スモールビジネスとソリッドベンチャー

公開日:2024.09.12

更新日:2025.2.17

筆者:エンジェルラウンド株式会社 大越匠

ハイライト

  • スモールビジネスは安定収益を重視するが、ソリッドベンチャーはそこから積極的に新規事業へ挑戦し、長期的成長を目指す。
  • 既存事業のキャッシュフローを再投資し、外部資金に過度に依存しない“低リスク拡大”がソリッドベンチャーの魅力。
  • 移行には既存事業の最適化・市場調査・パイロット導入など段階的アプローチが重要で、最後は組織力やチーム形成が成功の鍵を握る。

ビジネスの成長モデルを考えるとき、近年注目を集めているのが「ソリッドベンチャー」という概念です。従来は、小規模で安定収益を狙う「スモールビジネス」や、短期間で爆発的成長を目指す「スタートアップ」といった対比が語られることが多かったかもしれません。しかしソリッドベンチャーは、その中間ともいえる立ち位置で、安定した基盤を持ちつつ新たな事業チャンスに果敢に挑戦していくという特徴を備えています。一方、スモールビジネスは基本的に「経営の安定性」を最優先とし、拡大戦略を必ずしも求めないことが多いのが特徴です。両者はともに“安定収益”を重視していますが、将来的な「成長と拡大」をどこまで意識するかで大きく方針が変わってきます。本記事では、スモールビジネスとソリッドベンチャーの違いを整理しながら、ソリッドベンチャーへ移行する際のメリットや具体的アクションプランを解説していきます。

スモールビジネス vs. ソリッドベンチャー:両者の基本概念

安定重視と成長重視の違い

スモールビジネス
個人事業主や中小規模の事業形態が多く、特定の地域やニッチ市場をターゲットに、毎月の売上や利益を安定させることを優先します。

例えば個人経営の小売店や、数名のスタッフで運営するコンサル事業などが挙げられます。大きなリスクは取りたくない、従業員数も大幅に増やす計画はない、という経営スタンスが多いのが特徴です。

ソリッドベンチャー
安定収益を生むコア事業を確立しつつ、そこからのキャッシュフローを活用して新たな事業機会や市場に挑戦する企業形態を指します。

いきなり急成長を狙うのではなく、“ジワジワと堅実に規模拡大を狙う”のがポイントです。スタートアップのように大型投資を受けるリスクを避けながらも、スモールビジネスに比べれば積極的に拡大路線を探る姿勢を持っています。

資金調達とリスク管理のポイント

スモールビジネスは原則的に自己資金や銀行融資など、小規模な資金調達で経営を回すことが多いです。外部投資家を入れることは稀で、そのぶんオーナーの裁量が大きい反面、急拡大は難しいという側面があります。

ソリッドベンチャーは、既存事業の安定した売上を元手に徐々に新規事業へ投資するため、VC資金などの大型出資に依存しないケースが一般的です。

そのおかげで過度なリスクテイクを避けられる一方、必要に応じてデットファイナンス(銀行融資)やスモールエクイティ(少額の株式発行)を取り入れることも可能です。

ソリッドベンチャーへの移行メリット

リスクを抑えた成長の可能性

スモールビジネスからソリッドベンチャーに移行する大きな利点は、リスクコントロールしながら成長を狙える点にあります。既存事業が安定したキャッシュを生んでいるなら、それを元手にして新規プロジェクトをテスト運用したり、少人数で新サービスを立ち上げたりできます。

もし新規事業が思うように伸びなくても、既存事業があるため企業全体が破綻するリスクは低く、気持ちの余裕をもって再トライ可能です。

具体例(一般的なケース)

製造業の例:従来型の製品ラインで安定収益を確保しつつ、新素材や新しいカテゴリーの製品を小規模テストする。初期の売上が期待どおりでなくても、既存ラインの利益で経営を支えられるため、改良を繰り返すことができる。

新規事業展開のためのリソース確保

ソリッドベンチャーは、外部からの資金調達だけに頼らず、自己資金や営業利益で新たな事業に投資できる強みがあります。たとえば、ある小売業がすでに地域で安定した売上を築いている場合、その利益の一部を使ってECサイトや新規ブランドの立ち上げを試すことができます。

これにより、VCのような外部投資家に対して短期間で高リターンを求められるプレッシャーが少なく、経営者は長期目線で開発やマーケティング施策を打てるわけです。

既存顧客基盤を活用したスムーズな事業展開

スモールビジネスからソリッドベンチャーへの移行では、既存顧客基盤が大いに活きてきます。

  • 信頼関係のある顧客に対し、新サービスを案内しやすい
  • 商品開発時に顧客からのフィードバックをすぐ得られる
  • 必要ならアップセルやクロスセルを図ることで収益拡大をしやすい

例えば、BtoBのコンサル企業が既存クライアント向けに新たなITソリューションを提供し始めるケースなどは典型例です。新規参入先でも全くのゼロから顧客を探すよりもずっとハードルが低く、スピーディーに収益化できる可能性が高まります。

