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これからの起業家にとってのソリッドベンチャーという選択肢
公開日:2025.01.20
更新日:2025.1.20
筆者:

「起業=スタートアップで爆速成長」というイメージが強い昨今。しかし、すべての起業家がVCからの投資を受け、ユニコーンを目指す道が最適ではないことも事実です。本記事では、「ソリッドベンチャー」という堅実な収益基盤を確立しながら、新規事業を少しずつ拡大していくビジネスモデルに注目。投資家のプレッシャーに追われず、リスクを抑えつつ自社のビジョンを形にしていくこのアプローチが、なぜ多くの企業家から熱い視線を浴び始めているのか――具体事例を交えながら、そのメリットと可能性を探ります。
ハイライト
- 安定収益を軸に成長を重ねる「ソリッドベンチャー」モデルが再注目されている
- “ジワ新規”でリスクを最小限にしつつビジネスを拡張し、長期的な企業価値を追求する
- VCの急成長プレッシャーとは異なる、柔軟かつ持続可能なビジネス構築が可能に
なぜ今「ソリッドベンチャー」が注目されるのか
VCの大型化とスタートアップに対する圧
近年、ベンチャーキャピタル(VC)のファンド規模は大きくなり、数十億円以上の大規模EXITやユニコーン級の成長を投資先に求める傾向が強まっています。その結果、比較的“小さめ”のM&AやスモールEXITを狙う企業には資金が集まりづらく、スタートアップには「とにかく短期間で巨大化を」との圧力が加わりがちです。
しかし、すべての起業家がそんな「超高速成長」を志向するわけではありません。むしろ、「じっくりと利益を積み上げながらリスクを抑えて成長したい」というニーズが高まっているのです。そこで見直されているのが「ソリッドベンチャー」のモデル。急成長の代償として赤字を拡大するのではなく、安定した収益をもとに新市場へ徐々に進出するというアプローチです。
スタートアップ疲れと多様な起業のかたち
メディア報道やスタートアップ政策などを通じて広まった「短期IPO」や「ユニコーン」という言葉に追われるあまり、創業者が理想とは異なる事業展開を迫られる例も増えています。そこで、一足飛びに巨大化を目指さず、自分たちのペースで段階的に規模拡大を図るソリッドベンチャーの道が「新しい安定型起業」として見直されているのです。
急成長モデルに比べて地味に見えるかもしれませんが、日本の上場企業の多くは、初期段階では小さく稼げる事業から始めて大きくなったケースが目立ちます。ソリッドベンチャーのモデルは、その「日本企業らしさ」とも相性が良いのかもしれません。
ソリッドベンチャーの特徴とメリット
早期の安定収益とキャッシュフロー経営
ソリッドベンチャーの最大の特徴は、初期から安定したキャッシュフローを目指すこと。「まずは利益を生む事業をスタートさせる」ことで資金ショートのリスクを回避し、外部資金調達に縛られない経営を実現します。
例を挙げると、レバレジーズ社は創業期にSES(システムエンジニアリングサービス)で稼ぎ、その後IT領域の人材紹介やヘルスケア関連へと事業を広げることで急成長。大規模なエクイティ調達をせずとも海外展開まで果たし、かつ事業を多角化できたのは、初期の安定収益があったからこそです。
スタートアップが優先するのは「ユーザー数」や「市場シェア」で、利益は後回しになりがち。一方、ソリッドベンチャーは「まず稼ぐ」。これが長期的な投資に回せる資金を生み、持続的な成長を可能にします。
リスク管理と持続的な成長
急成長を求められるスタートアップは、マイルストーンを短期で達成する必要があるためにリスキーな投資を迫られることも多い。しかしソリッドベンチャーでは、“ジワ新規”という段階的成長アプローチを取ることで、新しい事業に挑戦する際のリスクを分散しながら、確実に売上を積み上げていきます。
例えば、ナイル社はSEOコンサルからスタートし、メディア運営を経て自動車サブスク「おトクにマイカー 定額カルモくん」へと自然な拡大を果たしました。最初に堅実な収益源を確保し、新規事業は徐々に確実性を高めながら拡大していく。これがソリッドベンチャーの思考法です。
投資家への依存度が低い=自由度が高い
ソリッドベンチャーは、自社で稼ぐ力が高いため、投資家の要求にしばしば見られる「××年以内のIPOやM&A」というプレッシャーから比較的解放されます。その結果、起業家や経営者は長期的なビジョンを実行しやすく、無理のないリスクテイクと事業展開を行えます。
大きな意志決定を行う際も、自社のキャッシュフローや合意形成をベースに行うため、サービスの方向性やバリューを起業家自身がコントロールしやすいメリットがあります。これが社員に対する安定的な雇用や社内カルチャーの継続にも繋がり、企業としての持続可能性と魅力を高めるわけです。
“ジワ新規”戦略の実践例:緩やかに事業を広げる
