドベンチャー的な安定性を持ちながら、一部でスタートアップ的な爆発力を兼ね備えようとする企業も増えています。たとえば既存事業でキャッシュフローを安定化させながら、AIやクラウドソリューションなどの新技術領域に対してはスタートアップさながらの果敢な投資を行うケースです。
- 計画的に内部留保を積んだうえで、ハイリスク領域に投資
- 社内で“R&Dチーム”や“新規事業開発室”を立ち上げ、スタートアップ的スピードで試作・検証
- コア事業の安定があるため、試みが失敗しても企業存続に支障をきたしにくい
こうしたハイブリッド型の動きは、大きな成功を収める可能性を秘める一方で、組織内での方向性のギャップが生まれないようコミュニケーション設計が不可欠となります。
投資家との付き合い方
ソリッドベンチャーでも、必要に応じて外部資本を少し取り入れることは充分に考えられます。ただし、スタートアップのように「大量の資金を一気に調達して成長を急ぐ」のではなく、投資家を戦略的パートナーとして迎える形が一般的です。
- 少額のエンジェル投資を受け、投資家のネットワークや知見を活用
- 特定の大手企業から資本提携を受け、販路や技術力を補強
このように、安定成長を目指しながらも、“必要なピース”として外部資金を組み合わせる柔軟性を持つソリッドベンチャーも増えているのです。
あなたに合う道は?――選択のポイント
目指す市場規模と成長速度
もし「世界を席巻するテック企業を作りたい」「大きな資本とタッグを組み、短期間で爆発的な成長を実現したい」という強い意志があるなら、スタートアップ型で戦うのが理にかなう場合があります。
逆に、「安定した利益を確保しながら社員を大切に育て、長期でビジネスを拡大したい」と考えるなら、ソリッドベンチャー型に寄せたほうが合うでしょう。
リスク許容度と経営者の志向
起業家にとって、精神的プレッシャーは無視できない要素です。大きなリスクを背負い、投資家から日々迫られる成長目標に対応するストレスは、スタートアップの経営者にとって常態化しやすいです。一方、ソリッドベンチャーの経営者は、リスクを抑えつつ、自社のビジョンをじっくり追求しやすいといえます。
社員のモチベーションと組織づくり
急拡大を目指すスタートアップでは、ジョブローテーションや大幅な組織再編が頻繁に起き、個人が成長する機会も多い半面、仕事の範囲が流動的で落ち着かない環境になる可能性があります。ソリッドベンチャーは組織が比較的安定しており、社員が腰を据えて専門性を磨くには適した環境になりがちです。
こうした組織面の違いは、長期的な人材定着率や企業文化にも大きく影響します。
「どちらも一長一短」──結論をどう活かす?
スタートアップかソリッドベンチャーか。結論としては、どちらも長所と短所が明確であり、事業の性質や経営者のスタンスによって合う・合わないが生じます。
- スタートアップ型
- 長所: 大幅な資本を投入して短期間で爆発的成長が可能。市場シェアの先取り。
- 短所: 失敗時のダメージ大。投資家の意向が強く、経営の自由度が下がる可能性。
- ソリッドベンチャー型
- 長所: 安定収益を確保しながら、無理のない拡大が可能。組織体制を整えやすい。
- 短所: 時間がかかるため、競合に先行されるリスク。派手な躍進が難しい。
どちらが優れているかを断じるより、自社や自分の特性を見極めて「しっくりくる」方法を選ぶことが重要です。世界を革新するような新技術やサービスを目指すならスタートアップ型が必要な場合もありますし、社会に根付きながら事業を安定的に持続させたいならソリッドベンチャーが向いているかもしれません。
次の一歩をどう踏み出すか――長期視点で考える
ビジネスは長丁場の戦いです。短期的にはスタートアップ的戦略を選んでも、後々ソリッドベンチャーの要素を取り入れることも十分可能ですし、その逆もあり得ます。大切なのは、自分が経営者としてどんな会社を作りたいのか、あるいはメンバーとしてどのような働き方を望むのかを見失わないことです。
- スタートアップ志向の人: スピード感ある経営や頻繁なチャレンジを楽しめるかどうか、自分の性格やキャリアビジョンに合うかを慎重に見極める。
- ソリッドベンチャー志向の人: 既存ビジネスをいかに堅実に回しながら新領域を“ジワ新規”で伸ばすか。周囲の理解と協力を引き出すための計画性がカギ。
どちらを選んでも、結局は“顧客が求めている価値を提供できるか”が勝負どころとなります。派手なPRや大量の投資資金があっても、顧客価値を生まなければ長続きしませんし、小さく生んでコツコツ伸ばしても、結局顧客目線を見誤れば事業拡大は難しいのです。
あなたが描く未来に合わせた選択を
ソリッドベンチャーかスタートアップか――これは単に「保守的か攻撃的か」といった二元論ではありません。むしろ、事業の性質・経営者のビジョン・リスク許容度という3つの要素が複合的に絡み合い、企業ごとに最適解が異なるのです。
- 急成長を狙うなら、スタートアップ的な外部資本活用とスピード経営が武器となる。
- 安定成長を志向するなら、ソリッドベンチャー的な利益再投資とリスク分散が強みになる。
- 両者を組み合わせたハイブリッド型に挑む企業も増えており、計画的な内部留保で基盤を固めつつ、特定の領域では一気呵成のチャレンジを行う。
何よりも大事なのは、「自分たちのビジネスがどのような社会価値を生み出し、どれだけの期間で成長を目指すのか」を明確にすることです。それさえ定まれば、適切な資金調達法や組織設計、文化づくりが見えてくるはず。
両者の特性を理解しながら、あなたに合った未来の姿を描き、着実に進んでいってください。ビジネスの世界では、どんな選択も活かし方次第で大きな成果を生むのです。