ソリッドベンチャーに進化するための具体ステップ

既存事業の強化・最適化

まず最初にすべきは、「今ある収益源」を徹底的に盤石にすることです。

  • コスト構造の見直し(在庫管理、業務プロセスの効率化など)
  • 営業手法の改善や、リピート率向上策の検討
  • カスタマーサポート体制の強化

こうした取り組みで、既存事業の利益率を高めると同時に、企業のブランド力や顧客満足度も向上させます。十分な安定利益があればこそ、次のステップである新規事業への挑戦に資金的・精神的な余裕を持って取り組めるのです。

市場調査とビジネスチャンスの見極め

ソリッドベンチャーでは、既存事業のリソースを活かしながら新たなチャンスを探る必要があります。そのために行うべきことが市場調査機会選定です。

  • 既存顧客が抱える課題やニーズをヒアリングし、新サービスの形を探る
  • 同業界または隣接業界のトレンドを分析し、競合の動きや市場規模を把握する
  • 社内にあるノウハウや技術リソースを棚卸しして、新規事業に活かせるか検討

たとえば、ITサービスを提供している場合、「既存のクライアントがどんな追加的サポートを必要としているか」をまずはインタビューで洗い出し、そこから新しいソリューションを設計する、などの進め方が考えられます。

新規事業の試験導入(パイロットプロジェクト)

新規ビジネスを始めるとき、いきなり大規模なローンチをするのではなく、パイロット版を試すことがリスクヘッジの観点でとても重要です。

  • 一部顧客や限定地域でプロダクトやサービスを導入
  • テスト運用の結果を細かく分析し、改善点を洗い出す
  • 成果がある程度見えたら、段階的に規模を拡大

例えば、飲食チェーンが既存メニュー以外の新ジャンルを扱う際、一店舗だけで先行導入し、顧客の反応やコスト面を確かめてから複数店舗へ広げるといった手法が典型的です。ソリッドベンチャーが得意とする“ジワ新規”は、まさにこのようなプロセスを踏むことでリスクを低減しながら確実に成長を目指すやり方といえます。

長期視点で着実に拡大するには?

事業計画の再構築と新規事業の明確化

ソリッドベンチャーとして成功するためには、「既存事業」と「新規事業」の関係性を明確にし、両者を包含する事業計画を再構築することが鍵です。

  • 既存事業が生むキャッシュフローはどれくらいあり、そのうち何割を新事業に振り向けるか
  • 新規事業が本格展開するまでの期間や、採算分岐点はどの程度になるか
  • 必要であれば資金調達(デットファイナンスやスモールエクイティ)はどのタイミングで行うか

こうしたプランを策定し、企業全体で共有することで、「なぜ新規事業に取り組むのか」という意識がメンバーに浸透しやすくなり、不要な衝突や混乱を避けられます。

資金調達とリソース配分の最適化

ソリッドベンチャーでは、外部投資家を募るよりも、まずは既存事業の収益を再投資に回すことが基本となります。しかし、新規事業が大きな売上を見込める段階に来たら、必要に応じて銀行借入や補助金、クラウドファンディングなど、リスクの低い資金源を活用するのも有効です。

一方で、全くエクイティを発行しないというわけではなく、戦略的な投資家やパートナー企業との資本提携を少額から進める方法もあります。重要なのは、過度にコントロール権を手放さず、企業の方針をぶらさないようにすることです。

成長を支えるチームづくり

最後に、ソリッドベンチャーへの移行においては、チーム体制の拡充が欠かせません。

  • 新規事業には既存事業とは異なるノウハウや視点が必要になる
  • 外注や業務提携などで不足リソースを補うのか、社員を採用するのかを見極める
  • 組織が拡大する中でも、企業文化やミッションが共有される仕組みを整備する

たとえば、IT系のソリッドベンチャーでは、エンジニア人材やUXデザイナー、またはデジタルマーケティング専門家など、既存事業とは異なる分野の人材を採用し、少人数の新規事業チームを構成するケースが多いです。

重要なのは採用直後のオンボーディングと社内コミュニケーションをしっかり行うことで、混乱を最小化しつつ事業を成長させることです。

スモールビジネスからソリッドベンチャー”成り”の可能性

「スモールビジネス」は、安定した収益を得ながら小規模での運営に特化し、リスクを最小限に抑える経営スタイルです。これに対して「ソリッドベンチャー」は、既存事業という強固な基盤を持ちながらも、それを足がかりに新たな事業機会を追求することで持続的な成長を狙います。

スモールビジネスとして堅実経営を続けるだけがゴールでない場合、ソリッドベンチャーへの移行を検討するのは非常に有効な選択肢といえます。焦らずに段階的な手順を踏むことで、リスクを抑えながら大きく花開く可能性が広がるでしょう。

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