既存顧客との関係を基盤に拡張する
ソリッドベンチャーが新規事業を立ち上げる場合、既存の顧客基盤や業務で見つけた課題を生かして「ジワ新規」を行うことが多い。たとえば受託開発企業が、顧客からの要望を拾いながら新たなソリューションサービスを作り、そこから別の顧客へ展開していく、といった形だ。
FPパートナー社の例を見ても、ファイナンシャルプランニングの領域で蓄積した顧客ニーズを軸に、徐々に新しい金融サービスを追加。これにより既存顧客との取引を深化させつつ、新規顧客獲得にも繋げている。この“ジワ新規”の手法こそが、無理なく新市場を開拓するソリッドベンチャー的アプローチと言える。
社内シナジーを最大化する
さらに、ソリッドベンチャーは“ジワ新規”による複数事業のシナジー効果を狙うことも特徴的。部門間でリソースや知見を共有し、顧客に対して包括的なサービス提供を行うことで、クロスセルやアップセルがしやすくなる。
例えば、ボードルア社はSESとITインフラを主軸にしながら、コンサルティングや上流工程にまで事業を拡張。各事業が持つ顧客情報や専門ノウハウを相互に活用することで、効率的な営業活動とサービス品質の向上を実現している。
事例から学ぶソリッドベンチャーのポイント
レバレジーズ社:SESを軸にIT人材事業を拡大
レバレジーズ社は創業初期にSES(システムエンジニアリングサービス)でしっかりと稼ぎ、その収益をもとにIT領域の人材紹介、さらには介護や医療へとジワジワ進出。外部資金調達に頼らず、あくまで黒字経営を保ちつつ展開しているのが特徴だ。
この事例は「まず堅いビジネスでキャッシュを生み、余力をもって新規事業に挑む」というソリッドベンチャーの王道パターンを体現しているといえる。成功要因としては、市場ニーズの明確なSESビジネスと、それを活用したジワ新規戦略でリスクを最小化していることが挙げられる。
ナイル社:SEOコンサルを基盤にしたメディア&自動車サブスクへ
ナイル社はSEOコンサルという比較的早期に収益化できる事業からスタートし、メディア事業を展開。さらに「おトクにマイカー 定額カルモくん」のようなサービスへ少しずつ領域を広げている。ここでも“ジワ新規”の典型が見られ、着実な成長の裏には顧客ニーズの分析と既存リソースの有効活用がある。
ナイル社の戦略は、一つの事業でキャッシュフローを安定させ、その利益を次の新規事業に投じるというソリッドベンチャーの基本スタイルと合致する。短期IPOを目指すスタートアップとは明確に違うテンポでビジネスを拡大している点が興味深い。
ソリッドベンチャーを成功に導くポイント
1)安定収益の確保が最優先
何よりもまず、早期に黒字を実現し、会社の基盤となる“キャッシュカウ事業”を確立することが肝心。資金繰りの安定が、長期的なビジョンを実行に移す余裕を生み、結果として持続的な成長を支える。
2)ジワ新規による段階的展開
新規事業は一気に拡大するのではなく、既存顧客との関係性やリソースを活かしてゆっくりと浸透させる。これにより大きな赤字を抱えるリスクを回避できるし、顧客も新サービスを受け入れやすくなる。
3)投資家への過度な依存を避ける
必要があれば出資や融資を受けることもあるが、基本は自己資金や黒字事業の再投資で事業を回すことで、経営の自由度を高める。投資家主体のスケールアップではなく、経営者が描くビジョンを実行できるのが大きな魅力。
4)組織を“柔軟で強固”に維持する
ソリッドベンチャーは安定収益に甘んじるのではなく、組織的にも“変化に対応できる強さ”を追求すべき。既存の人材をうまく配置転換し、新規プロジェクトを立ち上げる際にも動きやすいフラットなカルチャーを作ることが望ましい。
ソリッドベンチャーは「急成長か否か」以外のもう一つの起業の道
ソリッドベンチャーは、初期収益をしっかり確保し、そこからジワジワと新規事業へ拡大していくスタイルが特徴的です。
従来のスタートアップやVCモデルが合わず、でも起業家として新しい価値を生み出したい――そんな方にとって、ソリッドベンチャーは非常に有効な選択肢となるでしょう。
例として挙げたレバレジーズ社やナイル社、ボードルア社などは、いずれも地味に思われがちな事業から安定した収益を作り、その利益を再投資する形で新しい市場へチャレンジし、大きく花開きました。こうしたアプローチは、急成長の誘惑に隠れがちな“経営の自由度”と“リスクコントロール”を両立させるものです。
スタートアップ一辺倒の風潮のなか、「頑張るならユニコーンを目指せ」と言われて疲弊する起業家が増えている現実もあります。実は日本の企業文化や市場環境にフィットしたソリッドベンチャーなら、もう少しゆったりとしたペースで確実な未来を築けるのです。長い目でビジネスを育てたい方、過度なリスクを避けつつ市場にイノベーションをもたらしたい方は、ソリッドベンチャーという選択肢を今こそ検討してみてはいかがでしょうか。