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ソリッドベンチャーが描くリスクを最小限に抑えたビジネス戦略
公開日:2024.11.18
更新日:2025.1.10
筆者:エンジェルラウンド株式会社 大越匠

ハイライト
- 収益性を高めながらリスクを低減し、安定成長を実現するアプローチが重要。
- 自社ペースで着実に拡大し、外部投資家の圧力から解放されるモデルを構築。
- 顧客ニーズの把握と内部資金の活用で、市場の変動にも柔軟に対応し続ける。
新たなビジネスを立ち上げようとするとき、誰もが「できるだけ失敗のリスクを下げたい」と考えることでしょう。しかし、一方で“急成長”を求めて大きなリスクを負うスタートアップも少なくありません。ソリッドベンチャーとは、こうした「リスクを極力抑えつつ、堅実な収益を積み重ねていく」ビジネスモデルを指します。ここでは、どのようにリスクを最小限に保ちつつ、持続的な成長を遂げる方法があるのかを具体的に探っていきましょう。
「安定収益」を柱にした戦略が、リスクを和らげる
ソリッドベンチャーの最大の特徴は、まず収益性の高い事業をスタートしてリスクを下げることにあります。スタートアップのように革新的なアイデアを一気に市場へ投入し、巨額の資金を集めるやり方とは対照的です。
特に起業初期は、ビジネスの成功確度が不透明な中で、投資家や市場のプレッシャーにさらされる危険が大きいもの。だからこそ、ソリッドベンチャーは最初に「ソリッドに(堅実に)儲かる領域」にフォーカスし、そこから得た安定収益を次なる挑戦の原資に充てます。
事例:サーバーワークス社が示す“ストック型”の盤石体制
AWS特化クラウドインテグレーションで着実に収益を積み重ねているサーバーワークス社(創業2000年・2019年IPO)は、フロー収益(スポット案件)とストック収益(運用保守)をバランスよく構築したことで、安定感のある成長軌道を描いています。
急激に投資を募るよりも「既存事業から生まれる定期収入をもとに新規領域へ徐々に拡大」する方針を貫き、結果的に外部資金への過度な依存を避けながら堅実なビジネスを持続。
この安定基盤があるからこそ、市場変動があっても落ち着いて次の一手を打てるわけです。
こうした形で“安定収益”を支えにリスクを分散しながら拡大していけるのが、ソリッドベンチャーの強み。時流に乗ろうとして無理に規模拡大を急げば、バブル崩壊のような結果を招きかねません。むしろ、着実な収益確保こそが、長期的な視野での成長を可能にする鍵となるのです。
スタートアップとの比較──「急成長」と「収益基盤重視」の違い
スタートアップにおいては、「新しい市場を一気に取る」「短期間で莫大な利益を生む」といった急成長の魅力があります。一方で、その大部分は高額な投資を必要とし、失敗したときのリスクは極めて大きい。競合が登場すれば投下資金が無駄になる可能性もあり、うまく軌道に乗らなければ早々に資金繰りが立ち行かなくなるリスクが潜んでいます。
これに対し、ソリッドベンチャーは収益基盤を重視してリスクを最小化し、長期的に持続可能なビジネスモデルを築きます。高リスク高リターンを追い求めるスタートアップとは異なり、“安定的な利益”を追求するのが特徴。
大きく化ける可能性は低いかもしれませんが、着実にキャッシュを積み上げることで将来的にさらなる新規事業やM&Aへ資金を回せる柔軟性が得られます。
事例:ヘッドウォータース社が選んだ堅実な“AIインテグレーション”
AI開発をコアビジネスとし、2020年にIPOしたヘッドウォータース社(創業2005年)は、ハイリスクな“AIベンチャー”というイメージとは裏腹に、長年かけて“インテグレーション + 自社プロダクト開発”のハイブリッドモデルを進め、安定収益を確保してきました。
大きく飛躍するために莫大な投資を募るのではなく、クライアントワークで得たキャッシュを再投資。積み重ねたナレッジをもとに自社プロダクトをリリースするというサイクルを長期視点で回しているのです。
