スモールビジネスとスタートアップの間にある『ソリッド』な選択肢

公開日:2024.10.22

更新日:2025.4.16

筆者:エンジェルラウンド株式会社 大越匠

スモールビジネスは安定を重視し、スタートアップは急成長を追い求める――この二極化の間に、「ソリッドベンチャー」という新たな選択肢が注目されています。ソリッドベンチャーは、安定した収益基盤を築きながらも、新しい挑戦で成長を図るハイブリッド型のビジネスモデルです。本記事では、その魅力や構築のポイント、そして具体的事例を交えながら解説していきます。  

ハイライト

  • スモールビジネスの安定性とスタートアップの革新性をバランスよく掛け合わせる。
  • 安定したキャッシュフローを基盤に、段階的な新規挑戦でリスクを最小限に抑える。
  • 市場ニーズを的確に捉えつつ、組織力やM&Aなどの手法を活かして持続的に成長する。

スモールビジネスとスタートアップ、それぞれの特長

スモールビジネスは、地域密着や特定コミュニティに強く根差した形で、堅実な売上と安定収益の確保を目指します。多くの場合、事業の継続性やオーナーの生活基盤を築くことが主な目標であり、リスクを抑えやすい反面、大きな飛躍は期待しにくいと言われることがあります。

一方、スタートアップは大規模市場をターゲットにし、技術力や独創的なアイデアを武器に急拡大を狙います。多額の資金調達や高速な意思決定を通じて、短期間で大きなシェアを取ることを目指す半面、失敗すれば大きなリスクを負うことにもなるのが現実です。

こうした二極化の間で、「安定と革新をどう両立させるか」という問いに対する答えとして登場したのが“ソリッドベンチャー”です。安定収益を軸にしながらも、積極的に次の挑戦を行う――このバランス型ビジネスモデルは近年、多くの起業家や経営者から注目を集めています。

ソリッドベンチャーが持つ魅力とは?

安定収益と新規挑戦の両立

ソリッドベンチャーの最大の魅力は、すでに安定したキャッシュフローを生み出す事業を持ちながら、新たな成長のタネを探せることです。たとえばオロ社は当初、Web制作の受託ビジネスで堅実に売上を積み上げました。その後、この安定収益を活用して自社プロダクトの「ZAC」を開発し、新しい収益の柱を育てることに成功しています。

  • 安定事業で安心感を確保
    受託開発やコンサルなど、比較的リスクの少ない形でキャッシュフローを得る。
  • 新規事業に挑戦するための余力
    安定した売上がある分、開発費や人員確保に投資しやすくなる。

こうした動きによって、失敗リスクを最小限に抑えながら新しいビジネスに着手できるのです。精神的にも“背水の陣”にならずにすむため、冷静な意思決定が可能となります。

ニッチ市場や複数競合がいても狙いやすい

スタートアップは大きな市場を急速に取りにいく戦略をとりがちですが、ソリッドベンチャーは必ずしも“爆発的スケール”を狙わなくても成長できるのが特長です。適度な競合やニッチ市場においても、堅実な組織運営力とブランディングで勝ち残ることが可能だからです。

  • 組織力とブランド力の重要性
    単なるアイデア勝負ではなく、採用戦略や顧客サポートで差別化する。
  • 安定路線からスタート
    最初から大きな賭けに出ず、堅実な顧客基盤を固めつつ少しずつ領域を拡張。

たとえばネオキャリア社は求人広告代理店から出発し、人材紹介や海外事業へと段階的に拡張してきました。こうして徐々に守備範囲を広げることで、結果的に大きく成長している事例も存在します。

ソリッドベンチャーを育てるには?

既存事業の収益を活かして新規領域へ

ソリッドベンチャーのエンジンとなるのが「既存事業からの安定収益」です。まずはコアビジネスでしっかり売上を確保し、その上で次の手を打ちます。例えばあるIT企業がシステム受託開発をメインとしながら、そこから得た顧客課題をヒントに新プロダクトを作る――これは非常に典型的なソリッドベンチャーのパターンです。

  • 顧客フィードバックの活用
    受託開発の過程で顧客のニーズを直接把握し、自社プロダクト開発に反映。
  • 既存リソースの有効活用
    すでに持っているエンジニアや営業チームを横展開して、リスクを最小限に新事業を試す。

この流れをうまく回せば、事業ポートフォリオが拡大しつつも財務の安定度を損なわずに済むのです。

M&Aを利用した成長加速

新規事業の立ち上げには、アイデアからチーム構築まで長い時間とコストがかかります。そこでソリッドベンチャーとしては、必要に応じてM&Aも視野に入れるのがポイントです。たとえばボードルア社は、ITインフラ事業で得た安定基盤をもとに、同業他社をM&Aして事業領域を広げることで、短期間でシェアを伸ばしています。

  • 必要な技術や人材を一括獲得
    ゼロから育てるよりも、すでにノウハウや顧客基盤を持つ企業を取り込む方が手早い。
  • ポートフォリオ強化
    自社に不足する機能を持つ企業を買収し、グループ内でサービスの幅を増やす。

M&A戦略はハードルも高いですが、安定収益による財務的余力があるソリッドベンチャーならこそ実行しやすい選択肢ともいえます。

自分に合ったビジネスモデルを選ぶために

スモールビジネスかスタートアップか、あるいはソリッドか

これから起業を考える人、あるいは既存ビジネスの拡大を模索している人にとって、スモールビジネスとスタートアップはよく耳にする選択肢です。しかし、両極端なモデルが自分にマッチしない場合は「ソリッドベンチャー」という手法が有効です。

