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ソリッドベンチャーの収益多様化戦略
公開日:2024.11.19
更新日:2025.3.28
筆者:エンジェルラウンド株式会社 大越匠

「スタートアップのように短期で大きく跳ねるのも魅力的だけれど、持続可能な形でしっかりと成長したい」――そんな企業の思いを実現するのが、ソリッドベンチャーというビジネススタイルです。単一事業の一本足打法に頼らず複数の収益源を持つ「収益多様化戦略」によって、市場の変化にも柔軟に対応しながら長期ビジョンを追求できるのが大きな強み。今回は、キャッシュカウ(安定収益)事業の重要性から、段階的な新規事業拡張(ジワ新規)、そしてM&A・業務提携によるポートフォリオ拡充まで、ソリッドベンチャーならではの収益多様化戦略を具体的に解説します。
ハイライト
- キャッシュカウ事業でまずは安定収益を確保し、次なる挑戦のリスクを低減する
- “ジワ新規”の段階的拡張で徐々に収益源を育て、リスク分散と安定成長を両立
- M&Aや業務提携で自社にはないリソースを取り込み、強固なポートフォリオを形成する
安定したキャッシュカウ事業を確立する
成長を支える「稼げる柱」が必要
ソリッドベンチャーでまず不可欠なのが、キャッシュカウ事業の存在です。
「この事業があれば最低限の売上と利益を確保できる」という安定収益源を持つことで、新規事業への投資や社内リソースの振り分けを落ち着いて進められます。
たとえば、新規サービス開発の際にはどうしてもコストが発生しますが、キャッシュカウからの利益で支えられるなら、リスクを最小限に抑えながら挑戦が続けやすいのです。
事例:オロ社の受託開発からのERP展開
オロ社は、創業時に始めたウェブ受託開発をキャッシュカウとして堅実に成長しつつ、社内の業務管理ツールを外販化しERP(「ZAC」)として提供。
- 受託開発で安定収益を得ながら、
- 実際に自社で使っていた業務ツールを汎用化して新規事業を拡張。
最初からERPをフルコミットで開発していたわけではなく、受託という地道な“お金を生む柱”があったからこそ、新規プロダクトへ資金も時間も投下できた好例です。
「ジワ新規」で低リスク・段階的に収益源を拡大

一気に爆発させず、ゆっくり育てるからこそ安定性が高まる
ソリッドベンチャーの特徴を端的に表すのが、「ジワ新規」というアプローチです。
大規模投資で一気に拡大するのではなく、既存のリソースや顧客基盤を活かして、小さく始めて徐々に事業規模を拡大していきます。必要以上にリスクを負わず、市場の反応を見ながら拡張できるため、会社全体を揺るがす失敗をしにくいのがメリットです。
事例:プログリット社の英語コーチングからの段階拡張
プログリット社は、まず「英語コーチング」というサービス1本で勝負し、安定的な売上と認知度を確立。そこから派生して、以下のようにジワジワと収益源を増やしています。
- 英語コーチングで確保した利益と知見を活用し、
- 「シャドーイング特化サービス」「AI会話トレーニング」などを追加開発。
最初から複数のサービスを同時に立ち上げるのではなく、メイン事業で成功を掴んでから横展開しているため、どれか1つが失敗しても大ダメージを受けにくい構造を保てるのです。
事例:レバレジーズ社のSESからの拡張
レバレジーズ社も、創業当初はSES(システムエンジニアリングサービス)で堅実に利益を得つつ、そのキャッシュフローを土台にIT系・医療・介護など多方面に拡大。一気に大投資をするのではなく、ひとつの事業が軌道に乗ってから少しずつ新分野を育てるため、いまや年商1,000億円規模の成長を遂げています。
M&Aや提携を活用したポートフォリオ強化
既存のキャッシュをテコに、領域拡大と新技術を獲得
ソリッドベンチャーの収益多様化をさらに加速させる手段として、M&A(合併・買収)や業務提携が挙げられます。特にキャッシュカウがしっかりある企業ほど、
- M&A用の資金を自己資本や借入で容易に手当てしやすい
- 赤字のスタートアップをむやみに買わずに済む(買収基準を自社都合で明確化できる)
といった強みがあり、自社内でゼロから開発するより早く確実にポートフォリオを拡張できます。
ユナイトアンドグロウ社のITサービス拡充
ユナイトアンドグロウ社は、ITリテラシーの高い人材を「必要な時だけ」提供する独自モデルで基盤を確立。
- その安定収益を使い、業務提携や追加サービスを広げ、
- 中堅企業の“情シス部門支援”を一気通貫で手がけるポジションへ。
自力で新部門を作るのではなく、M&A・提携の活用で足りない機能を“補強”し、結果として多角的なサービスを提供可能になりました。
INTLOOP社のグループ展開
INTLOOP社はコンサル・フリーランス紹介事業で安定キャッシュを生み出しながら、M&Aやグループ会社設立によって必要なソリューションを補って急成長。買収やグループイン後もキャッシュカウの安定力があるため、統合作業を焦らずに進められるのがソリッドベンチャーならではのメリットと言えます。
収益多様化戦略がもたらす長期安定のメリット
1. リスク分散
単一の事業が傾いても、他の収益源がリカバリーするため、経営の安定性が高い。
2. 成長の持続性
既存のキャッシュカウが成長の土台になるので、“ジワ新規”を常に仕掛けやすく、長期的に拡大を狙える。
3. 組織への好影響
複数の事業があると、新しいポジションやキャリアパスが生まれ、人材がチャレンジしやすい企業文化が醸成される。
こうした仕組みは、企業が大きくなるほど“多角的な成長エンジン”として利点を発揮し、長期的に企業価値を高める原動力になります。
ソリッドベンチャーが描く多角的収益の未来
ソリッドベンチャーの鍵は、やはり「キャッシュカウ事業」と「ジワ新規」、そして「M&A・提携」の3つを軸に多角的な収益モデルを作り上げる点にあります。
- キャッシュカウ事業を軸に安定収益を確保し、
- 隣接領域の新規事業を段階的に育て、
- M&Aや業務提携で自分たちにない強みを取り込んでいく
この三段構えが、外部環境が変化しても揺るがない経営基盤をつくるうえで欠かせません。一本足打法ではなく多角的な収益源を持つことで、仮に1つの市場が不調になっても全体が大崩れしないのがソリッドベンチャーの強さ。その結果、慎重なリスク管理と果敢なチャレンジを両立しながら、中長期的に成長し続けるのです。
「短期間で上場して大きなExitを狙う」モデルだけがベンチャーのすべてではありません。まずは着実に稼ぎ、その収益を原資に新しい種をまき、焦らず“ジワ”っと事業領域を広げる。ソリッドベンチャーの収益多様化戦略は、そうした“堅実さと攻め”のバランスを取りながら、長期にわたって企業価値を育てる道筋を示してくれます。