スタートアップのように爆発的な拡大を狙うのではなく、足元の売上を確保しながらリスクをコントロールしている点が印象的です。
リスク低減と成長の両立──内部資金を活かす戦略
「ソリッドベンチャー=地味なビジネス」などと思われるかもしれませんが、その強みは“収益を再投資して着実に成長できる”点にこそあります。外部資金に依存しないため、自分たちのペースで事業を進められ、投資家の要求に振り回されにくいのです。
1つのポイントは、顧客ニーズの徹底的な調査です。新しい事業を始める際、派手なアイデアを追いかけるのではなく、まずは顧客の課題やニーズを地道に掘り下げ、それを丁寧に解決することで信頼を獲得。無理に市場を拡大する必要がないので、質の高いサービスや製品を提供でき、追加の顧客も自然と増えていきます。
さらに、内部資金の有効活用が重要です。先に述べたように、安定した事業で稼いだキャッシュを、自社のノウハウが活かせる隣接領域へ投下。大きくリスクをとらずとも、少しずつ事業を広げて新たな収益軸を作り出します。
大成功しなくとも失敗リスクが抑えられるため、軌道修正もしやすい。「小さくトライして、大きく育てる」戦略が実現しやすいのが、ソリッドベンチャーの利点と言えるでしょう。
事例:INTLOOP社の“フリーランス人材”活用での堅実拡大
コンサル×フリーランスプラットフォームを主力に2022年にIPOしたINTLOOP社(設立2005年)は、“フリーランス人材不足という顧客ニーズ”を捉え、社員とフリーランスを組み合わせたコンサル支援を拡大。
安定収益を得ながら積み上げたキャッシュを新規事業へ再投資することで、IT系の専門領域を次々に拡張しています。最初から大きな外部投資を募るよりも、堅実な“人材ビジネス”の利益を再投資し、新たなサービスモデルを慎重に試し、着実に事業幅を拡げるスタイルでリスクを管理しているのです。
ビジネス拡大のカギ——パートナーシップとリーンスタート
いくら地道に収益を築けても、常に市場が変化する世の中で、同じ事業だけに固執すれば成長が頭打ちになる可能性があります。そこで、リスクを抑えながら拡大する有効な方法として、“パートナーシップの活用”と“リーンスタート”の2つが挙げられます。
パートナーシップ
たとえば、製品開発力のある企業や販売チャネルを持つ企業との連携によって、足りないリソースを補完し合うことができます。共通のビジョンや価値観を持つパートナーとタッグを組むことで、新たな市場に進出しやすくなり、コストも分散されるためリスクをより低く抑えられます。
リーンスタート
最小限の製品やサービスを素早く市場に投入し、顧客の反応を見ながら改善を重ねる手法です。徹底的に市場の声を拾い、「ここならニーズに合っている」という確信を得た段階で本格的に資金や労力を投入して拡大を図る。こうすることで、失敗があっても損失を軽微にとどめ、成功の見込みが高まった段階で大きくアクションを起こす、理にかなった成長の形を築けるわけです。
ソリッドベンチャーが示す長期視点
ソリッドベンチャーのビジネスモデルは、短期間に莫大な利益を狙うものではありません。一方で、安定収益を確保しながら着実に成長し続けられる可能性を秘めています。急成長を追うスタートアップは華やかに見える反面、大きなリスクも背負っています。ソリッドベンチャーが目指すのは、そのような高リスクとは異なる、堅実な足元の固め方です。
リスクを管理しつつ新しいチャレンジができるのは、顧客からの安定的なキャッシュフローがあるから。投資家からの過剰な期待に追われることなく、独自のペースで事業を組み立てる自由があります。結果として、長期的な視点で見れば、“事業継続性”に強みを持ち、外部環境の変化にも柔軟に対応できるのがソリッドベンチャーです。
まとめると、「収益性の高い安定事業 → リスクを抑えて新規領域へ進出 → 成功事例からさらに拡張」という循環が生まれれば、ビジネスはより太く、強く成長していきます。これがソリッドベンチャーが描く“リスクを最小限に抑えたビジネス戦略”の真髄です。