  • リスク許容度が低め、でも成長は狙いたい
    大きな借金やVCからの多額出資に縛られたくないが、まったく規模を拡大しないのも物足りない。
  • 既存の収益源をしっかり維持したい
    フローが乱れるのを避けたいが、新たな機会には投資していきたい。

こうしたニーズがある場合は、ソリッドベンチャーが持つ“安定と挑戦のバランス”が理想的に働きます。

実行フェーズでの注意点

ソリッドベンチャーを目指すうえで大切なのは、“多角化”と“リスク管理”の二つを両立させること。既存事業で稼げているからといって、やみくもに新規プロジェクトを増やすと組織が疲弊します。小規模な実証実験や段階的投資を行い、顧客ニーズや市場反応を見極めるのが得策です。

  • 小さくテスト→軌道に乗れば拡大
    フェーズごとの指標をクリアしたら投資を増やすアプローチ。
  • 社内体制の最適化
    マルチプロジェクトになるほど、部署間の連携・管理が複雑化しやすいため、情報共有や組織デザインを重視する。

特に、多角的に事業を展開するファインドスター社やC-mind社のように、グループ体制でそれぞれの部門を独立経営しているケースは参考になるでしょう。

ソリッドベンチャーをさらに伸ばすポイント

組織力を磨く

ソリッドベンチャーでは、組織力がそのまま新規挑戦の成否を左右します。たとえばギークリー社のように、IT・Web・ゲーム業界特化の人材事業を起点に、少しずつ周辺領域へ展開していくスタイルでは、社内で培ったノウハウや顧客基盤が次のビジネスを支える大きな武器になります。

  • ノウハウの可視化と共有
    新たな事業に進出する際、既存事業の成功パターンや失敗経験をきちんと引き継げる仕組みが重要。
  • 人材育成と採用戦略
    安定収益があるからこそ、長期的な視点で採用や教育に投資し、社員が成長できる環境を用意できる。

顧客との持続的な関係構築

ソリッドベンチャーは、既存顧客との長期的な関係性がビジネス拡大の要になります。顧客満足度を高め、追加ニーズに応える形で新規サービスを提供することで、自然なクロスセルが期待できるのです。

  • サポート体制の充実
    大手ほど予算を投入できなくても、きめ細かなコミュニケーションでリピート率を高める。
  • 顧客の声を新規事業に反映
    現場が抱える課題や要望を汲み取り、そこから新たなビジネスを立ち上げる。

こうした「顧客主導」で新サービスを育てる流れは、まさにソリッドベンチャーの強みを最大化する形といえるでしょう。

これからの起業におけるソリッドベンチャーの価値

大きな資金を集めて短期間でユニコーンを目指すスタートアップが注目を集める一方で、堅実に収益を確保しながら少しずつ拡大していく選択肢のニーズも高まっています。ソリッドベンチャーは、まさにそのギャップを埋める存在といえるでしょう。

  • 起業のハードルを下げる
    はじめから大きなリスクを取らずに、安定収益を確保してからステップアップできる。
  • 長期視点での成長が見込める
    “急がば回れ”の精神で、一度基盤を固めることで、結果的に大きな規模になり得る。

事実、上場企業の多くが「安定ビジネス+ジワ新規事業」というモデルで少しずつ社の規模を拡大してきました。その流れは、決して一過性ではなく今後も続いていくと考えられます。

次の一歩を踏み出すために

ソリッドベンチャーは、スモールビジネスとスタートアップのいいとこ取りをしながら、安定と成長を両立させる手法です。以下のポイントを抑えて、自社のビジネスモデル選択に役立ててみてください。

  1. まずは安定収益源を確立する
    受託事業やコンサルなど、キャッシュフローが読みやすいビジネスで基盤を作る。
  2. 新規事業は段階的に挑戦
    大規模投資の前に小規模テストを行い、顧客の反応を見ながら拡大する。
  3. 必要に応じてM&Aを検討
    時間をかけて自前で育てるより、手堅い企業を買収して一気に領域を広げる選択肢もあり。
  4. 組織力と顧客満足度を重視
    社員の育成や顧客との長期的な関係づくりが、次なるビジネスチャンスを生む。

ソリッドベンチャーの考え方を取り入れることで、無理なく企業を成長させる道筋が見えてくるでしょう。リスクを抑えつつ、新しい可能性に挑み続ける――そんな持続的な進化こそが、これからのビジネス世界での勝ち筋となるはずです。

安定と挑戦が生む、これからのビジネスの形

スモールビジネスの安定性とスタートアップの革新性。その両方をうまく掛け合わせたソリッドベンチャーは、経営者にとってリスクとリターンをバランスよく享受できるモデルと言えます。

いきなり大きく賭けに出るのではなく、まずは堅実な収益基盤を固め、その上で段階的に挑戦を広げていく――このステップを踏むことで、ビジネスが長続きしながら規模を拡大するチャンスを掴めるのです。

もちろん、ソリッドベンチャーにも組織力や市場把握など、多くの課題やハードルが存在します。しかし、着実なキャッシュフローがあるからこそ、そのハードルを乗り越えるための時間とリソースを確保できるのも事実。

大きく勝負をかけたいわけではないが、現状維持だけでは物足りない――そんな多くの起業家や事業会社が、新しい道を切り拓くための有力な選択肢こそが“ソリッドベンチャー”なのではないでしょうか。リスクを制御しながら未来を切り拓く、この現実的なアプローチこそ、これからのビジネスシーンでより一層注目されていくはずです。

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